キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【新隊長】異邦人モリサキ3【始動】

1 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/28(日) 15:26:09 ID:???

本作は恋愛SLG『みつめてナイト』を基にした二次創作です。

騎士の時代が終わりつつある南欧は架空の小国、ドルファン王国。
戦火の迫るこの国に傭兵として降り立った東洋人、森崎有三の体験する
波乱万丈の三年間を描きます。


41 :◆W1prVEUMOs :2012/10/30(火) 20:49:39 ID:???
馬術・体術
SPDを上げつつATKとDEFもカバーしたいです

42 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/30(火) 21:30:04 ID:???
休養 部隊訓練
ガッツは余分にもって置きたいなと思います。部隊訓練は隊長になったのでどんなものなのか観てみたいです。

43 :◆9OlIjdgJmY :2012/10/30(火) 22:49:51 ID:???
馬術 休養
馬術はレヴィンと

ステのバランスとガッツ維持のため。

44 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 19:54:24 ID:???
***

*D26.10月
訓練所イベント



「―――以上が、許商会との先月分の取引概要です。詳細は後ほど書面でご覧下さい。
 では次に、本日の報告に移らせていただきます」

やわらかく秋の日差しが差し込む隊長室。
殺風景な部屋の中に響く淀みのない口調は、内務担当のカイル・マクライオンである。

「編成部より、先のダナン派兵で大きな被害を被った騎士大隊の再編成を行うとのことです」
「……大きな被害、ってーと」

背中に暖かな日を浴びながら執務机に頬杖をついて報告を聞いていた森崎が問いただす。
返答は即座に返ってきた。

「右翼第四大隊、および本隊の第二大隊です。両大隊の損耗率は過半数を超えており、
 部隊としての機能維持は困難であるとの見解から、第四大隊を一時解体し第二大隊へ異動、
 また現存各大隊より中隊規模で第二大隊へ補填するとのことです」
「そらまた……場当たりつーか、なんつーか」
「第四大隊は当面、欠番扱いとなる見込みです。以上で本日の報告を終わります」

森崎の呆れたような感想には口を差し挟むことなく、カイルが手元の資料を閉じる。

45 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 19:55:38 ID:???
「サマになってきたじゃねーか、カイル」
「あ、いえ、その、……あ、ありがとうございますっ」
「……何で仕事から一歩外れるとそうなるんだ、お前?」

苦笑を抑えきれぬ森崎の前で、カイルが少年のような顔を紅潮させている。
こと与えられた任務については完璧に近い仕事ぶりである。
酒保商人との交渉や傭兵大隊の予算管理、軍部との連絡、書類雑務といったものは
既に大方をこの童顔の青年が取り仕切っていた。
管理業務に慣れぬ森崎が丸投げした結果であったが、この形で上手く回っているのだから
問題はなかろう、などと当の森崎は呑気に考えている。

「優秀だよな。よく気がつくし、読み書きも金勘定もできる」
「や、やめてくださいっ」

あわあわと、顔の前で手を振る仕草。
先ほどまで理路整然と報告をまとめていたのと同一人物であるとはとても思えない。

「地元じゃ手代だったんだろ? 何で傭兵なんかに応募しようと思ったんだ」
「テダイ?」
「おっとスマン、商人の手伝い、だ」

怪訝そうな表情を浮かべるカイルに、森崎が訂正する。
うっかりすると慣れた言葉が口をついて出てくるあたり、精神的な弛緩があるのかもしれなかった。
いかんいかん、気を引き締めねば、と内心で反省する森崎を前にして、カイルが口を開く。

「あ、はい。その……えっと」

もじもじと、足先で「の」の字を書くカイル。
急かしても余計に萎縮するか、赤面してまともに言葉が出なくなるかであると分かっていた。
森崎はぼんやりと飾り柱の木目が何に似ているか、などと考えながら待っている。

46 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 19:56:41 ID:???
「その、ぼ、僕はセサの生まれなんです」
「セサ……ああ、トルキアの端っこにある」
「は、はい、そのセサ公国です」

セサ公国。
古トルキア帝国末期、帝国の大貴族であった某公爵が所領の独立を認められた国家である。
面積はドルファン王国の半分程度。
トルキア半島の北西端に位置する、小国家であった。

「セサは、その、土地が良くないですし、対岸のイングランドに睨まれてちゃんとした港もないですから、
 えっと……つまり、すごく貧しい国なんです」
「あー……ま、わかるぜ」

遠い故郷を一瞬だけ思い出して、森崎が頷く。
産業がなく、交易の拠点ともなれない土地は、必然貧しい。

「それに、その、独立したっていっても、今でもトルキア……ヴァン=トルキアの下にいるようなもので、
 税も高いですし、僕の家も暮らし向きは、全然楽じゃなくって」
「おいおい、独立なんざ百年以上も前の昔話だろうよ。まだ影響が残ってるってのか?」
「はい……」

首肯したカイルの顔には笑みが浮かんでいる。
楽しげな笑みではない。
眉尻を下げ、口角だけを上げた、困ったような表情。
それは、諦念である。
泣いても喚いても変わらぬ、厳然たる現実を前にして諦念という鎖に縛り上げられた心の、
人の内側から滲み出すような、顔であった。

47 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:02:28 ID:???
「ヴァン=トルキアからの荷がなければ、小麦も塩も手に入りません。
 石材も木材も、布だってセサの国の中で賄うには全然足りません。
 どれだけ高くたって、僕らはそれを買うしかないんです。止められたら、飢えて死ぬだけです」

セサという国の人間は、きっと皆、こうやって笑うのだろう。

「トルキアに人を出せと言われたら、セサの男たちは駆り出されます。
 それが戦でも、麦の刈り入れでも、安い賃金でいいように使われます。
 だけど、仕方ないんです。……女たちよりは、幾分ましですから」
「……」
「僕たちは、そうやってトルキアからお金を落としてもらって、そのお金で
 トルキアの小麦を買います。何も残らないけど、今日を生きていくことはできます」

静かに言ったカイルが、

「……あ」

森崎の神妙な顔に気づいて、再び頬を紅潮させる。

「す、すいません! ぼ、僕、つい変な話を……!」
「いや、聞いたのは俺だからよ」
「あの、それで、手伝いをさせてもらっていたお店の人が亡くなって、それで、
 は、母を食べさせていかなきゃいけなくって、どうせ外に出稼ぎに行くならって」

慌てたように言うカイルを手で制して、森崎が口を開く。

「実入りのいい仕事が、これだったってか」
「は、はい!」

こくこくと、何度も頷くカイル。

48 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:03:45 ID:???
「おっ母さんのためなら、か。孝行息子だな、お前」
「母は、女手ひとつで僕を育ててくれましたから……当然です」

そう言うカイルの栃色の瞳には、心からの慈しみが溢れている。
先ほどまでの乾いた笑みとは打って変わったその目に、森崎がカイルを招き寄せると、
いくさ働きには到底向かぬ細い肩をぽんと叩いた。

「なるほどな……ま、俺も頼りにしてるからよ、給金は弾むぜ」
「あ、ありがとうございます! 僕、一生懸命働きますっ!」

深々と礼をした拍子、秋の日に照らされて、さらさらとした栗毛が輝いた。


******

49 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:04:46 ID:???

//部隊訓練


「―――おい、そこ! そうだ、赤毛のお前だ、ちょっと横見てみろ!
 ……分かったか、前に出すぎてんだよ! 狙い撃ちにされてえのか!」

森崎の怒声が響き渡るのは、広大な運動場である。

「だああ、違う違う! 盾の隊列を崩すんじゃねえ! テメエが守るのは隣の奴だっての!
 逆隣の奴がテメエを守るんだよ! 一箇所でも穴開けたらそこから崩れるんだ、忘れんな!」

九月に入隊した新兵の内、歴戦を重ねた者はほんの数えるほどである。
その他のほとんどは初陣どころか軍事教練など受けたこともない、素人の集団だった。
それも力自慢の荒くれ者揃い、話を聞かぬ列を作らぬ合図を覚えぬ、放っておけばそちらこちらで
喧嘩を始める始末である。
彼らを一人前には届かずとも、少なくとも軍事単位として行動ができるまでにまとめ上げるのが、
隊長として森崎の成し遂げねばならぬ難題であった。

「そこの馬鹿! テメエ、今の太鼓は『止まれ』だ! よし分かった、そんなに走りたきゃ
 今から日が暮れるまでに外周10回、ほら好きなだけ走れ! ……あァ!?
 ……おう、いい度胸だ、なら胸を貸してやる、遠慮しねえでかかってこい!」

教練開始から一週間。
新兵たちの意識改革には、まだ暫くの時間がかかりそうだった。


※部隊練度が20上がりました。
ガッツが30減少しました。

******

50 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:06:12 ID:???

//休養


「くぁ……ちくしょう、久々の休みだってのに、メシを食いに出る気力もねえぞ……」
『うわあ……』

寝台の上に突っ伏した森崎の姿は、さながら馬車に轢き潰された蛙である。
体の芯に鉛でも詰め込まれたような倦怠感に、身を起こすのすら億劫だった。

「人にあれこれ言うってのは、自分の体を苛めるよりよっぽど堪えるな……」
『大変だねえ、隊長さんも』
「他人事だと思いやがって……くそう」
『そんなことないけどさ。まだ若いんだから、シャキッとしなよ、キミ』

呆れたようにどんよりとした顔の前へ舞い降りたピコが、鼻歌交じりに前髪を弄り回して遊ぶのを
追い払おうとする手にも力がない。
ぼんやりと小さな相方の悪戯を見る森崎の瞼が、その重さに負けたように次第に垂れ下がっていく。

「ハラ……へった……な」

もごもごとした呟きは、すぐに小さな寝息に変わった。
こうして森崎は、貴重な一日を寝て過ごしたのである。


※ガッツが100回復しました。

現在のガッツ:165
剣術:146 馬術:66 体術:62 魅力:78 評価:84
ATK:212 DEF:218 SPD:128 ini:25

******

51 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:07:21 ID:???

