キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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異邦人モリサキ

1 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/01(金) 00:31:21 ID:Hgnh9qno


本作は恋愛SLG『みつめてナイト』を基にした二次創作です。

騎士の時代が終わりつつある南欧は架空の小国、ドルファン王国。
戦火の迫るこの国に傭兵として降り立った東洋人、森崎有三の体験する
波乱万丈の三年間を描きます。


独自要素が強いため、外伝スレを経ずにスレを立てさせていただきました。
ご容赦下さいませ。



275 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 02:57:04 ID:???
A 「どうした、爺さん」 介抱してやる。


声をかけたのは、果たして純粋な義侠心や親切心からだったのか、
森崎自身にもそれはわからない。
先ほどの幻想の余韻が、訓練漬けの殺伐とした心を和らげていたのかもしれない。
或いはあの食堂で見た光景やその後の砂のような食事の味や、そういう森崎の中に燻っていたものたちが
今になって背中を押したのかもしれなかった。

(―――この国は、俺の調子を狂わせる)

蹲る人影に向けて踏み出しながら、そんなことを考える。
二歩目、そんな自分も悪くないと思えて、苦笑し、小さく首を振る。
悪いも悪くないも、ない。
いつであれ、どこであれ、見る景色、聞く言葉、それによって紡がれる感情や衝動や、
湧き上がる気持ちや発する声や、そういうものが自分だ。
そういう小さなもの、見えないもの、或いは大きなものや目を逸らせないものの集合が
森崎有三という男なのだと、森崎は考えている。
そうして三歩目を踏み出す前には、そんな風に考えていたことも、綺麗に忘れてしまっていた。

「おい、具合でも悪いのか?」

駆け寄った森崎が声をかけると、老爺は微かに顔を上げた。
白髪に長い白鬚を蓄えた老爺は、見れば身なりも整っている。
シャツの仕立てを間近で見れば、浮浪者や酔漢の類ではないことはすぐに分かった。

276 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 02:58:07 ID:???
「……、……っ、……!」

荒い呼吸に血の気の引いた顔色。
蒼白に近い額にはじっとりとした汗が珠になっている。
震える手が、胸の辺りの生地を破り裂かんばかりに握り締めていた。

(と、すると……癪か、心の臓か)

一目、そう判断を下す森崎。
とはいうものの、医術の心得などあるはずもない。
胸を押さえる病人はそのどちらかであろうと見当をつけただけである。
そんな森崎をほとんど視線だけで見上げた老爺が、不安定な呼吸の中、もごもごと口髭を震わせた。

「……す、り、……」
「え? 何だって、爺さん」

老爺を抱きかかえるようにして耳を寄せた森崎が、その身体の軽さに驚きながら聞き返す。
薄い絹の生地越しに、べったりとした老爺の汗が掌に貼りついていた。

「く、くす、り……を、」
「薬!? 薬持ってんのか、爺さん! どこだ!」

耳元で怒鳴るような森崎の声に、老爺が震える手で指さしたのは胸元に下げられた小さなロケットである。
桃の種ほどの銀細工は、どうやら中が空洞になっている。
脇の留め金を開けると、中からは茶色い丸薬が一粒、転がり出てきた。

「っと……! こいつだな、水はなくても大丈夫か!?」

277 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 02:59:31 ID:???
指先で摘めるほどの丸薬を落とさないように慎重に受け止めた森崎の問いに、
老爺が荒い息をつきながら首肯する。
痙攣と見紛わんばかりであったが、ともあれ森崎は丸薬を老爺の口元へと運ぶと、
薄く開いた唇の隙間へと指先で詰めるように押し込んだ。
呼吸、一つ。

「……、……っ……、……」

二つ、三つ、四つ。
十を超える頃、目に見えて老爺の息が整っていくのがわかった。
青ざめていた頬にも僅かに赤みが差し始める。

『ど、どう……?』
「ああ……とりあえずは、良さそうだ」

いつの間にか舞い降りて、髪を掴んでいたピコに向けて声をかける森崎。
と、その声をどう取ったのか、老爺が薄く目を開ける。

「ぉ、おお……。どこの……どなたかは、知らんが……、済まんかったの……」
「おい爺さん、無理すんな。しばらく寝てろよ」

止めようとする森崎を手で制して、眉間に皺を寄せた老爺が再び目を閉じるときっかり三つ、深呼吸する。
ゆっくりと上体を起こすと、もう一度大きく息をついた。

「いや……もう、大丈夫……。少し休めば、良くなる……」
「そうか? なら、いいけどよ……」

と、なおも心配げに老爺を見守る森崎の耳に、飛び込んでくる声があった。

278 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 03:00:33 ID:???
「だ・ん・な・さ・ま〜!」

遠くの方で、誰かが大声で叫んでいる。

「おぉ〜い、旦那様ぁ〜! どちらにいらっしゃるんですかぁ〜!」

どうやら人を捜しているようだった。
その声を聞いた老爺が、真っ白な片眉を上げると口を開いた。

「おお、儂を捜しに来た者のようじゃ……」
「そうなのか?」
「散歩の途中で、はぐれてしまっての。済まんがお主、ちと呼んできてもらえぬか」
「そりゃ構わねえが……一人にして大丈夫か?」

気遣う森崎に、老爺が皺だらけの大きな手を振る。

「ああ、ようやく落ち着いてきたわい……もう、心配要らん。
 それにしてもお主、最近の若衆にしては珍しく、気のいい男じゃのう」
「気のいい、って……いや、それほどのことはしてねえよ」

言われた森崎は、照れたように鼻の頭を掻くばかりであった。


***

279 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 03:02:05 ID:???


※モラルの上昇により、人物称号が『気のいい』に変わりました。
 全回答と判定に影響を及ぼします。

 現在の称号は『気のいい慎重派』です。


***

280 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 03:03:13 ID:???