皆様、ご回答ありがとうございます。
ご覧の通り、コピペの順番を間違えてイベントテキストが先になってしまいました!
本来、このレスが>>44の前に入ります。
お恥ずかしい限りです……。

気を取り直しまして。
それでは早速、>>39-40の選択については……

>>42 さら ◆KYCgbi9lqI様の案を採用させていただきます!
そろそろガッツが黄色信号ですからね。
また部隊訓練もこの辺りで消費と上昇値を見ておいた方が戦略も立てやすくなるでしょう。
CP3を進呈いたします。


>>41
今のパラメータは剣術が突出していますからね。
バランスを取っていくのもいいと思います。
ただ、個人訓練の場合は「誰と訓練するか」も付記していただければ幸いです。
初回の訓練からはちょっと手順の変わった部分でして、混乱させてしまって申し訳ないのですが、
何卒よろしくお願いいたします。

>>43
レヴィンとの訓練を選ばれたのはちょっと意外……と思いましたが、カルツも先月で
お披露目が終わっていますし、順番からいけば彼ですよね。

52 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:08:26 ID:???
******


*D26.10月 「気のいい傭兵団のエース」森崎有三
メインイベント

『才気』


マルタギニア海の沿岸は、欧州の中でも温暖な気候で知られている。
その一端に連なるドルファンも例外ではなく、冬の雨は多いものの、雪が降ることは
十数年に一度という程度である。
とはいえ無論、常夏というわけにはいかない。
夏が過ぎれば短い秋と長い冬が待っていることに変わりはなかった。

「うぅ、さすがに朝晩は冷えるようになってきたな……」
『……爺むさいよ、その姿勢。ていうかそんなカッコしてるからでしょ』

ピコが白い目を向けるのは背を丸め、腕で体を抱くようにして歩く森崎有三である。
言われた森崎はといえば、半袖の麻シャツから剥き出しの腕を擦りながら相方から目を逸らしている。

『風邪ひいたって知らないんだからね』
「へいへい、っと……いっくし!」
『ほら、言わんこっちゃない。……あれ?』

呆れたようなピコが、ふと何かに目を留める。
つられて目をやった森崎が、眉根を顰めた。

「……何してんだ、あれ」
『さあ……事故かな』

53 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:09:27 ID:???
ひそひそと言い交わす森崎の行く手にあったのは、まるで道を塞ぐように横付けされた馬車である。
兵舎のあるシーエアー地区からフェンネル地区の訓練場に続く閑静な道のこと、
何か近隣に用があって停まっているわけでもあるまいと思いながら見やった馬車は、
近くで見ればひどく豪奢なものだった。
全体を純白に塗られた車体は、森崎もよく目にする粗末な乗合馬車とは比べ物にならない。
精緻な計算のもとに施された彫刻が白い車体を彩り、まるで羽ばたく鳥のようにその全体像を錯覚させる。
金の縁取りはよもや真物かと思わせる重厚な煌めきを陽の下に晒していた。
引く馬も見事な体格の芦毛が二頭。
肉付きといい毛艶といい、一級品の素材を最高の厩舎が磨き上げていることは明らかだった。
無駄に嘶くこともなく、どっしりと構えたその威容は軍馬を扱う森崎から見ても文句のつけようがない。

「羨ましいぜ、実際。一頭くれねえかなあ」
『さもしいよ!』

言いながら、道幅のほとんどを埋めるように停車しているその馬車の脇を抜けようとした森崎の背に、
低い声が刺さる。

「―――やらねえよ馬鹿野郎」
「うわっ!?」

突然の声に、思わず飛び上がる森崎。
いかに油断していたとはいえ、森崎はいくさを生業とする男である。
背後に誰かがいれば、大抵は察知できるつもりでいた。
しかし今、声の主は全く気配を感じさせなかったのだった。

「誰だ!?」

反射的に身構えながら振り返った森崎の目に映ったのは、

「……おん、な?」
「オイ手前ぇ、いま一瞬迷っただろ」

54 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:10:27 ID:???
乱暴に言い放って森崎を睨む、その姿はよくよく見れば確かに女性である。
灰色がかった銀髪を長く伸ばした顔立ちは、むしろ美人といってもいい。
しかし、森崎が迷ったのも無理はなかった。
獰猛とすら言えるような目で森崎を睨みつける彼女の出で立ちはといえば、
糊のきいた純白のカッターシャツに黒のベスト、胸元にはベルベットでできた臙脂のリボンタイ。
そして何より、その足を覆うのはスカートではなく、すっきりとしたラインの黒のパンツであった。

「あ? 女がこんな格好してちゃ悪いのか?」
「いや……悪いってんじゃ、ねえけどよ」

戸惑う森崎が言葉を濁す。
苛立たしげに踏み鳴らす足元も、丹念に磨き上げられた黒の革靴だった。
有り体に言って、富裕な家のバトラーであると主張するような服装である。
が、森崎の知識の中にある限りでは、女性のバトラーや家令など聞いたことがない。

「……」
「……チッ、まあいい」

困惑が顔に浮かんだのが見て取れたのか、女性が露骨に舌打ちして首を振る。
しかし次に出た言葉は、胸を撫で下ろした森崎を再び驚愕させるのに充分であった。

「ユーゾー・モリサキってのは、お前だな」
「なにィ!?」

名指しである。
いかな先月の収穫祭で名が売れたとはいえ、全くの見知らぬ他人からその名が出るとは思わなかった。

「お、俺ってそんなに有名人なのか?」
「は? 何言ってんだ、手前ぇ」

思わず訊いてしまった森崎が、一刀両断にされる。
猛禽類を思わせる灰色の鋭い目が、心底から呆れ返ったように森崎を射貫いていた。

55 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:11:28 ID:???
「……じゃあ、どうして俺の名前を」
「用があって捜してたんだよ。っと、勘違いすんじゃねえぞ」
「……?」
「用があるのはオレじゃない。……あっちだ」

すげなく言った女性が、す、と滑るように歩むと、馬車の扉に正対する。

「お嬢さん、間違いないみたいだぜ」

声は、馬車の中にかけられたものである。
僅かな間を置いて、くぐもった声が返ってくる。

「……そう。開けなさい」
「へいよ、っと」

気の入らぬ声音とは裏腹に、馬車の扉を開けようとする女性の仕草は洗練されている。
隙がない、と言い換えるのが正しいのかもしれない。
背後を取られたのに気づけなかったことを思い出し、渋面を作る森崎の目の前で
軋みひとつ立てずに扉が開いていく。
純白の扉の中は落ち着いた赤を基調とした布張りである。
垂れ下がる壁掛けの複雑な文様、美しい茜色は更紗だろうか。

「―――」

その、小さな赤い世界を睥睨するように座る女がいる。
纏うのは蒼。
どこか、ソフィアやハンナの通う学園の制服を思い起こさせる意匠である。
見慣れぬ仕立てだが、ゆったりと身体を包みながらもその動作を阻害しないよう
細心の注意が払われた、いかにも一品物といった完成度の高さがそこにあった。
膝丈のスカートの下から伸びる足の白さに森崎の目が釘付けになったのは、馬車の車高で
ちょうど目線の正面近くになったからばかりではあるまい。
少女の、脚である。

56 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:12:30 ID:???
ハリに満ちた、どこまでもしなやかな肉付きは成熟した女のそれではあり得ない。
一目、その魅力に心奪われ、二目、その鍛え方に瞠目する。
神のたわむれに描いた曲線の如きふくらはぎから純白の三つ折靴下に隠された踵の腱へと至る
筋に秘められるのは、少女というものが元来持つ、微かな熱と沈み込むようなやわらかさではない。
そこにあるのは、凝集された力の結晶である。
無理やりに鍛え上げた醜い塊ではない、匠の手で研ぎ上げられた刀の如き筋肉が、
理想的な長さと太さを併せ持つ脛骨にふわりと覆いかぶさっている。
腿が見たい、と思った。
ごく自然な心の動きに、一切の邪念はない。
そこにあるのはただ武芸を志す者として完成された肉体という概念を目にしたい、
そういう純粋な感情で、

「……」

見上げた先で、悠然と笑む少女と目が合っていた。
少女が、森崎を見下ろしたまま、言う。

「気は済みまして?」
「……はい」

こくこくと、壊れた水飲み人形のように頷く森崎に同情を寄せる者は、この場にはいなかった。

「聞いていたのとは少し違うようですが……とにかく、モリサキさん、ですわね」
「あ、ああ……」

少女の口からも、やはり森崎の名が出る。
居心地の悪さに曖昧に頷いた森崎に、少女が席を立つこともないまま口を開いた。

「単刀直入に伺います。ハンナ・ショースキーは御存知ですわね」
「え……?」

57 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:13:38 ID:dUOJLR82
今度こそ、森崎が困惑する。
自分の次は、ハンナ。
話の流れも、相手の意図もまったく読めないのを不気味に思った森崎が―――


*選択

A「さ、さあ……」 とぼけてみる。

B「知ってるといえば、知ってるが……」 一応、答えてみる。

C「綺麗な、脚だな」 欲望に忠実になってみる。(必要CP:5)


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『11/2 1:00』です。


******

ようやく最後のヒロイン候補登場、といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。


58 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/11/01(木) 20:42:38 ID:???
こっちの素性を完全に知られてる以上、嘘をつく理由が何もない。
あと別スレで学んだけど、【権力持ってる相手と対立するならちゃんと準備してから】だよ。
思いつきで対立するとひどい目にあう…まあ流されるだけでもひどい目にあうけどw

59 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/11/01(木) 20:47:52 ID:???
…しまった、投票忘れてた。投票はBです。

60 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/01(木) 23:21:54 ID:???
B向こうはこちらの事を把握してますから、隠す必要はないかなと思います。
森崎ならハンナのライバルだなぐらいの事は気付くのではないかと思います。

61 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/06(火) 19:06:00 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>57の選択については……

>>60 さら ◆KYCgbi9lqI様のご回答を採用させていただきます!
そうですね、状況的に相手が誰なのかは察知してもおかしくありません、ということで
その辺りを本編に反映させていただきました。
CP3を進呈いたします。


>>58-59
はい、この相手はともかく、本当に危険な相手にノリや思いつきで喧嘩を売っていくのは
猛獣に徒手空拳で挑むようなものですね。
そういった行動に対してご都合主義的フォローは入りづらいので、気をつけたいところです。
勿論、状況を見て戦力差を判断し、それを埋める策を用意した上で挑むのであれば別ですけど。
負けられない戦いは、負けないようにして勝ちましょう!

62 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/06(火) 19:07:01 ID:???
***

B「知ってるといえば、知ってるが……」


誤魔化しても無駄だと判断し、森崎が答える。
調べをつけた上で問うているのは、単なる枕詞か、それとも何かを試しているのか。
そもそも名指しでこちらを捜しあてたという相手だ。
組織力、資金力には疑問を差し挟む余地がない。
言葉を濁したのは相手の意図が読めないからだが、しかし森崎の返答に馬車の中の少女は
小さく首肯しただけで悠然とした笑みのまま、眉筋ひとつ動かさない。
埒が明かない、と内心で舌打ちした森崎が、一石を投じるべく口を開く。

「そういうあんたは……リンダ・ザクロイド、か?」
「あら、わたくしをご存知でしたの」

少女の、成熟した女性を思わせるような切れ長の目がぴくりと動く。
やはり少女はリンダ・ザクロイド。
ハンナが唯一勝てないという、国内最速の女で間違いないらしい。
投じた石の、水面に起こした波紋を確認して森崎が首を振る。

「いいや、俺はハンナからそんな奴がいるって名前を聞いていただけだ」

思わせぶりに、ちらりと目線を送る。
少女、リンダは先を促すような視線を返してきた。
幾ばくかの興味を引くことには成功したらしい。

63 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/06(火) 19:08:02 ID:???
「ただザクロイドといやあ、この国の燐光石市場を仕切ってる大商人だ。
 外様の俺でもそこかしこで聞く名前だからな、さすがに引っかかってたんだよ」
「……」

一瞬、リンダの表情が曇ったように見えた。
大商人、と森崎が口にした刹那のことである。
ほんの僅かに下がった眉尻は、しかし森崎が目を凝らして確かめるより早く、元に戻ってしまう。
気にはなったが、しかしおくびにも出さず言葉を続ける森崎。

「そこへ、そのすげえ馬車ン中からお嬢様が出てきて唐突にハンナのことを訊かれたわけだ。
 そんな金持ちの心当たりはあんたしかいなかった、ってことさ、リンダお嬢さん」
「……」

言い終え、肩をすくめてみせた森崎をじっと見ていたリンダが、す、と手を動かす。
どこから取り出したのか、白い指に摘まれていたのは豪奢な扇である。
薄紫の絹張りにレースの装飾、縁を彩る毛皮の純白は白貂だろうか。
それ自体がひとつの作品と呼べるような扇が、リンダの口元を隠すように広げられる。

「多少の目端は効くようですわね。無礼な物言いには目を瞑りましょう」
「そりゃどうも。……で、何の用だい」

扇で口元を隠されれば、表情は途端に読めなくなる。
なるほど上流階級かと感心しながら森崎が問い返すと、リンダが目を細めて言う。
もとより細く切れ長の瞳が下弦の月のように弧を描くその様は、銀色の長い髪も相まって、
どこか伝説に謳われる狐を連想させる。

「ハンナ・ショースキーに今の練習を指示したのは貴方、ということですが」
「……」

蒼を纏う狐が、断言する。
どこから調べたのか見当もつかないが、あるいはハンナ自らが聞かれるままに答えた可能性もあるか、
などと考えていた森崎の沈黙をどう捉えたのか、リンダの瞳が僅かに気色ばんだように見えた。

64 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/06(火) 19:09:02 ID:???
「あの娘、貴方の言葉を真に受けてそればかり練習してましてよ。
 毎日毎日、体力任せの追い込みばかりで技術を磨く気配もありません」

言葉にするうち苛立ちが増してきたのか、リンダの声音は次第に厳しいものになっていく。

「飾らずに言いますわ―――あのままでは、わたくしと勝負になりませんの」

傲然とすら呼べる言葉を、しかしリンダ・ザクロイドという少女は一片の迷いも驕りもなく言い放つ。
彼女の口から出るとき、それは単なる事実なのであろう。
そんな風に、耳にした者すべてに思わせる響きがあった。

「歯がゆくてよ、ユーゾー・モリサキ」

しかしまた同時に少女の目は、そんな事実の存在を許せぬとばかりに激しい炎を宿している。
ぎり、と手にした扇の骨が軋む音が聞こえた。

「わたくしは、わたくしを超えようとするものにその全力を要求します。
 そうでなければならないと、わたくしはこの世の条理を差配しますわ、モリサキ」

リンダの瞳は、その名を呼びながらも既に森崎を見てはいない。
その目から燃え上がった炎が銀色の髪を伝い白い喉を焼いて漏れいづるような、それは言葉である。
少女が、ついには赤い布張りの椅子から腰を浮かしかけたとき。

「お嬢」

短く声をかけたのは、それまでじっと馬車の扉の脇に立っていた黒服の女性である。
効果は覿面だった。

「……失礼、つい取り乱してしまいましたわ」

65 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/06(火) 19:12:09 ID:6O72Var6
冷水を浴びせかけられたように、はっと女性を見やったリンダが、すぐに表情を消す。
代わりに浮かんだのは、元通りの悠然とした笑みである。
その変遷を見やって小さく息をついた森崎が、ゆっくりと二呼吸ほどを置いてから口を開いた。

「……で、結局あんたは何が言いたいんだい。用がないなら仕事に行きたいんだが」
「モリサキさん。貴方、責任持ってあの娘をしつけ直してくれませんこと?」

明快な即答だった。
対する森崎はといえば―――



*選択

A「わかった、引き受けよう」 安請け合いする。

B「気にはかけておくさ」 やや肯定的に答える。

C「こう見えて忙しい身なんだ」 否定的に答える。

D「心配しなくても、あいつはいつも全力だぜ」 話をそらす。

E「報酬でも出るのか?」 即物的に答える。


66 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/06(火) 19:14:28 ID:6O72Var6
森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『11/6 24:00』です。


******

妙な部分でレスが切れてしまい失礼いたしました、といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

67 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/06(火) 23:22:45 ID:???
Bハンナにアドバイスしたのはハンナがあまりにも酷い練習や心構えをしてたからだ。
一応アドバイスした以上多少気には懸けるが正式なコーチになるつもりはないし出来ない。
それに自分は傭兵だと付け加えたいです。

68 :◆9OlIjdgJmY :2012/11/07(水) 00:55:02 ID:???
投票機会を逃してしまいましたけど
「それは人にものを頼む態度じゃねえだろ」とか
「ハンナの知らないところでアンタが敵に塩を送っちゃダメだろ」とか
いろいろツッコミどころが多いお嬢さんだと思いましたw

69 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/09(金) 19:58:03 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>65-66の選択については……

>>67 さら ◆KYCgbi9lqI様のご回答を採用させていただきます!
そうですね、素人が正式なコーチになると安請け合いしたところで、本作の世界には
ネットもなければ陸上の教本が売っている本屋さんもありませんからね……。
台詞の付け加え、多少アレンジしつつ本編に組み込ませていただきました。
CP3を進呈いたします。


>>68
ツッコミどころ、山ほど搭載してますねw
まあ、たぶん頼みごとをしているという意識はないんですよあの人。
一般的なラインからエキセントリックな方向に踏み出しているという意味では、
ヒロインズよりもむしろ傭兵たちの方に近いメンタルの持ち主かもしれません。

70 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/09(金) 19:59:40 ID:???
***

B「気にはかけておくさ」 やや肯定的に答える。


明言も確約もする気はないと言下に匂わせながら、さりとて正面から否定することもしない。
我ながら煮え切らぬ態度だ、と内心で苦笑する森崎の、しかしそれは偽りなく本心に近い。
自分には専門的な技術も知識もない、何よりそれに割ける時間がない。
しかしハンナのことを頭から無視することもまた、できなかった。
できる限りのことはしてやりたいと思うが、できることはもうやってしまったと、森崎は考えている。
それはつまり、後は遠くから見守るだけということに等しい。

「……」

すわ激昂するかと見上げた馬車の中の少女は、しかし意外にも静かに森崎を見ていた。
手にした扇が、二度、三度と開かれては閉じる。
絹の擦れる微かな音が、爽やかな朝の空気に混じってひどく長閑に響いた。
四度目に開いた扇で口元を隠して、リンダがようやく声を出す。

「貴方は、傭兵でしたわね」
「ああ、俺は傭兵でね」
「わかりましたわ」

短いやり取りは、しかし必要十分な重みをもって双方を首肯させた。

「時間を取らせてしまいましたわね」
「この程度なら構わんさ。半日がかりで練習に付き合わされたわけじゃねえ」

71 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/09(金) 20:00:45 ID:???
諧謔は、しかし少女には通じなかった。
眉筋一つ動かさぬまま、リンダが問う。

「祭典には、おいでになって?」
「ああ、そのつもりだが」
「では、その折にまたお目にかかりますわ。月桂の冠を戴く者として」
「剛毅な話だ」

月桂冠といえば、古来より各種競技の優勝者にのみ贈られる栄光の証だった。
紫水晶色の瞳を細めた笑みは、己が勝利を微塵も疑わぬ自信と自負とに満ちている。
しばらくそうして森崎を見つめていたリンダが、やがて満足したように視線を移した。
はたりと、扇が畳まれる。
それが合図であったかのように動いたのは、黒服の女である。

「ジーン。いいわ、出して」
「へいへい、お嬢様。閉めますよ」

ジーンと呼ばれた女が投げやりな言葉とは裏腹に洗練された所作で馬車の扉を閉めると、
赤の世界が、蒼を纏う少女と共に、白の装飾の向こうへと消える。
外鍵をかけると、御者台に乗り込んだのはジーンであった。
慣れた仕草で手綱をとって、微動だにしない芦毛の馬たちの尻をひと撫で。

「さ、仕事に戻るぜ、お前たち。……どいてくんな!」

愛おしむように口にした前半は、手綱の先にいる馬たちに。
乱暴に言い放った後半は勿論、馬車の傍に立つ森崎に告げたものである。

72 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/09(金) 20:01:45 ID:???
「そらっ!」

掛け声一閃、堂々たる体躯の馬たちが統制の取れた動作で歩み出す。
引かれた馬車の車輪が、石畳を噛んでごとりと鳴った。
美しい純白の車体は、見る間に遠ざかっていく。

『さ、仕事に戻るよ、キミ』
「……ああ」

ふわりと肩に降りてきた相方の、ジーンの声真似をしてみせたのに答える森崎は
狐に摘まれたような顔で歩き出すのだった。


******


※称号が『親切な傭兵団のエース』になりました。
 人物称号の変動のため、スキルの獲得はありません。


******

73 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/09(金) 20:02:47 ID:???
***

数日後のことである。

「よう、乗ってかねえか」

疲れた体を引きずるように歩く森崎にそんな声がかけられたのは、傾いた陽ももう幾ばくかで
城壁にかかろうかという、セリナ運河沿いの道端であった。

「んあ……?」
「おいおいおい、傭兵団の隊長さんがそんな間抜け面してんじゃねえよ。オレだよ、オレ」

振り返った森崎の眼前にあったのは、人の顔ではない。
灰白色の長い鼻面、つぶらでありながら理知的な瞳、そして奇妙に饐えた臭い。

「……馬?」
「こっちだ、こっち」

芦毛の馬面が、ふるると湯気の出るような鼻息を森崎に吹きかけた、その斜め上方。
手綱を伝って視線を移せば、森崎の背より高い位置に腰掛けて親指で自らを指していたのは
長い銀髪に鋭い眼差し、そして男装に身を固めた麗人だった。
乗っているのは、やはり先日と同じ白い馬車の御者台である。

「……ああ。確か……ジーン、とかいったか」
「うわ」
「何だよ」
「オレ、お前に名乗った覚えねえぞ」

鷹のような目が細められ、じとりと森崎を睨む。
心なしか上体も森崎から遠ざかるように反らされているように見えた。
森崎が、ほとんど反射的に取り繕う。

74 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/09(金) 20:03:59 ID:???
「いや……こないだ、お前ンとこのお嬢さんがそう呼んでただろ、それで」
「うへえ」
「だから、何だよ!」
「お前、女の名前だけは一度聞いたら忘れない方のヤツか?」
「あのな……こっちは疲れてんだよ、喧嘩なら他所に売ってくれ。じゃあな」

ため息をついて片手を上げた森崎が、踵を返す。
途端、慌てたような声が背中に降ってきた。

「ああ、待て待て! 悪かったよ!」
「……」

森崎と並ぶように、芦毛の馬体が一歩進む。
うんざりしたように見上げる森崎に、ジーンが取り成すように口の端を上げた。

「兵舎に帰るんだろ? 疲れてんなら余計にさ、途中まで乗っけてやるから」
「いや、メシ食いにキャラウェイ通りまで寄ってくつもりだが……」
「ならそこまで送るからよ! ほれ、ここ座りな」

ばんばんと、ジーンが掌で叩いたのは板張りの御者台である。
己の隣を示す彼女に、森崎は―――


75 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/09(金) 20:05:45 ID:c7UWe0nE

*選択

A 「……わーったよ」

B 「いや、それは悪いだろ」

C 「なら客席に乗せてくれ」


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『11/9 24:00』です。


******


本作のジーンはヒロイン候補ではありません、念のためw
といったところ、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

76 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/09(金) 21:34:13 ID:???
【ピココール】
彼女の目的はなんだと思う?深い意味があると思う?