『……あの人、でいいんだよね……?』
「ああ、多分な……」

不安げに言うピコと目を見交わした森崎が視線を戻した先。
ぴょこぴょこと跳ねるように辺りを見回しているのは、一人の女性である。
春の陽気にも肌の露出を極力抑えるような黒の長袖にロングスカート。
ヒールの低い編み上げの革靴を履いた足は忙しげにあちらこちらへと歩を運んでいる。
布を巻いた頭の後ろからは一本にまとめた長い髪の束が覗いており、女性がその向きを
変えるたびに馬の尾のように揺れていた。

「旦那様ぁ〜! ……んもう、どーこ行っちゃったのかなー、あのおジイちゃんってば!
 ちょっと水を汲みに行ったらいなくなるんだもん。とうとうボケちゃったかな?」

主を呼ぶ声とほとんど変わらぬ大声で雑言を漏らしたその表情には、
遠目にも不安が浮かんでいるようには見えない。

「……本当にアレだよな?」
『あ、行っちゃうよ!』

声をかけそびれていると、女性は他の場所を探そうというのか、森崎の方から遠ざかっていこうとする。
慌てて呼びかける森崎。

「おい、あんた!」
「ひゃあ!? な、何!?」

それほど大きな声を出したつもりはない。
特に奇抜なことを口走ったわけでもない。
しかし突然背後から声をかけられた女性は大層驚いた様子で、文字通り飛び上がっていた。

281 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 03:04:14 ID:???
「うお……」
『なんか、スゴい反応だったけど……』

女性は振り返って辺りを見回し、周囲には森崎しかいないと確認するや、血相を変えて猛然と駆けてくる。
思わず逃げ出しそうになる森崎だったが、何のために声をかけたのかを思い出し、
かろうじて自制した。

「ちょっと、そこのアンタ! もう! イタズラなら―――」
「ああ、驚かせちまったんならすまない。ひとつ確認したいんだが……」

眦を決して迫ってくる女性を手振りで制し、用件を伝えようとした森崎だったが、
女性の口から次に飛び出す一言に絶句することになる。

「―――イタズラなら、わたしも混ぜてよね!」
「え? ……混ぜ?」
「で! 次は何やるの!? 落とし穴? 看板の書き換え? トレンツの泉の小銭拾って
 塔みたいに積み上げて、ネコババしようとするヤツを脅かす遊びは先月もやったばっかりだから
 あんまりオススメできないけど、あ、でも逆に……」

女性の目に宿る意気込みは、本気だった。
本気で森崎が自分を驚かせたのだと思い、本気でそれが悪戯だと信じ、そしてまた、
本気で次の悪戯に自分も参加せんとする、それは瞳だった。

『やっぱり、人違いじゃないかな……。何だか、あんまり関わっちゃいけないニオイがするよ……』
「……。や、そうじゃなくてよ」

ピコの囁きに同意しかけた森崎が、一人迎えを待つ老爺の姿を思い出して小さく首を振る。
大きな瞳をキラキラと期待に輝かせる女性に向かって、意を決したように言った。

282 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 03:05:39 ID:???
「なあ、あんたが捜してるのって、こんな髭生やした爺さんか?」
「え? なんで知ってるの? ……まさか! 誘拐犯!? 身代金目的!?」
「違ぇよ!」

放っておけば際限なく膨らみそうな妄想を一刀のもとに斬って捨てた森崎の言葉に
女性は一瞬だけきょとんとした表情を浮かべると、すぐに真剣な顔つきになり、
そしてすぐに照れたように笑って手を振る。

「じゃあ、まさか! ……新手のナンパ!? やだもう、それならそうと言ってよー!
 うーん……外国人かあ、どうしよっかなあ……ね、じゃあご飯、おごってくれる?
 わたし、キャラウェイ通りに言ってみたいお店があってさ、この間お姉ちゃんが
 友だちと行ってすっごい良かったとか言ってて、」
「爺さんの話はどこ行ったんだよ! ていうか人の話聞けよ!」

一言、二言で済む説明に要した時間は、ゆうに数分を超えたという。


***

283 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 03:06:40 ID:???

「あ、いたいた! もう、えっらい捜したよ、旦那様〜!
 旦那様に何かあったら大奥様にも家令さんにも、大目玉じゃ済まないんですから〜!」

隙あらば無駄に喋り倒し、何かを見つけては駆け出して余計なことをしようとした挙句、
最後にはほとんど森崎に引きずられるようにしてきた女性が老爺を見つけるや言ったものである。

「おお、キャロル……面倒をかけたな」
「本当にもう、ダメですよ〜。子供じゃないんですから、あっちこっち出歩いちゃ」
「……」
『疲れてるね……』

もはや何を言う気力もない、といった体で首を振った森崎が、しかし女性の言葉に
ふと老爺を見やる。

「旦那様、大奥様に家令……って、そういや爺さん、あんた何者だ?
 やっぱこの近くに住んでる貴族か何かか?」
「おお、そうか。名乗りが遅れたの。儂は……」

老爺が告げた、己の正体とは―――



284 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 03:08:18 ID:ioLiSuAo

*ドロー

越後のちりめん問屋? → ! card


※ ! と card の間のスペースを消してカードを引いて下さい。
結果によって展開が分岐します。

スペード・ハート→「しがない隠居の身よ。かつては白騎士などと呼ばれたこともあったがのう」
ダイヤ・クラブ→「……亡国の爺ぃじゃよ。革命の火は儂からすべてを奪っていった……」
JOKER→「この顔を忘れたか、森崎」「ま、まさか、あんた……明和の大虎、吉良耕三……か!?」


***


本当はこの時代にはまだ男性につくのは近侍であって、メイドさんではなかったと思います。
夢物語。といったところで、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

285 :森崎名無しさん:2012/06/10(日) 03:10:37 ID:???
越後のちりめん問屋? →  ダイヤ8

286 :Q513 ◆RZdXGG2sGw :2012/06/10(日) 08:34:35 ID:???
越後のちりめん問屋? →  ダイヤ10

287 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:25:41 ID:???
>>286
ドローありがとうございます。
EP1を進呈いたします。


***


越後のちりめん問屋? →  ダイヤ10


「……儂はアルメイト・オライリー。今となっては何者でもない、亡国の爺ぃじゃよ」

訥々と語る老人の言葉は、聞く者に沈黙を強いるだけの重さで満ちている。

「もう、十数年にもなるかのう……。革命の火は儂からすべてを奪っていった……愛する妻、
 息子たち、美しき我が所領と民……誇りある国の名すら」
「……」
『革命……っていうと……』

呟くピコの声も、独り言じみて低く響き、梢のざわめきに溶けていく。

288 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:26:42 ID:???
「ボルキアの、亡命貴族……」
「……」

ピコの言葉を引き継ぐように漏らした森崎の言葉にも、老爺はただ目を閉じ、ゆっくりと首を振る。
それはおそらく、森崎の言葉を否定するものではなかった。
肯んじ得ぬ何か、たとえばそれは時であり、世の潮流であり、運命とさえ呼び習わされる
大きな何かへと向けられた、拒絶の意思であった。
再び、沈黙が降りる。
しかし強いられた沈黙など、意にも介さない者がいた。
勿論、老爺を捜していたメイドである。
けらけらと甲高い笑いで静寂の幕を切り払いながら、言う。

「なーに格好つけてるんですか旦那様。あ、この方、昔はベージャ侯爵っていって、
 ボルキアでは結構偉い貴族だったのよ。だからアンタも粗相しちゃダメだかんね!」
「……」
「……」

唖然とする森崎の腕をばんばんと叩いて笑うメイドの言葉に、脇に座る老爺が
脱力したように肩を落とす。
しかしそれは、呆れ果てたのでも弛緩したのでもなく、水槽に溜まった汚水を洗い流すような、
決して悪くない力の抜け方であるように、森崎には見えた。
このメイドの、ある種底抜けの精神は存外老爺にとっての救いであるのかもしれない。
そんなことを考える森崎に、メイドがその大きな目をくるくると回しながら口を開いた。

「あ、名乗ってなかったよね? アタシはキャロル・パレッキー。旦那様の身の回りのお世話してんだ。
 あ、下のお世話はするけどアッチの方はナシの契約だよ! っていっても、旦那様のは
 もう全ッ然、役に立たないけどね! キャハハ!」
「……むぅ……」

キャロルと名乗ったメイドの、あまりにもあけすけな言葉の羅列に、唸り声ともため息ともつかぬ音が
老爺の喉の奥から漏れた。
同情するように眉根を寄せた森崎が、小声で囁く。

289 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:27:44 ID:???
「爺さん……あんたのとこ、人手が足りねえのか……?」
「これで仕事はよくできるんじゃよ、仕事はの……」
『……この人にできる仕事って、どんな仕事だろ?』

ピコの疑問は森崎にもまったく答えが出せないものであったが、しかし雇い主が言うのであれば
それなりに間違いのないことなのであろうと、肩をすくめる。

「ほら、帰りますよ、旦那様〜! じゃ、そこのアンタも、ありがとね!」

そんな森崎たちの内心など知る由もなく、キャロルは老爺の脇に立つと、肩を担ぐようにして
無理なく立ち上がらせる。
その手際だけをみれば、確かに慣れた仕事のようでもある。

「……おお、そうじゃ、お主。何か困ったことがあったら、儂の名を出してみるといい。
 ただの爺ぃにも、古い友人はおるでな。役に立つこともあるじゃろうて」

去り際、老爺は森崎にそんな言葉を残していった。
こうして国立公園の散歩は、森崎にとって様々な意味で忘れ得ぬものとなったのである。


******

290 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:29:28 ID:???

称号『亡命貴族の知己』を獲得しました。
効果:評価+10。

現在の称号は「気のいい亡命貴族の知己」です。


※スキル「旧ボルキアの人脈」が一度だけ使えるようになりました。
旧ボルキア亡命貴族はドルファンとの政治的関係が深く、特定の判定に影響を及ぼします。
使用のタイミング、用途は任意に設定できます。
いざというとき、選択への回答に使用する旨を記載して下さい。
回答が採用された場合のみ、使用回数が消費されます。
【チャレンジ】でも使用可能です。その場合も採用時のみ使用回数が消費されます。


***

291 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:30:58 ID:???

「ここを抜けて、もうちょっと行けば……ぐむむ、広すぎるんだよこの街!」
『まあ、一国の首都だからね……』

老爺とそのメイドと分かれ、しばらくの後。
支給されている簡単な地図を片手に悪戦苦闘していた森崎だったが、
ようやく正しい道を見出したようで、喜びの声を上げる。

「あそこを曲がって……ほら着いたぞ、次の目的地だ!」
『うわあ……』

角を曲がった森崎を出迎えたのは、瀟洒な街並みである。
一本の大きな坂をメインストリートとして左右には多種多様な色彩の店が所狭しと躍動していたが、
よく手入れの行き届いた街路樹が等間隔に配置され、雑然とした印象は与えない。
整備された石畳は落ち着いた色調で計算された景観を演出している。
明るい色調で並ぶ店構えは坂の下から見上げる森崎に近い方から画廊、喫茶店、菓子屋に小物屋、
小洒落た服屋に軽食店。
どれも明るい色調と可愛らしい装飾に彩られ、埃っぽさや胡散臭さとは無縁の佇まいである。

「マリーゴールド地区、ロムロ坂……。若者に人気の通りとは聞いてたが……。
 な、なかなかハイカラじゃねえか……」
『オシャレさんの街だね……』
「つーか、すげえ浮いてんぞ俺……」

292 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:32:26 ID:???
どんよりとした顔で呟いた森崎は、言葉通り行き交う人々に奇異の視線を向けられている。
坂を登り、あるいは降りてくる人々は皆、垢抜けた身なりとこざっぱりとした流行の髪型で、
そして何より順風の生を謳歌する者たちに特有の、内側から湧き出すような笑みを浮かべている。
薄汚れた格好に殺伐とした顔つきで立ち尽くす森崎は、そんな彼らとはまさに対照的であった。

『仕方ないね……』
「てか、くそ……せめてこっち、見ろよ……」

刺のある視線を突き刺してくるのなら、まだいい。
跳ね返すことも、逆に突き返すこともできる。
しかしこの明るい街を行く者たちは皆、森崎を一顧だにしようとしないのである。
避けるでもなく、意図して無視するわけでもなく、単に目に入らぬというように、
あくまでも自然な様子で森崎を『ないもの』として扱うようであった。
それはいわば、満ち足りた者たちだけが交わす、そうでない者には見えず聞こえない信号が
頭の上を飛び交っているような、どうしようもない座りの悪さを森崎に与えていた。

『で、どうするの?』
「ぐぬぬ……こうなったら……」

しばらく唸っていた森崎が、意を決したように顔を上げる。

「……こうなったら、行くかピコ! 戦略的転し……」
『うん、逃げるんだね』

言いかけたところへさらりと被せられ、森崎の言葉が止まる。

293 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:33:45 ID:???
「に、逃げ……」
『逃げるんだよね?』
「ぐ、ぬぅ……」

機先を制された森崎が、奇妙な声で呻く。
このとき、彼の中に巣食う天邪鬼が盛大に騒いだのだろうか。
口を開いて出てきた言葉は、心中とは正反対の代物であった。

「……ハン、に、逃げるだって!? この俺が!?
 森崎有三様が若僧どもの街なんぞにビビってるとでも!?」
『……違うの?』
「そんなわけあるか! 平気の平左だぜ!」