77 :ピコ ◆ALIENo70zA :2012/11/09(金) 22:26:06 ID:???
>>76
うーん…まあ、親切で言ってくれてるわけじゃあないだろうねえ。
そんなに悪い人には見えないけど、知り合いってほどの仲でもないしね。


78 :◆9OlIjdgJmY :2012/11/09(金) 22:59:55 ID:???

まあリンダ関係でなんかあるんでしょうが、警戒するようなとこでもないと思うので。

こっちがヒロインじゃないんだ、残念w

79 :◆W1prVEUMOs :2012/11/09(金) 23:17:33 ID:JLVj1x3Q

ヤバそうなの以外は積極的に巻き込まれるてみる

80 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/09(金) 23:21:04 ID:???
B少しは警戒した方が良いかもね。

81 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/10(土) 13:12:29 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>75の選択については……

>>78 ◆9OlIjdgJmY様のご回答を採用させていただきます!
はい、まだリンダシナリオの導入ですし、いきなり罠選択肢というわけではありませんね。
変わったばかりの人物称号が揺れることはあるかもしれませんけど。
CP3を進呈いたします。

ジーンはシナリオプロットも用意しておりませんが、事件も何もなしでただ一緒に出かけて
ワイワイするとかお酒を呑むとか喧嘩するとかそれなりの関係になってみるとか、だけでよければ
チャレンジで可能ということにしておきますw

……あれ、もしかしてそっちの方が需要あるんじゃ……
そのうちGMは考えるのをやめた。


>>79
そうですね、親虎のいびきが聞こえるような穴でなければ積極的に入っていくのもいいと思います。
中盤以降はヤバげな選択も次第に増えてくるかもしれませんが……!

>>80
今回は特段の危険はありませんでしたが、引っ掛かりを覚えたらピココールというのは
極めて確かな攻略手段だと思います。
ロールバックのない本作では転ばぬ先の杖が重要ですからね。


82 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/10(土) 13:13:30 ID:???
***

A「……わーったよ」


ジーンの強引な誘いに、半ば諦めるように森崎が肩をすくめる。
途端、ジーンがにかりと笑う。

「よっしゃ! じゃ、そっちから上がってこいよ」

その笑みは、しっかりと化粧をすれば男たちを一網打尽にできるような整った顔立ちを崩すような、
どちらかと言えば男臭い笑い方ではあったが、ジーンという女にはそれが妙に似合っている。
決して男装のせいばかりではない、彼女らしさというものに近いのだろう、などと考えながら
森崎が踏み板から御者台に上がる。

「ほいよ、っと……結構高いんだな」
「そりゃ周りが見えねえと危ないからな」

言われ、改めて周りを見回す森崎。
なるほど確かに、高い視点からの世界はいつもより遥かに広く感じられる。

「アトレ、スオウ、ちょっと余計な荷物を載せるぜ。我慢してくれよな」
「ちぇ、ひでえ言われようだぜ」
「はは、まあこいつらにとっちゃお前一人なんざ軽いもんだけどな」

言って前方、ふるりと長い尾を揺らす馬たちを見やったジーンの目は、
ほとんど慈愛と呼んでも差し支えないような優しさを湛えている。

83 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/10(土) 13:15:11 ID:???
「……へえ」
「あ? どうかしたか」
「いや、なんでもねえよ」
「変な奴だな。……出すぞ、落ちんなよ」

右の一頭、アトレと呼ばれた方はそんな目線を知ってか知らずか、耳をくるりと動かして歯を剥いた。
左のスオウは我関せずとばかりに鼻を鳴らしている。
ジーンが手綱を軽く揺らすと、そんな二頭がぴたりと揃って歩を進めるのだった。


***


がたごとと、車輪が石畳を噛むたびに体が揺れる。
高級な馬車の面目躍如というべきか、乗合馬車とは比べ物にならないほど微かな揺れではあったが、
それでもまったくの静謐というわけにはいかない。
直接乗馬するときのように縦に揺られる感覚ではなく、微妙に一定でない加速が体を前後に揺らす。
睡魔を誘うようなリズムである。

「……」

訓練による披露が泥のようにこびりついた身体には、まさに甘美な毒であった。
こくりと、つい船を漕ぎそうになる森崎。

「うわ、おいばか寄っかかんな」
「……ああ、すまん」

御者台は本来、一人用の仕事場である。
見栄のためか、それとも他に何か実用性があるのか、比較的大きなスペースを取ってあるこの馬車のこと、
ひどく狭苦しいということはないものの、二人が並んで座ればどうしても互いの体温を感じるような
距離にならざるを得ない。
微かな温もりがまた森崎を微睡みへと誘おうとしたとき、ジーンが口を開いた。

84 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/10(土) 13:16:12 ID:???
「この間は済まなかったな」
「……この間?」

僅かな間を置いたのは、小さな欠伸を噛み殺したせいである。

「ああ、どっかの男装美人が出会い頭に因縁つけてきたことか」
「うちのお嬢がいきなり突拍子もないこと言い出して、だ。ぶっ飛ばされてえのかこの野郎」

ぶっきらぼうに言い放ちながらも、ジーンの口元は上がっている。
どうやら今日は機嫌がいいようだった。

「というかお前、朝弱い方のヤツか?」
「あァ?」

唐突な言葉に、ジーンが怪訝な顔をする。
先ほどの意趣返しだと気づかれる前に、森崎が先を促した。

「で、こないだがどうしたって」
「ああ。や、悪気はねえんだ、お嬢には」
「だろうな」

適当な相槌。
しかし半ばまではその通りであろうとも思っている。
リンダという少女の瞳や言葉に、悪意や嘲弄の響きはなかった。

「ただ、まあ……どうにも言葉が足りねえ。それでよく相手を怒らせちまってな」
「はは」

思わず失笑する。
直截すぎる物言いは、森崎自身が経験したことである。

85 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/10(土) 13:17:23 ID:???
「なまじ頭が回りすぎるんだな。だから二手、三手先だけ見て話をしちまう。
 次の手を選ぶ余地がねえなら、口にする意味もねえとか考えてんだ」
「……」

がたん、と車体が揺れた。
前を行く馬、アトレとスオウはぶるりと尻を振るのみで、特に気にした風もない。

「あのお嬢さん、困ったことに相手もそれができて当たり前だと思っててな」
「難しいだろうな」
「難しいよ。だが前置きも説明も斟酌もねえ。先回りして次の選択肢だけ相手に放り投げる悪い癖が、
 いくら言っても治らねえ。お嬢にとっちゃチェスか何かと同じ括りなんだ、相手と話すってのは」
「……そりゃもう、会話じゃねーだろ」
「じゃねえな、実際」

苦い笑みが、声音にまで滲んでいる。

「お前もこの間、無茶な頼みごとを押し付けられたと思っただろ。勝手なこと言いやがって、とか」
「まあな」
「お嬢としちゃな、ありゃ交渉のテーブルを用意したつもりなんだ」
「……はァ?」

さすがに看過できず、疑念を漏らす森崎。
先日の一件は指示や命令、強要の類ではあっても交渉と呼べるものではないと、記憶が告げていた。
ジーンがちらりと森崎を見て、薄い唇を歪める。

「まあ、言いたいことはわかるぜ。……つーか、いつものことだからな」
「……」
「お嬢……いや、ザクロイドの人間が生きてるのは、打算と腹芸と算盤勘定が服着て歩いて、
 年がら年中互いの足を引っ張り合ってるような世界でよ」

冷たい風は、歩くよりも強く森崎の顔に吹き付ける。
肩に伝わる微かな温もりだけが、救いだった。

86 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/10(土) 13:18:24 ID:???
「ま、そんな連中の常識じゃ、無理も無茶もまず単に様子見でふっかけてるだけ、
 鵜呑みにする奴が馬鹿ってなもんでよ。袖にするフリされるフリ、段々と見返りをチラつかせて、
 ようやくそこから話が始まるってわけだ」
「……」

ふん、と息をつく森崎。
言葉を返すことはない。

「あん時、お前があっさり話を蹴ったのも……蹴ったんだよな? まあ当然だとは言ってたぜ。
 今の時点で、しかもあの要求でザクロイドが用意できる対価は、お前の立場じゃ大した益がねえ。
 実は交渉の材料がありませんでしたの、なんて笑ってやがったよ」
「……何だそりゃ」
「ま、そんな顔すんなって」

森崎の渋い顔に、ジーンが破顔する。

「直感だか計算だか知らねえが、あれで顔繋ぎの印象は悪くなかったってことみたいだぜ。
 俺としちゃ、単に面倒を避けただけって札に銀貨一枚だがよ」

悪戯っぽく言うジーンに、森崎は―――

87 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/10(土) 13:21:19 ID:/ZNkLYhM

*選択

A「……さてね」 煙に巻く。

B「俺の勘も捨てたもんじゃねえな」 勘だという。

C「ま、そんなとこだろうとは思ってたよ」 計算だと主張する。

D「大当たりだ。ほれ、持ってけ」 銀貨を取り出す。


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『11/10 24:00』です。


******


こんな感じで10月はあっさり目に過ぎていきます、といったところで
まだ早い時間ではありますが、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
お付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

88 :◆W1prVEUMOs :2012/11/10(土) 15:20:27 ID:x6/rndoU

勘ピューターのスキルがゲット出来れば有利かもと思い

89 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/10(土) 21:14:57 ID:???
B傭兵が最後に頼るのは勘と言うか嗅覚ですからね。

90 :◆9OlIjdgJmY :2012/11/10(土) 23:59:09 ID:???
A まあ実際、勘でも計算でもなく、正直な心情喋っただけですし。

91 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/13(火) 19:26:17 ID:???

皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>87の選択については……

>>90 ◆9OlIjdgJmY様のご回答を採用させていただきます!
ですよねー、ということでズバッと斬っていただきましたw
CP3を進呈いたします。


>>88
スキル名:勘ピューター Lv1
種別:パッシブ
消費ガッツ:-
効果:行動判定の際に! numnumダイスを振り80以上が出れば結果が一段階良くなる。
69以下の場合は結果が一段階悪化する。この判定にはCP/EPによる数値加減ができない。
成功時に経験値が加算され、一定値が貯まるとLvアップする。
イベントで『ミスター』と呼ばれる偉大な人物に会うことができれば更なる強化も……!?