ぎぎぎ、と軋みを上げそうな仕草のまま踏み出した森崎の顔は、見事に強張っている。

『あーあ、無理しちゃって……』
「ほら何してんだピコ、迷子になっても捜してやんねえぞ!」
『はいはい……』

自らを奮い立たせるような怒鳴り声を、ぱたぱたと小さな翅が追いかけるのだった。


***

294 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:39:51 ID:???
といったところで、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
連日、選択のないヒキで申し訳ありません。
本来であればロムロ坂にも行く/行かないの選択があったのですが、
既に二回の行動キャンセルがあったため自動選択となっています。

ロムロ坂では国立公園ほどではありませんが小イベントがありますので、
選択を用意できる見込みとなっております。
それではまた、次回更新にて。

295 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:43:17 ID:???
***


ドルファンにおける若者文化の発信地・ロムロ坂で最も多い業種は飲食店である。
昼間は喫茶店、夜にはアルコールを出す類の店が軒を連ね鎬を削り、栄枯盛衰を体現している。
そんな飲食店の次に多いのが、服飾を扱う店舗であった。
男性向けにはワイルド系からスポーティ、クール、シック、ビビッド、女性向けならキュートにファンシー、
ガーリーやらクラシックやらオーソドックスやらフォーマルやらのドレスにインナー、ジャケット、コート、
シャツにパンツにベルトにシューズ、帽子に時計にアクセサリーと、明日のモードを牽引すべく
それぞれの店ごとの特色を前面に押し出して綺羅星の如く並び、覇を競っていた。
無論、森崎にとって、それはさながら異界である。

「……」
『……』

ドレスコードがあるわけではない。
店員が冷たい目で見るでもない。
そもそも、それ以前の問題である。
森崎の行く手を阻むのは、己が心に聳え立つ敷居の高さであった。

「―――」

ごくり、と生唾を飲み込んで一軒目の扉と睨み合うこと二十分。
無理だと悟って二軒目と対峙すること十五分。
駄目だと呟いて向かった三軒目では、十分と保たなかった。

296 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:44:19 ID:???
「やっぱり、俺にはまだ早いんだよ……」
『帰るなら止めないけどね……まあ、よく頑張った方じゃない』

四軒目の、流麗な筆記体で新トルキア語ではない文字が躍る看板を三十秒ほど眺めた森崎が
そう漏らすと、ピコがそよ風を微塵に刻んだような小さな小さなため息をついて、
森崎の背をぽんぽんと叩いた。
その小さな手の感触に押されるように踵を返した森崎が、とぼとぼと坂を下り出した、そのときである。

「あらン? ……ちょっと、そこのお兄さン」

蕩けるような声とともに森崎を包んだのは、くらくらするような甘い香りだった。
鼻腔の奥にまとわりつくように濃密なそれを麝香だと森崎が看破したのは、
かつて幾度か招かれた高級娼館に漂っていた匂いに酷似していたからである。
振り返ると、そこに女がいた。

「―――」

森崎が、息を呑む。
女性の、女性たる所以をその体一つで表現するような、それは女であった。

297 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:45:20 ID:???
波打つ長い髪は陽光に融けてそれ自体が宝飾品であるかのように輝く黄金。
匠が生涯を賭けた一筆に引かれたような切れ長の瞳から真っ直ぐに鼻筋を下ると、
ふっくらと柔らかそうな唇は鮮烈な朱を引かれ、微笑のかたちに囚われている。
細い喉から流れるような肩のラインは青空の下に晒すことが赦されない罪業であるかのように
白くたおやかで、露出した二の腕に填められた大ぶりな黄金の腕輪は、まるでこの女を
誤って天へと登らせぬよう、大地に繋ぎ止めようとする風ですらあった。
ロングノーズの黒いブーツと萌黄色の長い薄布のドレープとに包まれた足は
御簾の向こうにその影だけを映す高貴な姫君のように脚線美だけを浮き上がらせ、
その魅惑の肌を軽々と覗くことを許さない。
衝動に任せて抱けば折れてしまうだろうと思わせる柳腰から視線を上げれば、
そこには楽園が揺れている。
南国の果実の皮を剥いて中からこぼれ出た白く甘い果肉のような、馥郁たる二つの膨らみに、
森崎の目はピンで留められたように固まっていた。
動けない。否、動くことを網膜が、視神経が、それを司る脳髄が、いま視線を動かすことを
徹底的に拒絶していた。
ふわふわと、ふるふると、おそらくは女の呼吸とともに上がり、下がり、揺れるそれを、
森崎の中の男性と呼べるすべてが求めていた。
世界から音が消える。
温度が消え、匂いが消え、色が消え、ただ視覚と触覚だけが残る世界で、森崎が静かに集中を高めていく。
光が、見えた気がした。
その光に向かって手を伸ばそうとした森崎が、

『この……ばかちんがぁ〜っ!!』
「ぐおおっ!?」

盛大に、叩かれた。
突然の衝撃に森崎は受け身も取れず、前のめりに転がる。

298 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:46:21 ID:???
「……そんなに驚かれるとは思わなかったわぁ。ごめんなさいねン」

色も音も戻った世界で、女が眦の下がった目を丸くして森崎を見下ろしていた。

「……転んだだけだぜ。で、俺に何か用かい、お嬢さん」
『倒れたままカッコつけようとしても無駄だと思うよ』

じとりとした半目で腕を組んだまま、ピコが言う。
思わずそちらを睨んでしまう森崎だったが、女は意に介した風もなく口を開いた。

「お兄さン、この辺じゃすごぉく珍しいカッコ、してるわねぇ。
 私、断然お兄さンに興味持っちゃったのよン」

ねっとりと絡みつくような声音は森崎の耳朶に蠱惑的な響きと熱とを残して溶ける。
その言葉に、森崎がガバリと顔を上げた。

「俺に、興味? ……フフ、フハハ! どうだ! 俺のセンス、見てるヤツはいるってことだ!
 ロムロ坂、恐るるに足らずだぜ!」
『……センスって、きったないだけじゃない』

ぽつりと悪態をつくピコ。
まるでその言葉が聞こえているかのように、女が微笑んで、言った。

「センス? 何を言ってるのン」
「……え?」

大輪の花が開いたような、甘い魅惑に満ちた笑み。
唇の間から、白い歯が覗いた。

299 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:47:23 ID:???
「私が興味あるのは、この街をそンなカッコで歩けるお兄さンの度胸よン。
 アナタ、磨き甲斐ありそうだわぁ。私の服で、変身させてあ・げ・る」
「……なにィ!?」

尻餅をついたままの森崎が見上げる先。
女の背後には、陽に映える白い看板に銀細工の文字が輝いている。

『サロン ノエル・アシェッタ』。

それが彼女の店の名であり、ブランド名であり、そして彼女自身の名でもあった。


***

300 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:48:42 ID:???

「……で、俺にこの中から選べってのか」
「そうよン。まずはアナタがいまどこまでやれるのか、試させてもらうわぁ」

麝香の香り漂う室内に、声が響いた。
できる限り外の光を取り込まぬよう工夫された飾り窓の薄明かりが、店内を淡い色調で満たしている。
外界と切り離されたような静かな空間にいるのはノエルと森崎、そしてピコだけであった。
色彩もデザインもまったく統一感のない、かろうじて衣服というカテゴリだけで括ることのできる
生地たちが所狭しと吊り下げられている中、ノエルが森崎の前に並べたのは三種類の服である。

「……これは分かるぜ。ごく普通だ。仕立ても丁寧で悪くねえし、外に出てもまあ恥ずかしくはねえ」

言って森崎が指さしたのは、真ん中に置かれた一群である。
綿の開襟シャツに無地のスラックス。
風合いにも変わった点はない。
森崎がこの店に入って最初に注文した下着もこざっぱりとしたものが用意されている。

「が、こいつは何だ。服か。本当に」
「私としては、そっちがオススメなのよン。……ちょっと初心者にはキツいのが玉に瑕だけどねぇ」

右側に置かれた一群を指さした森崎に、ノエルが平然と答える。

『……ピエロみたいだね』

ぼそりと漏らしたピコがちょこんと座るその布地は、言葉通りサーカスの道化がその身に纏うような、
過剰なまでのフリルやレースに溢れたものであった。
薄暗い店内でもはっきりとわかるような極彩色をふんだんに使ったその珍妙な装束は上着とズボン、
更には帽子と靴までがどうやら一体化されているようで、蝉が脱皮する様を逆回しにするように
背中から体を入れ、丸く開いた穴から顔だけを出すらしい。

301 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:49:48 ID:???
「……頭痛くなってきたんだが、一応最後まで聞くぜ。……こっちのは、本当にこれだけなんだな」
「勿論よン」

最後に、左側に置かれたそれを目線だけで示した森崎に、ノエルが魅惑の微笑を浮かべながら言う。

「これはこういうものよン。シルクロードの向こうからやってきた東洋の神秘よン」
「よーく知ってるぜ。……ただし、俺らはそのシンピとやらをこう呼んでたがな―――」

置かれた白く長い布切れを、森崎が掴むや叫ぶ。

「フンドシだろ、これ! 確かに下着だけどよ! 俺、ずっと着けてたけどよ!?
 どうしろってんだよ、これだけで!」
「注目、集まるわよン」
「そりゃそうだろうよ!」

ほとんど怒鳴りつけるような森崎の声にも、ノエルは動じない。
とろんとした蕩けるような瞳で森崎の目を見ると言ったものである。

「オリエンタルモード、来ちゃうかもしれないわよン?
 そうなったらアナタ、間違いなくファッションリーダーとして注目の的になれるわン」
「その前にお縄になるわ!」

力いっぱいに褌を握り締めて言う森崎の鼻先に、つい、と白魚のような指がつきつけられる。

「選ぶのは、アナタ。磨くのは、私」

ふっくらとした唇から声とともに漏れた吐息の震えが、薄暗い店内の大気を揺らして
森崎の耳に、或いは鼻孔に、そして舌の上に伝わる。

「リスクとリターンは仲の良い姉妹だわン。どちらかだけを連れ出すことはできないのよン。
 私は、アナタというリスクに賭けたのよン。アナタがどの道を選んでも、私の張りは変わらない。
 ……それでアナタは、どうするのン?」

302 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:50:50 ID:aX5l3GLw
*選択

A チャレンジ! アバンギャルド!

B 無難! 初心者向け!

C 漢! 褌一丁! (必要CP:1)


※森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を【森崎の視点から】必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『6/12 21:00』です。


***

といったところで、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

303 :雑魚モブ ◆.xniaLTHMk :2012/06/12(火) 06:47:41 ID:vU9c71/U

Aの服は相手によって不快感を与える恐れがあるから
また、流行の服などは流行が過ぎるとただの変な服になってしまうから。

304 :聴衆 ◆0Sa9mRG4IM :2012/06/12(火) 13:53:14 ID:???
A 森崎なら奇抜なものを好むも一興

305 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/12(火) 14:51:40 ID:???
B
戦場で手柄を誇示するためならド派手な服もいいかもしれないけど、
このスレの森崎は(というか森崎は基本的に)派手なカッコでいつもいられるほど肝は太くないでしょ。
そのへん、彼の神経は基本的にマトモだよ。

306 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/12(火) 18:40:40 ID:???
Aファッションの事に疎い森崎としてはノエルの目利きに賭けるってのも有りなんじゃないかと思います。

307 :森崎名無しさん:2012/06/12(火) 18:59:29 ID:???
B
リスク、リターンが問題になる時は当初の目的に立ち返って考える必要がある。
最初の購入目標は「臭くない下着(>>213)」、つまり目立とうとか流行とかは全く考慮する必要はない。
また、歴戦の傭兵である森崎は見栄えばかり気にして実用性を疎かにする未熟な傭兵も山ほど見てきているはず。

308 :源氏 ◆rLDAH8Hy8Y :2012/06/12(火) 19:00:36 ID:???
っと失礼>>307です。

309 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/12(火) 19:57:21 ID:???

奇抜な衣装そのものに人の視線を集めることで森崎自身の印象は薄まる。
つまり有事の際に普通の服を着ることで潜入・逃走を容易になしうるというステルス効果を期待して。

勿論エロそうなお姉さんのオススメに応えたい下心もある。

310 :テトラ ◆yfCGLLZSBA :2012/06/12(火) 20:40:07 ID:???
B
今までの描写、年齢的にも奇抜な服を着る勇気はないと思う。
勇気よりも恥ずかしさの方が勝る気がする。

311 :Q513 ◆RZdXGG2sGw :2012/06/12(火) 20:56:02 ID:???

オススメってのに悩んだけれど、四六時中着るのは躊躇われるデザインに思えるんだよなあ
買った上で箪笥の肥やしにするのも不義理って気もするし


312 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/12(火) 21:03:57 ID:???
イザって時の一張羅に出来るのならそれも良いのでしょうけどね。

313 :見てる人 ◆S/MUyCtQBg :2012/06/12(火) 23:33:27 ID:???
ひょっとしたらEPとか使ってもいい場面だったかもですね。森崎センス無さそうだし。
『……ピエロみたいだね』 以外のヒントが見付からなかった。Bがよさそうかな?
私は時間間に合わなかった上に、EP持ってないですがw 格好が合わない的なのが本文でよく言われてたから。
貴重なCPを褌に使ってみたい気持ちも若干あった・・・

314 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:09:19 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>302の選択については……

>>307-308 源氏 ◆rLDAH8Hy8Y様の回答を採用させていただきます!