……勘をスキルにするのは、やってみると難しいものですねw
しかしながら面白いご提案ありがとうございます。
CP1を進呈いたします。


>>89
はい、危機察知能力は経験に裏付けされた勘、とでもいうべきものですしね。
実際のプレイ上においても、難しい局面で最後にモノを言うのはプレイヤーの皆様の
冴え渡る勘働き、という部分はあります。

92 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/13(火) 19:27:43 ID:???
***

A「……さてね」 煙に巻く。


言った森崎の、しかしそれは偽らざる本音である。
結果的にどう評されているにせよ、あの時点で相手方の事情を汲み取って話をしていたわけではない。
さりとて直感と呼べるような閃きに従ったわけでもなく、ただ当然と思える対応をしただけである。
あさっての方を向きながら空惚ける森崎に、今度はジーンが渋い顔をする番だった。

「何だそりゃ」
「はは」

笑った森崎が、ぐ、と背を伸ばす。
凝り固まった筋が伸びていく感覚を楽しみながら、だしぬけに口を開く。

「で、俺はどこに連れてかれてるんだ?」
「お、気づいてたのか」
「当たり前だ」

がたごとと、馬車が揺れる。

「わざわざ城の北側を回りやがって、キャラウェイ通りなんざとうに通り過ぎてるだろ。
 もうマリーゴールド近くまで来てるじゃねえか」
「お前、この春にドルファンに来たんだろ? よく分かるな」
「そりゃな……」

と、辺りを見渡した森崎の目に映るのは、閑静な、というよりは独特の静謐に包まれた邸宅街である。
道の両脇にはどこまでも高く続く塀、点在する緑は手入れの行き届いた生垣だった。
猥雑なシーエアーや庶民の家々が立ち並ぶフェンネル、牧歌的なカミツレではありえない光景であり、
かといって城央近くの喧騒や人通りもないとなれば、いかに新参者の森崎といえど迷う余地がない。

93 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/13(火) 19:29:03 ID:???
「そもそも、お前が俺なんかを送ってくれる理由、ないだろ」
「まあな」

長い銀髪を夕陽の朱に染めながら、ジーンはどこまでも悪びれない。
口笛すら吹き始めたその横顔に、森崎が小さくため息をついた。
肩から伝わる体温は、それでも秋の夕暮れどきには心地いい。


***


純白の馬車がようやくその足を止めたのは、とある広大な敷地の片隅である。
国立公園の一角のような光景に、森崎がジーンに尋ねる。

「……ここは?」

一体どれほどの広さを持つのだろうか。
面積では森崎たちが日々の鍛錬を行なっている訓練所に勝るとも劣らないように見える。
決定的に違うのは、その質である。
荒れ放題の訓練所とは違い、この敷地には小石一つ見当たらない。
一面に広がった芝生は丁寧に刈り込まれ、整然とその背を揃えていた。

「ここか? ま、ザクロイドが持ってる運動場だ」
「なにィ!?」

愕然とジーンを見やる森崎。
嘘や冗談を言っている顔ではなかった。

「デカいことはいいことだ、ってのがお館様の信条でな」
「それにしたって……」

94 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/13(火) 19:31:17 ID:???
見渡す限りの芝生は、夕暮れの下で奇妙な紫色へとその姿を染め変えている。
紫の絨毯は遥か視界の果てまで続くようにすら思えた。

「ハデなことはいいことだ、ってご主人様の信条が出てねえだけマシさ」
「……?」

そう言ったジーンの声音は、どこか苦々しいものを含んでいるように聞こえた。
しかし森崎が何かを聞き返すよりも早く、ジーンがそのなめらかな曲線を描く顎で遠くの方を指す。

「ほら、あっちだ」
「……あれは、リンダ……か?」

陽は既に落ちかけている。
薄暗い視界の中、言われてみれば動く影がかろうじて幾つか見える。
目を凝らせば、件の少女であるようにも思えた。

「……よくは見えねえが、そうなのか?」
「ここからじゃ遠いか。よし、もう少し近づくぞ」

言うが早いか、ジーンは手綱を手近な樹に括りつけると芝生の縁を沿うように歩き始める。

「何やってんだ、置いてくぞ」
「おい、俺には何がなんだか……」
「しっ、ここから先は大声出すなよ。お前に気づかれると話がややこしくなるからな」
「はァ!?」

胡乱げな森崎の態度を気にすることもなく、ジーンが先に歩いていく。
仕方なくその後を追いながら、森崎が問う。

「……で、何がしたいんだ、お前は」

言われた通りに声を潜めるあたりが人の好さというものであっただろうか。

95 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/13(火) 19:33:04 ID:???
「一度、見といてほしかったんだよ」
「あ?」
「天才ってやつを、さ」

何を、と問いを重ねようとした森崎の耳に、そのとき飛び込んできたのは男の声である。
森崎の無論知らない、しかし妙に耳に馴染んだ声音。
怒号だった。
それも、感情に任せたものではない。
相手の精神にどう響き、どう動かすことができるかを計算し尽くした大喝。

「……教練か」
「ああ」

聞き覚えがあるのも当然である。
それは森崎自身もまた毎日のように発している種類の声だった。
叩き込む、という言葉の意味を、身体のみならず精神にも浸透させるための大音声。
あるときは限界に近い疲労から半ば強引に奮い立たせ、あるときは無駄な反骨心や自尊心を打ち砕いて
無意識のレベルにまで機械的な反復を刷り込む、ほとんど人格の改造に近いそれは、
日常に生きる人をいくさという非日常へと適応させるための儀式である。
人が己で定めた枷を打ち壊し、環境が厳格に要求する新たな枠をその首に嵌めてやって初めて、
多くの人間は情動の外側で人を殺せるようになる。
裏を返せば、そうでなければ大多数の人は、人の外側に出られない。

「―――、―――ッ! ―――!!」

そして今、人をそうでないものに変えるための声音をその身に受けているのは、一人の少女である。

96 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/13(火) 19:36:02 ID:???
暮れゆく空の色を写し取って紫色から群青色へと変わりゆく芝生の中に、
ぽっかりと穴の開いたように赤土のトラックがある。
その赤土とほとんど変わらない色に染まって倒れ伏すのが、リンダ・ザクロイドだった。
細い身に纏った薄い練習着も、そこから伸びる白く長い手足も、後ろできつくまとめられた長い髪も、
そのすべてが土に汚れて酷い有様である。
流れ出す汗は土を泥に変え、べったりと全身に貼り付けている。
負けいくさで踏み躙られ、打ち棄てられた屍の如き、それは姿だった。
怒号が、響いた。
鞭に打たれたように屍がゆらりと立ち上がり、怒号の方を向く。
少女の側に立つのは、数人の男たちである。
いずれも一目、鍛錬に鍛錬を重ねたことが分かる体つきをしていた。
彼らの顔には、一切の緩みも余裕もない。
厳しい顔つきで何かを話し合うと、中の一人が少女に向けて声をかける。
少女が、頷いた。
その拍子にほつれた前髪を伝って垂れた汗の、沈みゆく陽に照り映えるのが、
不思議と森崎の目に映った。

「―――」

少女の表情にも、先日森崎が見たような悠然とした笑みは、どこにもない。
息を切らし苦痛に歪み、それでも俯かず、射殺すような目をぎらぎらと光らせて、
気高さを放り捨て優雅さの欠片もなく、それでもただ、真摯に。
少女は、立っていた。

「……」
「あれが、リンダ・ザクロイドって女だ」

ジーンが、ぼそりと告げた。
その視線は横に立つ森崎には向けられず、真っ直ぐに少女を見据えている。

97 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/13(火) 19:37:03 ID:???
「他人の事情に斟酌しねえ。世間知の中で変に賢しくなっちまっていかすかねえ。
 手前勝手に相手を振り回して省みねえ。嫌な女さ」

女、とジーンは口にした。
おそらくは一回り以上も歳の離れた少女を、女と評してジーンは続ける。

「それでもオレは目が離せねえ。どうしたって、あのお嬢さんから目が離せねえ。
 恩じゃねえ。義理でもねえ。ただ見ていてえから目が離せねえ」
「……」
「ほとんど惚れちまってんのかもな、ハハッ」

最後は冗談めかして言葉を切ったジーンに、しかし森崎は愛想笑いを返さない。
ジーンが、やがて森崎を横目でちらりと見やり、固めた拳で軽くその胸を叩く。

「今日、お前を連れてきたのに深い意味はねえよ。ま、嫁の自慢みてえなもんだと思ってくれや。
 お前がこの先、あのハンナってのとどう関わっていくかも知らねえしな。……けどよ」

間は、呼吸一つ分。

「お前とはこれっきりになる気がしねえんだよ。いつか『こっち側』にくる目だって、
 まあ、なくはねえと睨んでる。……俺の、当てにならねえ勘だがな」

今度こそ曇りなく、にかりと笑ってジーンがそう言うと、トラックの方へと目を戻す。

「……おっと、最後に通しで走るみたいだな。折角だ、しっかり見てってくれ」

無理やりに連れてきておいて折角だも何もないものだ、と苦笑しながら、しかし森崎の目は
スタートラインへと歩む少女に吸い寄せられていく。
競技者というものは、とその背を見ながら、森崎は思う。
競技者というものは誰しも、その戦場に立つとき、同じ空気を纏うのだろうか、と。
少女の後ろ姿はそれほどに、ハンナのそれと重なって見えたのだった。


98 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/13(火) 19:39:06 ID:???
******


エントリーNo.1
リンダ・ザクロイド
基礎値:122
特性:不明
スキル:女王の威風(一位をキープしている際、ダイスを10プラスする)
PBスコア:947(D25.11 スポーツの祭典 本戦)


***

99 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/13(火) 19:40:07 ID:GHuJRN6Y
***


*スタート
セクションスコア1= 122*{1+(! numnum/100)}

*コーナー1
セクションスコア2= 122*{1+(! numnum +【女王の威風10】/100)}

*バックストレート1
セクションスコア3= 122*{1+(! numnum +【女王の威風10】/100)}

*バックストレート2
セクションスコア4= 122*{1+(! numnum +【女王の威風10】/100)}

*コーナー2
セクションスコア5= 122*{1+(! numnum +【女王の威風10】/100)}

*ホームストレート
セクションスコア6= 122*{1+(! numnum +【女王の威風10】/100)}


※★ごとにそれぞれ、 ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
00は100として扱います。

***

100 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/13(火) 19:43:50 ID:???

*スタート
セクションスコア1= 122*{1+( 56 /100)}


101 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/13(火) 19:44:03 ID:???
******

本当は 122*[1+{(! numnum +【女王の威風10】)/100}]
と表記すべきですが、何だかわかりづらいですね…といったところで、
一旦ここまでとさせていただきます。

102 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/13(火) 19:45:04 ID:???
>>100
と、割り込みになってしまって申し訳ありません!
ドローありがとうございます。

103 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/11/13(火) 19:51:02 ID:???

*コーナー1
セクションスコア2= 122*{1+( 25  +【女王の威風10】/100)}



104 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/13(火) 20:17:36 ID:???

*バックストレート1
セクションスコア3= 122*{1+( 87  +【女王の威風10】/100)}


105 :◆W1prVEUMOs :2012/11/13(火) 20:56:14 ID:???

*バックストレート2
セクションスコア4= 122*{1+( 55  +【女王の威風10】/100)}


106 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/13(火) 21:25:10 ID:???

*コーナー2
セクションスコア5= 122*{1+( 42  +【女王の威風10】/100)}


107 :◆9OlIjdgJmY :2012/11/13(火) 22:44:50 ID:???