すっかり状況に流されていた森崎を我に返らせる、快刀乱麻を断つようなお答え、お見事です。
CP3を進呈いたします。

また年齢という観点を提示していただきました>>310 テトラ ◆yfCGLLZSBA様の回答も、
次点として話に絡めさせていただきます。完全に盲点でした。
CP1を進呈いたします。



>>303
森崎の礼法値が高い場合は非常に説得力のあるお答えになっていたと思います。
過ぎた流行は……昔のテレビ番組などの映像を見ると、つい笑ってしまうことがありますよねw

>>304
現在のパラメータやこれまでの描写などから理由付けをしていただけると
採用の可能性もグッと高まってくるかと思います。

>>305
そうですね、現在のところは好き好んで傾くような人物像ではありません。
もっともその辺りは人物称号や、何より選択の積み重ねで大きく変わってくる部分でもあります。
派手好きでド外道な森崎も、場合によってはあり得る可能性……といったところでしょうか。

315 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:10:51 ID:???
>>306
プロに任せる安心感は大きいですね。
いつの間にか丸め込まれてしまう危険性も無きにしも非ず……ですがw

>>309
あまりにも予想外のお答えが!
成る程、そういう視点もあるのですね……非常に興味深い切り口でした。
勉強させていただきました。

>>311
プレタポルテとはいえ、ショーの舞台で映えるような服は日常には不向きですね。
まあ、服くらい毎日替えようよ……とは思いますが、何しろ産業革命を迎えておらず
綿の大量生産がきかない時代の話、なかなかままならない部分もありそうです。


ご回答いただいた皆様にEP1を進呈いたします。


>>313
褌は超ハイリスクでしたが、万が一の大当たりを引けば恐ろしいリターンがありましたw
ちなみにピココールなどは危険な雰囲気が漂い始めたら後手に回らないよう
早めに使われることをお勧めいたします。
中盤以降は、目の前でシビアな選択を迫られている場面では既にもう手遅れで
ダメージコントロールに終始するしかない……という状況も考えられます。
勿論死亡判定の回避や妖怪いちたりないの撃退に使う分を貯めるのも戦略ですので、
そのさじ加減を含めてお楽しみいただければと思います。

316 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:11:52 ID:???
***

B 無難! 初心者向け!


「さあ……選ぶといいわン」

ふっくらとした唇が動き、白く並びの良い歯が、その向こうで艶かしく蠢く舌が、音を紡ぐ。
森崎の鼓膜を通して喉の奥、脊髄の中枢にまで忍び込むそれは、ほとんど呪言である。
喉が、渇く。

「さあ―――」

息を吸えば肺腑を満たすのは麝香の甘い香り。
べったりとした薄い膜が肺の中にへばりつき、息苦しさを助長する。
そんな錯覚を覚えて、森崎の呼吸はますます乱れていく。

「……、」

何かを言おうとした森崎だったが、喉から漏れた掠れた音は声にならずに消えていく。
目の前には、三つの道。
原色の赤と緑、黄色が乱舞するような布地の一群が、森崎の網膜を刺激する。
ふらりと、手が伸びかけた。
極彩色のそれに指が触れる、その寸前。
森崎を止めたのは、光である。
目を刺す光は、点いては消え、消えては点き、明滅を繰り返していた。
視線を、動かす。

317 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:12:54 ID:???
『……』

そこには、小さな幻想の精がいた。
はたり、はたりと、籠った空気を撹拌するように羽ばたく、透明な翅。
その翅が、飾り窓の隙間から射す薄明かりを反射していたのだった。

「……いや、待て。ちょっと待て。よく考えろ、俺」

くらくらと甘い香りに満たされていた頭の中に、目から入った光が差し込む。
清水が泥を落とすように、光の欠片は森崎の脳髄を洗い流していく。

「俺……何やってんだ? ここ、どこだ? 何でこんなことになってる?」

流行。若者文化。明るい街並み。道行く笑顔。きらびやかな店。
モード。アヴァンギャルド。ファッションリーダー。
それは何かと、問う。
答えは返らぬ。
返らぬのも、当然であった。
森崎の中に、つい今しがたまでそんなものは存在しなかった。
得体の知れぬ言葉たちが、蠱惑的な女の口を借りて森崎をぐるぐると縛っているに過ぎなかった。

「そうだ……! 俺は、俺はただ、下着の替えを買いに来たんだよ!
 それがどうして、こんな格好しなきゃなんねえんだ……っ!」

己を縛る鎖の束を引き剥がすように、叫ぶ。
立ち上がった森崎の目には、既に極彩色の服は映っていない。
それは単に奇天烈な布地の塊、糸で縫い合わされた得体の知れぬ言葉たちの集合体でしかなかった。

『……ていうかキミ、そんな冒険するほど若くないからね』
「なにィ!?」

ぼそりと呟いたピコの言葉が、トドメだった。

318 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:13:54 ID:???
***


「せっかく期待してもらってるところ悪いが、俺はこいつを貰うぜ」

完全に我に返った森崎が、綿のシャツとスラックス、そしてこざっぱりとした下着を手にとって言う。

「……あらン、残念」

ほんの僅か、眉尻を下げた女の口から出た言葉は、それだけであった。
小さく肩をすくめた拍子に、たわわな双丘がゆるりと揺れた。

『……』
「……」

再び囚われかけた視線を二秒で逸らしたのが、森崎の精神力の発露といえようか。

「ここで着替えていってもいいわよン」
「いや、新しい服に袖を通すのは、水を浴びてからにするよ」

襟元に指を入れ、空気を送る仕草をしてみせる森崎。
その様子にノエルが頷き、扉を指し示す。

「ま、それもそうねぇ。お帰りはあちら……次に来たときには、また期待しちゃうわン」
「次もまたこういうのを貰うさ」

言って、森崎が厚い木製の扉を開ける。
ぎい、と軋んだその向こうから溢れ出す午後の陽光に目を細めた森崎が振り返ると、
元より薄暗かった店内がまるで闇に閉ざされているように錯覚する。
音のない屋内には、既に女の姿は見えなかった。

319 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:15:00 ID:???
******


※称号『無難派オサレ・初級』を獲得しました。
効果:魅力+5。


******

320 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:16:18 ID:???