*ホームストレート
セクションスコア6= 122*{1+( 67  +【女王の威風10】/100)}



108 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/19(月) 19:17:48 ID:???
皆様、ドローありがとうございます。
私事ながら多忙のため更新間隔が開きがちになってしまっており申し訳ありません…。

***

*スタート
セクションスコア1= 122*{1+( 56 /100)} =190

*コーナー1
セクションスコア2= 122*{1+( 25  +【女王の威風10】/100)} =164

*バックストレート1
セクションスコア3= 122*{1+( 87  +【女王の威風10】/100)} =240

*バックストレート2
セクションスコア4= 122*{1+( 55  +【女王の威風10】/100)} =201

*コーナー2
セクションスコア5= 122*{1+( 42  +【女王の威風10】/100)} =185

*ホームストレート
セクションスコア6= 122*{1+( 67  +【女王の威風10】/100)} =215


スコア合計:1195

***

109 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/19(月) 19:18:49 ID:???

ひとが走る姿を美しいと感じたのは、森崎有三の人生で初めてのことである。
その足で大地を踏みしめ駆け行く、それはヒトという生物の極みの体現であると、
少女の疾走は雄弁に物語っていた。
全身、ただそれを成すためだけに神の手によって配されたような骨格が、筋肉が、腱が、
精緻に制御され厳密に駆動し、質量を大気の中に振り捨てるように加速していく。

(これ、は……)

ジーンが、無理やりにでもこれを見せようとした気持ちが、今なら理解できる。
そこにあるのは打算や計算ではない。
その本質は、彼女自身の言葉通り、子供じみた自慢なのだ。
こんなにも綺麗な宝物を私は持っていると、秘めやかに、しかし誇らしく語るときの、
あの高揚を味わいたかったのだ。
むべなるかな、と森崎は思う。
いま薄闇の中、夜に融けるように走る少女は、至宝だ。
遠ざかっていく、赤土にまみれながらなお白い背を、大きな弧を描いて戻ってくる躍動する肉体を、
たとえば自分だけが目にしてしまったとして、堪えることができようか。

「……遠いな、ハンナ」

ぽつりと口をついたのは、真白き背を追う少女の名である。
彼女の前を往く者は、掛け値なしの才気だ。
差は歴然、このままでは勝負にならぬと豪語されたその言は、何の誇張もなく正しい。
走れば走るほどに差の開く、終わりのない競争のようにすら、思える。


110 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/19(月) 19:19:49 ID:8W8eRwNs
しかし。
しかし、勝ちたい、と。
ハンナは言ったのだ。
一敗地に塗れ、苦渋辛酸を舐めながら、少女の牙は折れてはいなかった。
それを愚かしいと嘲うことは、森崎にはできない。
抗うことをつまらぬ意地と断じ、敗北を諦念の内に肯んじるのなら、今の森崎はここにはいない。
ならば。
ならば森崎にできることは、眼前の勝者、圧倒的な優越者から目を離さぬことだ。
この奇貨を糧とし、巡り来る機会に備えることだけだった。

(優れていること、秀でていること、何でもいい……探せ、盗め!)

俄に鋭く目を細める森崎の、リンダ・ザクロイドに見たものは―――


*選択

A コーナーを抜けた瞬間の加速だ。

B 後半の安定したペースだ。


※リンダの走りからハンナのスキル習得のヒントを得ます。
 獲得したヒントはストックされ、次回のコーチ機会にハンナがスキルを習得します。

森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『11/19 24:00』です。


111 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/19(月) 19:20:56 ID:???
******

一応これが10月最後の選択となります、といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
お付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

112 :◆W1prVEUMOs :2012/11/19(月) 19:36:40 ID:???
ハンナは持久力に不安があるのでBで相殺したいです

113 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/19(月) 21:12:23 ID:???
Aハンナはスタートそこそこ良かったので、ここを改善出来て前半部分を食いつければ後半勝負出来るかも知れないかなと思います。

114 :◆9OlIjdgJmY :2012/11/19(月) 22:16:27 ID:???
A リンダに先行されるとスキル発動されるので、前半優先で。

115 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:25:58 ID:???

皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>110の選択については……

>>114 ◆9OlIjdgJmY様のご回答を採用させていただきます!
お三方とも納得の理由だったのですが、中でもまったくその通り、というシンプルなお答えでした。
リンダの現スキルは発動すると手がつけられなくなっていくタイプですからね。
CP3を進呈いたします。


>>112
はい、それもハンナのウィークポイントですからね。
ご覧のとおり圧倒的な実力差を徐々にスキルで埋めていくというのが基本線になりますので、
どの段階でどの長所を伸ばし、あるいは短所を潰していくかは思案のしどころです。

>>113
そうですね、スタートにはプラスのスキルがありますので、まずは離されずに食いつくことが重要です。
現時点で勝利するにはちょっとどころではない奇跡が必要になってしまうかもしれませんが、
ビジョンを持った成長計画があれば後々になって活きてくるでしょう。


116 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:27:37 ID:???
***

A コーナーを抜けた瞬間の加速だ。


リンダの疾走をしっかりと瞼に焼き付けながら、森崎が最初に感じ取ったのはそれである。
無数の情報の中から最初に拾い上げられたものには、何らかの意味がある。
そう考える程度には、森崎は自身の嗅覚を信頼している。

(スタートから……第一コーナー。ここは、そうハンナと変わらねえ。問題は……)

いま眼前に近づいてくる実際のリンダをしっかりと頭に納めながら、同時に森崎の瞳の奥では
記憶の中のリンダの走りが幾度も繰り返されている。
思考し、分析し、導いた回答を徹底的に反復して体に覚え込ませる、それは森崎がこれまで
自らに課してきた鍛錬の手法、ほとんど癖ともいえるような作業だった。

(そう、コーナーを抜けた後、そこから……)

地力の違いがあるとはいえ、カーブの処理自体は素人目にはそれほどの差異があるように思えない。
しかしその後の結果が、決定的に異なっている。
落とした速度を取り戻せないハンナと比べ、リンダはむしろ縮めた撥条を弾くように加速していく。
その差が、どこから生まれるのか。

(重ねろ……)

先月に見たハンナの走りと、まさにいま眼前に得たリンダの走り。
二つを記憶の中で近づけていく。
少女二人の躍動はやがて同じ色となり同じリズムとなり、近づいては遠ざかり、遠ざかっては近づいて、
交錯し行き違い、戻っては離れ、しかし次第にそれらの波は薄れていき、遂に重なったとき―――。

「……ここだ! この瞬間だ!」

117 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:29:18 ID:???
思わず声を上げた森崎を、隣のジーンがぎょっとしたように見やる。
気にしている暇はなかった。
掴んだはずのイメージは、しかしその刹那を頂点として霞のように消えていく。
そうなる前に、それらをかき集め具体化し、刻みつけなければならなかった。

「体重移動……ここ、この左足、それと連動して腰から前傾する……のか?」
「お、おい……?」

ぶつぶつと何事かを呟く森崎を、ジーンは不気味そうに見ていたが、声をかけても
無反応なことに呆れたのか、すぐに何も言わなくなった。

「ああ……ここの鍛え方が足りねえのか。だから、ハンナは……なるほど、そういう……」
「……」
「うん、そうだな間違いねえ。……よし、わかった! はは、畜生てこずらせやがって!」
「……何だか知らねえが、おめでとさん」
「ん? おお、ジーン。悪いな、聞いてなかった」
「だろうよ」

呆れたように言うジーンに、森崎は怪訝そうな顔を向けるのだった。


******


陸上スキル『バックストレート・アクセル』をストックします。
次回のコーチ機会にハンナがスキルを習得します。

効果:バックストレート1のダイスを20プラスする。
この効果は『逆境』と名のつくスキルの発動条件に影響を与えない。


******

118 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:30:20 ID:???
******

「……ところで、俺はどうやって帰りゃいいんだ」
「おう、そのことだがよ」

まるでリンダがゴールラインを越えるのを待っていたように、辺りを朱に包んでいた陽の欠片は
城壁の描く稜線の向こうへとすっかり消えてしまっている。
明かりもない屋外のこと、すぐ近くにいるはずのジーンの顔もよく見えない。
声だけが、無闇に明るく響いた。

「そもそも俺は、お嬢の迎えってことで車を回してたんだった。
 ってわけで、帰りはお前のことは送れないぜ。悪く思うなよ」
「なにィ!? ってまあ、そらそうだろうな……悪くは思うけどな!」

どうせこんなことだろう、と予想はしていたものの、しかし実際に言われてみると秋の夜風は身に染みる。
渋面を作った森崎の背を、ジーンの掌がばしんと叩いた。

「ははは、んな顔すんなよ、色男!」
「見えてねえだろ!」
「だいたい分かるぜ」
「ああ、そうかい……」

不毛な会話を打ち切って踵を返そうとした森崎を、しかしジーンが腕を掴んで引き止める。

「まあ、待てって」
「……?」
「もう一台、うちらの馬車を回してある。ま、お嬢専用のこいつほどじゃねえが、
 ザクロイドの御用車だ、乗り心地もなかなかだぜ」
「マジか……」
「大マジよ。しかも今度は御者台じゃなくて客席に座れるぜ」

ぽん、と叩かれた腕がじんわりと温かい。

119 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:31:23 ID:???
「お前が初めていい女に見えてきたよ……」
「そりゃどうも。って見えてねえだろ」
「見えてたら思わず求愛してたかもしれねえ。夜で良かったぜ」
「はは、地獄に堕ちやがれ」

軽快に言い合って、しかしふと森崎が首を捻る。

「……でもよ、よく考えたらこの事態そのものがお前のせいだよな」
「悪ぃ、悪ぃ」

言葉とは裏腹に、声音はどこまでも軽い。
にやりと口角を上げた表情までが闇の向こうにはっきりと見えるようだった。

「詫びってんじゃねえが、今日の晩メシ代はどこで食うにせよ、ザクロイドの厩務係にツケといて構わねえからよ」
「ぐ、それで水に流しちまいそうな自分が情けないぜ……」
『そうと決まればさっさと帰って、美味しいもの、食べよ』
「お前、タダ飯の話になったら出てくるのかよ!」

今までどこをふらついていたものか、唐突に頭上から声を降らせた相方に、森崎が思わず答えてしまう。

「……? ヘンなヤツだな……ま、いいや。車は向こう、話は通してあるからよ」
「あ、ああ……」
「じゃあな、縁があったらまた会おうぜ」

バツの悪さに口を濁した森崎を胡乱げに見ながら、しかし快活に言ってジーンはあっさりと去っていく。
本来の仕事、リンダの元へと戻るのだろう。
ため息を漏らせば、息は微かに白い。
決戦は、来月。
宵闇に沈む広い芝生はそのまま何かを暗示しているように思えて、森崎は振り払うように天を仰いだ。
輝きはじめた星の下、家路は、遠い。


120 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:32:24 ID:???