『……今度は急に田舎臭くなってきたね』
「だな。まだ、さっきのロムロ坂からそんなに離れてねえはずなんだけどな」

ついに目的の買い物を果たした森崎が、傾きかけた日を浴びながらのんびりと歩いている。
春を謳歌する鳥たちの囀りや遠くから聞こえる牛の鳴き声が、やわかな陽射しと相まって
張り詰めた精神を解きほぐしていく。

『ケモノの臭いがするよ……あ、そこ牛の糞、気をつけて』
「なにィ!?」

慌てて飛び退く森崎の足元には石畳など敷かれていない。
かろうじて大きな石ころだけが取り除かれているだけの、土がむき出しの田舎道である。

「つーかまあ、農道だよな、これ」

広々とした視界にはまばらな人家とそれを囲む畑や果樹園が広がっている。
その向こうでは放牧されている牛がのそのそと草をはみ、文字通りの牧歌的な光景を醸し出していた。
そんな光景を見渡してぽそりと呟いた森崎が、木と草と土と堆肥と家畜の臭いの入り混じった空気を
大きく吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
城北、カミツレ地区。
山林と高原で構成された、農林業でドルファンという都市の人口を支える地域である。

321 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:17:20 ID:???
『さっきよりよっぽどリラックスしてるねえ』
「ま、こっちのが性に合ってんのは否定しねえさ」
『で、キミの性に合ってるこの長閑な風景の向こうには何があるの?』

ピコの言葉に手元の地図を見なおした森崎が、書いてある文字をそのまま読み上げる。

「この辺にあるのは……地下墓地に神殿跡、だってよ」
『何それ?』
「旧トルキア時代より更に前、古代の遺跡らしいぜ。まあ観光スポットだな」
『ふうん。で、何か売ってるの?』
「土産物とかじゃねえか」
『ほしい?』
「いらねえなあ」

肩をすくめた森崎の手元に、ピコがふわりと舞い降りる。
腕に腰掛けて、地図を覗き込んでいるようだった。

『この、銀月の塔っていうのは?』
「それも遺跡だな。ただ他よりは新しくて、観光スポットってよりはどっちかっつーとデートスポットらしい」
『遺跡なのに?』
「山の上に立ってる塔で、見晴らしがいいんだと。ドルファン全体が見渡せるとか」
『は、はぁ〜ん』

そこまでを聞いて、ピコが森崎の腕に腰掛けたままにやりと笑うと、うんうんとわけ知り顔で頷く。

322 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:18:21 ID:???
「……何だよ」
『街を一望できる……つまり、夜景もバッチリってことだよね』
「だな」
『で、周りは静かで、デートスポットとして有名で……』
「……」
『もう! コレ以上言わせないでよこのスケコマシ!』

きゃー、と頬を赤く染めながら小さな手でぱしぱしと森崎の腕を叩くピコ。
そんなピコの襟首を摘み上げると、森崎は無言でその小さな相棒を中空へと放り出す。

『ひゃあっ!? な、何するんだよ!』
「いいから、行くぞ」
『もう! レディはもうちょっと丁寧に扱ってよね!』

はたはたと透き通る翅をはためかせて戻ってきたピコが、森崎の頭にしがみつくと
拳を固めてぽこぽこと叩く。
小石が当たるどころか、髪が風にそよぐ程度の衝撃でしかなかった。

「こっちは腹減ってんだよ。いくら目的を果たしたっつっても、だらだら歩いてたら
 帰る前に日が暮れちまう」
『お昼、食べたじゃない!』
「食った気がしねえんだよ。それにあれから結構歩いてるだろ」

ぷりぷりと怒るピコを無視して歩き出した森崎が、ふと何かを思い出したように手元の地図に目をやった。

「そういや、あっちの山には燐光石の採掘場があるらしいな。てことは、飯場もあるか……」
『えー』
「何だよ」

即座に抗議の意を表明した相棒に、森崎が渋面を作る。

323 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:19:24 ID:???
『採掘場って、炭鉱みたいなものでしょ?』
「基本、同じだろうな」
『そんな男祭りの会場みたいなとこ行くの、ヤだ』
「あァ?」
『クサそうだもん。せっかく買った服も汚れちゃうかもよ』

あくまで抗戦の構えを見せるピコの主張を、しかし森崎は取り合おうとしない。

「言いたいことはそれだけか? じゃ、行くか」
『ちょっと! あたしの話、聞いてる!?』
「あんまり腹が減ると、お前を塩とバターで食っちまうぞ」
『もう! いーだ!』

爪の先ほどの小さな白い歯を剥きだすピコにひらひらと手を振って、森崎は歩き出すのだった。


***


燐光石とは欧州全土で照明に使われる物質である。
化学反応により生じる独特の白色光は炎より格段に明るく、また熱をほとんど発しないため
一般家庭でも生活必需品として使用されている。
カミツレ東第三鉱山第四採掘場、通称ヒガシの山はドルファン国内では非常に貴重な、
質の良い燐光石を多量に産する鉱山であった。
燐光石の鉱脈は山中を縦に貫くように形成されることが多く、従ってその坑道は深く、険しい。
採掘は文字通りの命懸けであり、従事する男たちは高い賃金を目当てに集まってきた
命知らずの力自慢どもである。

『そういう意味じゃ、傭兵と似てるよね』
「基本くたばる俺らと、たまにくたばるこいつらって違いはあるけどな」
『……あんまり似てないかもね』

324 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:20:24 ID:???
ガヤガヤと喧しく声の響く、天井の低い飯場を見回してピコが言うのへ、森崎が答える。
軽く一歩を退いたその脇を、どけどけ、と怒鳴りながら胸板の分厚い禿頭の男が通り過ぎていく。

「ま、傭兵稼業つっても、適当ないくさ場の見つからないときはこの手の仕事で
 糊口をしのぐことも多いしな。かく言う俺もその一人だが」
『う〜ん、でもやっぱりこのニオイは慣れないよ……』

くい、とその針の穴のような鼻をひくつかせたピコが不快げに呟く。
居並ぶ男たちが抱える皿から湯気を上げる、油ぎった揚げ物の匂いの他に飯場に満ちるのは、
他ならぬその男たちの放つ臭気。
即ち、汗と垢と土埃の入り混じった臭いである。

「そうか? 鉄と火薬と、それから臓物、血反吐の臭いが加わればいくさ場と同じだろ」
『言っとくけど、そっちにはもっと慣れないよ!』

言い放ったピコが、跳ねるように低い天井ギリギリまで舞い上がる。
そのすぐ下を潜るように飯場へと入ってきたのは、鉄板入りの靴音も激しい男たちの一群であった。
めくり上げた袖から覗く二の腕や胸板は例外なく逞しいが、陽光射さぬ鉱山労働のこと、
どの顔も不気味なほど日焼けをしていない。