   『才気』(了)



******

121 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:34:41 ID:No1EE1CQ

*D26.11月
フレーバーテキスト


*ドロー


今月の巻頭特集は → ! card


スペード・ハート・ダイヤ・クラブ→ 日常「悪代官とシベリア特使」
JOKER→ 事件「やみにうごめく・1」


※ ! と card の間のスペースを消してカードを引いて下さい。


******

そしてようやくメインキャラが出揃う十一月(敵除く)、といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

122 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/20(火) 19:04:31 ID:???
今月の巻頭特集は →  ダイヤA

123 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:46:42 ID:???
>>122
ドローありがとうございます。

ダイヤ→ 日常「悪代官とシベリア特使」

******

◎日常「悪代官とシベリア特使」


小鳥の囀りも爽やかな晩秋の朝。
日課の新聞に目を通す森崎が、見出しを声に出して読み上げる。

「輸出入顧問オーリマン卿、シベリアからの燐光石輸入拒否を明言……か。
 この国、燐光石がえらい高いからな」
『そうだねえ……まあ、この宿舎では支給品だからあんまり関係ないけどね』

燐光石とは欧州全土で照明に使われている物質である。
化学反応により生じる独特の白色光は炎より格段に明るく、また熱をほとんど発しないため
富裕層から一般家庭まで、幅広く使われている生活必需品であった。
時間効率を考えれば蝋燭や油による照明よりも安価であることも普及の決め手となったが、
ここドルファンにおいてはそれらとほぼ同等の価格帯で高止まりしている。

「ま、この手の話はどっかの強欲商人が市場を独占してるってのがお定まりだけどな」
『ふうん……どこの強欲商人?』
「ザクロイド財閥」

何気なく口にする森崎に、ピコが目を丸くする。

124 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:47:43 ID:???
『ザクロイド……って、リンダのお家のザクロイド?』
「そのザクロイドだな。山師だったディムス・ザクロイドが鉱山で一発当てた成り上がりの新興財閥」
『そのディムスって人は、リンダの?』
「爺さんにあたる、らしいな。何年か前に死んでる」
『ふうん……』

それ以上踏み込むことを避けたのか、座っていた森崎の肩からふわりと浮いたピコが、
しかしにやりと笑って森崎の目の前で止まる。

『でもさ、ならそのお爺さんって、きっとこのナントカ卿とアレ、やってたんだろうね』
「ああ、アレな」

新聞から顔を上げてピコと目を見交わした森崎がにやりと笑い、せーの、の呼吸で口を開く。

「―――越後屋、そちも悪よのう」
『いえいえ、お代官様ほどではございませぬ』


******


数日後のことである。
やはり朝の日課として新聞を読んでいた森崎が、奇妙な唸り声を上げた。

「ふ〜む……」
『何なに、なにか面白いことでも載ってた?』
「この顔が面白そうに見えるのかよ、お前には」

眉根を寄せた森崎が新聞から顔を上げてピコを睨む。

125 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:48:43 ID:???
「シベリアの特使が来たんだとよ」
『シベリアか……あんまりいい思い出はないね……』

かつて加わった幾つかの激戦や惨劇を思い起こしたように表情を暗くしたピコが、
しかしすぐに不思議そうな顔で尋ねる。

『でも、なんで? このドルファンはシベリアからすっごく遠いじゃない』
「燐光石だよ」
『燐光石……? あ、そういえばこないだ、そんな話してたね。すごく高いって』
「その流れよ」

頷いて、森崎が語り聞かせるように話を始めた。

「そもそもドルファンで高い燐光石が売れてるのは、安いシベリア産の輸入を拒否してるからだ」
『かんぜーがメチャクチャとか?』
「それ以前だな。そもそも一切の輸入を禁止してる」
『へえ、ダイタンだねえ。まあでも、安いのがなければ、高いのを買うしかないもんねえ』
「ああ。で、国内産の供給はザクロイド財閥が独占してるから、濡れ手で粟の大儲けってわけだ」
『それってやっぱり……』

ピコが、数日前に演じてみせた膝つき合わせの寸劇を仕草で示す。

「まあ、そうだ。誰が見たって強欲商人と御代官様だわな」
『うわあ……』
「そいつを突き上げようってのが今回の特使様よ。燐光石の輸入自由化を要求、ってなもんだ」

ぱん、と紙面を手の甲で叩く森崎。

126 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:49:50 ID:???
『それで、どうなったの? シベリアっていうと……』
「お得意の軍隊チラつかせたゴリ押しは厳しいな。何せここは南欧の果てだ」
『じゃあ?』
「このドルファンの輸出入を仕切ってる顧問のオーリマン卿って貴族が特使と話し合った。
 結果として、一旦は突っぱねたらしいな。……とはいえ、ここはマルタギニア貿易の中継で食ってる国だ。
 お得意さんの意向を丸っきり無視するってわけにもいかねえんだろ。
 石炭と鉄鉱石は自由化の方向、だとさ。そっちはあんまり俺らには関係ねえけどな」
『何いってんの。鉄が安くなったら武器の値段も下がるでしょ!』
「そこら辺はよ、カイルと陽子さんたちが考えることで……」
『キミ、隊長でしょ!』
「うへえ」

肩をすくめてみせる森崎を、小さな相方は憤懣やるかたない様子で睨んでいたが
しばらくして無益を悟ったか、そよ風のようなため息をついて森崎の肩に戻る。

『……ところで、記事はそれで終わり?』
「どれどれ……いや、続きがあるな。シベリア側は返礼の一環として、文化交流を提案……?
 来月にも国立サーカス団を派遣するとのこと、だとよ」
『アメとムチだね』
「ま、痛み分け、適当な落としどころってやつだな。シベリアの特使も流石といやあ流石だが、
 このオーリマン卿ってのもなかなかの食わせもんみたいだぜ」
『それはだって、貿易で食べてる国の、その貿易の一番偉い人でしょ?』
「ま、確かにその位置にボンクラが置かれてるならこの国は終わりだわな」

うんうん、と頷くピコに、森崎が紙面の片隅を指さす。

「そういや、お前好みっぽい事件も載ってるぜ」
『何なに、えーと……”王女行方不明騒ぎ”? わ、ゴシップの予感!』
「楽しそうでよかったよ」

紙面に目を向けたまま、ひらひらと器用に飛び回るピコ。

127 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:51:07 ID:???
『でも残念、無事に見つかったみたい』
「残念てこたねえだろ……」
『この国のお姫様はかなり庶民派って話だけど、家の人に黙って買い物にでも行ったのかな?』
「んなわけあるか! そりゃ庶民派っつーかただの庶民だ」
『えー』

口を尖らせるピコを無視して、森崎は再び新聞に目を落とすのであった。


******

128 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:52:07 ID:???

*D26.11月 「親切な傭兵団のエース」森崎有三
訓練所イベント


「―――騎士団は王室会議に対し、ダナンへの第二次派兵を上申。
 しかし王室会議側はこれを却下する方向のようです」

薄暗い部屋の中、淡々と続くのはカイルの定期報告である。
思案げにそれを聞く森崎の背後、窓の外には曇り空が広がっていた。
温もりの代わりにがたがたと風に震える音を伝えてくる窓を背に、森崎が腕を組む。

「先月ようやく再編が終わったばかりで、もう派兵ってか。そりゃ却下もされるだろうな」
「はい。ピクシス卿が先の戦いの折、騎士団の練度の低さが露呈したことを問題視しているようで、
 当面は外交による折衝をヴァルファと続けていく方針のようです」
「エリータスは騎士団の意見を推さなかったのか? 騎士の取りまとめ役だろ」

エリータス、という名を口にするときの微かな苦味を噛み潰すようにしながら、森崎が尋ねる。
ドルファン西部の都市エローを所領とするエリータス家は代々部門の家柄である。
特に先代当主ラージン・エリータスは数十年空位であった聖騎士を叙勲するほどの英傑であった。

「エリータス卿夫人はピクシス卿に賛同の意を表したそうです」
「いつものこと……か」
「はい。騎士団の一部にはその件で不満の声も上がっている……模様ですが、これは
 ルーカス大佐の個人的な意見として扱うようにとのことです」

真面目な顔で書類に目を落としていたカイルの口元に、僅かに苦笑が浮かぶ。

「立ち回りの参考にしろってか……食えねえおっさんだよ、まったく。
 ま、どの道俺らは決まったことに口を挟める立場じゃねえがな」
「……」

129 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:53:08 ID:???
森崎の軽口には無言を貫いた賢明なカイルが、はらりと書類をめくると
次の話題に移ろうとする。

「それと、もう一点―――」

と言いかけた、そのとき。

「―――邪魔するぞ」

静かな、しかし有無を言わせぬ圧力を持った声音と共に、無造作に扉が開かれた。
執務机に座る森崎の正面である。

「……何だ、お前ら。誰の許しがあってここまで入ってきた」

そこに立っていたのは、男が三人。
外套に脚絆、どちらかと言えば旅支度に近い軽装ではあるものの、剣を帯びた男たちである。
油断なく男たちを睨みながら、森崎は机の下に隠れた手で愛剣の柄を探ろうとする。
一瞬の緊張感を引き裂いたのは、カイルの高い声であった。

「あなた方は……! そんな、着任は来月という話で伺って、」
「……?」

それを聞いた森崎が、険しい顔の表面に疑念の色を浮かべる。
言葉通りに聞けば、カイルは闖入者たちを知っているらしい。
カイルにちらりと目をやって一歩進み出たのは、中央にいた男である。

「先乗りだ。部隊を預かる者として、現地の状況を確認しておくのは当然だからな」

130 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:55:53 ID:???
低く落ち着いた、しかし聞く者に奇妙に違和感を抱かせるような声音。
そしてまた穏やかという印象からは程遠い、それは男である。
浅黒い肌に、焼け焦げた薪のような巻き髪は西洋圏出身の特色だ。
精悍、と呼ぶに相応しい顔つきの中、異質なのは瞳である。
薄い灰色の瞳には、およそ揺らぎというものがない。
感情、衝動、意思、欲求、そういった人というものを構成する一切が、そこには存在しないように見えた。
精巧な硝子細工が眼窩に嵌っているような、そんな印象を与える目を正面から見据えながら
森崎が身振りでカイルに話を促す。
はっとしたように背筋を伸ばし、カイルが口を開いた。
どこまでも職務に忠実な青年である。

「……先ほど申し上げようとしていたのは、彼らの件です」
「……」
「ドルファン陸軍編成部はこの度、外国人傭兵大隊の増設を決定しました」

カイルの選んだその単語に、森崎が片眉をぴくりと上げる。

「増設……? 増員、じゃなくてか」
「申し遅れた」

カイルが何かを答えようとするより早く、正面の男が言う。
その声に、森崎はようやく違和感の正体を感じ取る。
眼前の男の言葉には、人としてあるべき感情が篭っていないのだ。
瞳と同じ、細工物から発せられる音の塊。
嵐の夜に風の鳴る、あるいは瀑布の落ちゆく怒涛のような、声ではなく音としか言えぬ、
そんな音がどうしてか意味を持ったが如き、それは言葉なのだった。

「ドルファン陸軍、外国人傭兵『第二』大隊長、カルロス・サンターナだ。
 我が傭兵団三百名、十二月一日付の着任となる」
「第二、大隊……」

森崎の呟きを引き取るように、カイルが続ける。

131 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:57:10 ID:???
「はい、隊長。我々、第一次徴募による旧大隊は第一大隊と呼称が変更されます。
 編成その他に変更はありません。詳しくは後ほど書面に目を通していただくつもりでしたが……」
「一足早くご挨拶に来ていただいたってわけか」
「……あァ?」

森崎の言葉に含まれた棘にいち早く反応したのは、正面の男ではない。
その向かって右後方、赤銅色の肌を持つ偉丈夫であった。
正面の男の瞳が硝子細工だとすれば、この男の目は飢えた獣のそれである。
混血なのか、薄い金色の髪を無造作に伸ばしたその下から睨みつける表情たるや
気の弱い者であればその場で卒倒しかねない、凶悪な代物であった。
そんな男が筋骨隆々たる肩を怒らせ、ずいと進み出て森崎を睨めつける。

「おう、東洋人。隊長だか何だか知らねえが、あんまりナメた口を利くんじゃあねえぞ」
「……」
「名高いヴァルファの将を討ち取ったとかいう面ァ、一応見に来てやったがよ……」

唸り声を上げる獣のような男が、牙を剥いた獣のような顔で笑った。

「ハン、何かの間違いだったんじゃねえのか?」

あからさまな侮蔑混じりの言葉に、森崎は―――

132 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 20:01:08 ID:8a1flvAQ

*選択

A 「上等切んなら名ァ名乗れ、赤犬野郎」 言い値で喧嘩を買う。(必要CP:2)

B 「なあ第二大隊長さん、躾はきちんとしておいてくれよ」 こちらのペースで喧嘩を買う。

C 「さて、俺だけの力で成し遂げたことではないからな」 事を荒立てないようにする。

D 「……それで、その第二大隊が今日は何の用件だ」 完全に無視する。


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『11/23 1:00』です。


******


訓練所パートの主要人物もこれで概ね揃い踏み、といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
お付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

133 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/11/22(木) 20:34:54 ID:???
B
森崎は臆病者ではないけど、バカでもない、ということで。
ある意味では向こうの隊長の器を問う、ということでもあるかなー。

134 :ノータ ◆JvXQ17QPfo :2012/11/22(木) 22:50:39 ID:???
D
ただのバカ犬に喧嘩を買うのは宜しくない
相手は隊長でもないし、無視して話を進めれば大人しくなるはず
カルロスが隊長なら信用もできるし

135 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/22(木) 23:25:19 ID:???
C実際森崎一人で倒した訳ではないですから。
それにどんな形であれ喧嘩を買えばカルロス隊長の面子を潰すのではないかと思います。

136 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/27(火) 18:42:59 ID:???

皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>132の選択については……

>>135 さら ◆KYCgbi9lqI様のご回答を採用させていただきます!
なるほど、相手の面子を考慮するというのは想定の外でした。
言われてみれば確かに、ということで内部的に礼法値が上がりつつCP3を進呈いたします。


>>133
はい、お互い小手調べといった意味も含めての初顔合わせになっていますね。
ちなみに人物称号によってはCのような選択肢がCP必須、もしくは出現しなくなってきます。

>>134
そうですね。大人しくなるか…はともかく、同じレベルでやりあう必要はない場面でしょう。
サンターナについては訓練所パートでは重要な位置づけになってきますので、今後をお楽しみに、
といったところです。

137 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/27(火) 18:43:59 ID:???
***

C 「さて、俺だけの力で成し遂げたことではないからな」


森崎がそう告げたのは、紛れもない事実であった。
ヴァルファ八騎将、『疾風』ネクセラリアを打倒し得たのはヤングの負わせた傷ありきであることなど、
森崎自身が一番よく分かっていた。
それ以前に一騎討ちに持ち込めたのは部隊全体が最後の最後まで恐慌も来さず戦い抜いたゆえである。
そういった諸々を無視して一人の手柄であると吹聴する狭量、貪欲、あるいは鈍磨を森崎有三という男は
持ちあわせていなかったし、また同時に眼前の狂犬じみた男の安い挑発を買い支えるつもりもない。
どういう意図かは分からなかったが、不用意に騒ぎを起こせばわざわざこちらを訪ねてきたという
第二大隊長となる予定のサンターナという男の顔を潰すことにもなろう。

「……っだと、テメエ」

しかし、あくまで冷静に返答した、その態度の意味するところが相手に伝わることはなかった。
淡々とした回答が小馬鹿にしているようにでも映ったのだろうか。
むしろ勘に障ったらしい男の顔から、侮蔑の笑みが消えた。
赤銅色の肌はほとんど熱した鉄の色に近いところまで赤く染まっている。
視線が、その凶悪さを増して森崎を睨みつけた。

「……」

森崎とて、怯懦から男の挑発を受け流したわけではない。
殺気の籠もった視線の一つや二つで慄いていては戦場に立つことも、数百の荒くれどもを
まとめ上げることもできはしなかった。
無言で、しかし殺気を押し返すが如く力を込めて、男の目を見返す。
一触即発の空気が、漂った。

「……ま、まあまあ! 二人とも!」

138 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/27(火) 18:45:00 ID:???
割って入ったのは、それまで後ろに控えていた三人目の男である。
高い、少年のような声だった。
サンターナと名乗った中央の男や、詰め寄っている屈強な男に比べればやや小柄な体格。
白い肌に小麦色の長い髪、そして声音に相応しい少年のような顔は、いかにも女性受けの良さそうな
柔和で整った目鼻立ちである。

「ちょっとザガロさん、何やってんですか! やめてくださいよ、もう」

ザガロと呼ばれたのは赤銅色の肌の男だった。
吹けば飛ぶような体格差、近づくことすら危うく感じるような殺気を物ともせず、
少年が男の視線を塞ぐように立つ。

「邪魔だ、どけバビントン!」
「どきません! 団長も黙ってないで止めて下さいってば! 喧嘩しに来たんじゃないでしょう」

バビントンと呼ばれた少年が中央の男、サンターナに助けを求めるように声をかける。
サンターナはといえば、先刻森崎への事務的な報告を終えた瞬間と一切変わらぬ姿勢、
一切動かさぬ表情のまま事の推移をただ見つめていただけである。
沈思する哲学者のようにも、芝居倉庫に置き去りにされた人形のようにも見える男が、
バビントンの声にちらりと目線だけを動かした。

「……そこまでにしておけ、ザガロ」

やはり何の感情も浮かべぬ声で、それだけを告げる。
しかし効果は絶大であった。

「……チッ」

渋々、といった体ではあったが、名を呼ばれた男は森崎から目を逸らし、一歩を引いたのである。
これには森崎も内心、瞠目を禁じ得なかった。

139 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/27(火) 18:46:01 ID:???
腕力で物事の優劣を判断する類の人間にとって、先に目を逸らすこと、後ろに退くことは
ほとんどあり得ないと言っていい。
どちらも敗北、恭順を示す行為だからである。
それをさせるということはつまり、サンターナという男の言葉は、ザガロという
全方位から暴力の臭い紛々たる男に一時の屈辱を許容させるほどの影響力、あるいは
強制力を持つということを意味するのだった。

「伊達じゃねえ、ってか」
「……?」

森崎の呟きに不思議そうな顔で振り返ったのは、紅顔の美少年である。
ザガロを抑える必要がなくなった安堵からか、それとも生来の性質なのだろうか、
見る者を和ませるような柔らかい雰囲気を漂わせている。

「あ、すいませんどうも、うちの団員が失礼しまして」
「いや……」
「申し遅れました、僕、エセキエル・バビントンといいます。
 傭兵団『エル・ディオス・ケ・デベセール・オディアド』の副団長を努めさせていただいています」
「そうか、俺は……って、副団長!?」

どこまでも角の立たぬ少年の言に、思わず聞き流してしまいそうになった。

「はい。まあ、このドルファンでは団ごと丸抱えで第二大隊ってことになりますから、
 言うなれば副隊長……ですかね。それが何か?」
「あ、いや……」

小姓か従卒だと思った、とはとても口に出せない。
してみればバビントンという少年、いや男に額面通りの評価を下してはならないのだろう。
何と言ったものかと口ごもる森崎に、サンターナが進み出ると口を開く。

140 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/27(火) 18:47:02 ID:???
「我々と貴殿らは独立した指揮、訓練系統となる。混乱を避けるよう通達を徹底してくれ。
 詳細は後ほど、このバビントンと詰めてもらおう。話は以上だ。失礼する」

低く静かな、しかしやはり凪いだ水面の如き抑揚のない声で事務的にそう告げると、
サンターナは一片の躊躇も見せずに踵を返した。
予め段取りを決められた役者のようなその所作に、森崎はただ眉根を寄せることしかできない。
ちらりとカイルに目配せをして扉を開かせるのが精一杯だった。

「ケッ……東洋人はおとなしくカバヤキでも作ってろってんだ」
「バビントンさんってば! あ、あはは、お騒がせしました〜」

サンターナに続いて踵を返しながらぼそりと捨て台詞を残すザガロの背を、
バビントンが慌てて押していく。
突然の闖入者たちがようやく退出しようとした、そのときである。

「何だ、どうした!?」
「……騒がしいが、何かあったのかモリサキ」

隊長室に、新たな影が飛び込んでくる。
ネイとトニーニョ、そしてネイの背後にはジェトーリオ。
ちょうど部屋から出て行こうとしていた第二大隊の面々と鉢合わせる格好となった彼らが、
ぎょっとしたように立ち止まると、声を上げる。

「な……、”エル・ニーニョ”……!?」
「後ろのは”城焼き”ザガロじゃねえか……! どうしてテメエらがここに……!?」
「あ、バビントン、久しぶりだね〜」

三者三様の態度に、しかし応えたのはザガロ一人である。
正鵠を期するならば、何かを言いかけたバビントンを制するように、ザガロが口を開いたのだった。

141 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/27(火) 18:49:46 ID:???
「ハン、誰かと思えば……お尋ね者どもか!」

空気が、凍る。

「……!」
「ンだとォ……!?」
「……」

表情を固くするトニーニョ。
ほとんど飛び掛からんばかりの姿勢で肩を怒らせるネイ。
にやにやとした笑顔を崩さず、しかしすう、とネイの背後から立ち居地を変えるジェトーリオ。
ネイが前に出た瞬間フォローに入れる位置取りだと、これまで彼らを見てきた森崎には一目瞭然である。
一気に緊迫の度合いを増した情勢に、森崎が割って入るべく立ち上がろうとする。

「まさかこんな海の果てに身を隠していたとはな! そりゃあ、向こうには戻れねえだろうがよ!」
「ちょ、ザガロさん、その辺で! 彼ら、たぶん第一大隊として雇われてるんですから! 団長も!」
「……そこをどいてもらおう」
「だ、団長〜!?」

制止しようとするバビントンの声はもはや悲鳴に近い。
ほんの二言、三言であったが言葉を交わした森崎にも分かる。
サンターナという男、おそらくは眼前のトニーニョたちに一切の興味がないのだろう。
それでただ純粋に、道を開けろと言っているに違いない。
しかし今の状況では、どう聞いても挑発の一環である。

「おい、テメエ……!」
「よせ、ネイ」

激昂しかけたネイを森崎よりも一瞬早く抑えたのは、トニーニョである。

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