『すっごい不健康そうだよね……』
「長けりゃ長いほど生ッ白くなってく仕事だ、日に焼けてんのは新米の証拠みたいなもんだぜ」
『で、キミはその新米に紛れてるってわけ?』
「慣れたもんだろ」

野太い笑い声が間近で弾ける中、森崎が食事の列に並んでいく。
笑い声が野戦砲の爆風なら、矢や小銃弾の替わりに飛び交うのは猥談である。
飯場に併設された娼館の女たちの具合の良し悪しから、寝物語に聞いた互いの寝技のキレについて、
或いは男としての前後優劣など、良家の子女が聞けば卒倒する以前に意味を理解できないような
おそろしく程度の低い、しかし当事者たちにとっては愉快極まりないのであろう文言が
音の波となって飯場全体を覆い尽くしている。

325 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:21:29 ID:???
『……キミは、ギャハハって笑うようにはならないでね』
「善処するよ。……っと、飯だ飯! さて、今日のメニューは何かなっと」

列が進み、順番が来た森崎の前に出されたのは……



*ドロー

! と food の間のスペースを消して、メニューを決めて下さい。

フライドチキンと、あとなーに? → ! food


※今回の更新が終わった後にドローして下さい。
 処理は次回更新時に行われます。

まともな食事であればガッツが回復します。
肉類であれば大きく回復します。
ゲテモノの場合はガッツは回復しません。



***

326 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:22:36 ID:???

「ふぃ〜、食った食った……と。……お? 何だ?」

空の皿を抱える森崎の耳に飛び込んできたのは、荒々しい物音である。
何か、硬いもの同士がぶつかる音。
それから陶器の割れる音と、飯場のざわめきを圧するような、聞くに堪えない罵声。
声の主は二人いるようだった。

『……喧嘩みたいだね』

ピコが呟く。
罵声の応酬はすぐに怒号に変わり、更には咆哮に近い叫び声へと変じていく。
今や飯場の視線を釘付けにするその騒動の元を見る森崎。

「デカいのとちっこいのがやり合ってるのか。……まあ、無理だな」

森崎が呟いた通り、体格差は如何ともし難いようだった。
周囲が迷惑そうに場所を開ける中、ポッカリと空いた空間で取っ組み合いを始めた二人だったが、
すぐに体躯の小さい方が組み敷かれる。
馬乗りになった巨躯の男は拳を振り上げると、容赦なく小さい方の男へと振り下ろす。
ぐしゃりと、顔にめり込んだ。
鼻筋が砕けたようで勢い良く血を噴き出し始めた小さい方の顔面へ、追撃の一発。
ぐう、と喉の奥から濁った音を漏らして、小さい方が首を振り、何事かを叫ぶ。
謝罪のようだった。
許しを請う小さい方の言葉にも、しかし巨躯の男はますます憤慨した様子で顔を赤くすると、
石塊のような拳を更に振り上げる。

『わ、あの人、あれ以上やられたら死んじゃうかも……誰も止めないのかな?』
「まあ、こういう場所での喧嘩は人死にが出ることも珍しくないからな……」
『う〜ん……どうする?』

327 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:23:37 ID:3uJHPSGI
*選択

A 「おいおい、そこら辺にしときな」 割って入る。

B 「見てらんねえ。ちっこいの、助太刀するぜ」 不利な側に加勢する。

C 「他人の喧嘩に口出すのもなあ……」 傍観する。



*選択

森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を【森崎の視点から】必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『6/13 22:00』です。


また>>325のドローも宜しくお願いいたします。


******


といったところで、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

328 :雑魚モブ ◆.xniaLTHMk :2012/06/13(水) 06:44:52 ID:???
フライドチキンと、あとなーに? →  スモークサーモン

329 :Q513 ◆RZdXGG2sGw :2012/06/13(水) 08:35:10 ID:???

謝っている以上、死にそうなのを放っておくのは後味が悪い
ただ、そもそもの非が小さい方にある可能性もあるので、止めるくらいにしておく

330 :とやま ◆bz6wYVJDKA :2012/06/13(水) 09:44:04 ID:???
選択:A
理由:目の前で人死が起こるなら止める。
   しかし事情も知らない争いに関して、下手に手を出すのは避けるべき。
   小さいほうにまだ若干の余裕があるのなら、
   いかなる経緯で喧嘩になったのか、周囲に者に聞いてから割って入る。
   と無難派は考えるかもw

331 :ノータ ◆JvXQ17QPfo :2012/06/13(水) 19:15:02 ID:???
「B」
理由:こんな場所での喧嘩は死人が出るのは珍しくないそうだから、途中から入るのも珍しくないだろう。
   とは言え、先の戦闘での結果を見る限り傭兵の森崎なら殺しはしないだろうし
   何より、飯屋で騒がられるのは良い気がしない、顔なじみのところでもないし。

332 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/13(水) 20:22:06 ID:???

喧嘩で自制の利かない素人は実力行使で痛い目見せておいた方がいい。
でないとホントに殺人者になっちまうぞ。
と考えて

また、差別・メイド・デザイナーとやれやれな一日だったので、腹ごなしがてら運動したい気持ちもある。

333 :源氏 ◆rLDAH8Hy8Y :2012/06/13(水) 20:29:09 ID:???
A
事情は全く異なるだろうが、波間のかもめ亭での一件が脳裏をよぎる。
眼前で振るわれる暴力を上手く収めることが出来れば今日一日しこりを残さずに終わらせられるかもしれない。

周りの迷惑そうにしている客を巻き込む形で大男の頭を冷やすことが出来れば。

334 :◆W1prVEUMOs :2012/06/13(水) 20:38:01 ID:???

今の森崎はこういうトラブルを放っておくと目覚めが悪い
と思うはず

335 :テトラ ◆yfCGLLZSBA :2012/06/13(水) 20:56:35 ID:???
A
ここは鉱山労働者の飯場なので、森崎はあまり目立ちたくないはず
だが今までの事からこの状況を見過ごすことはできないと思う。
加勢は相手の体格、傭兵の森崎にとってアウェーなのでしない。

336 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:01:07 ID:???
>>328
ドローありがとうございました。
EP1を進呈いたします。

※森崎のガッツが30回復しました。


皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速ですが、>>327の選択については……

>>329 Q513 ◆RZdXGG2sGw様の回答を採用させていただきます!
シンプルかつ明確な指針、ありがとうございます。
CP3を進呈いたします。

また>>333 源氏 ◆rLDAH8Hy8Y様の回答もここまでの展開を踏まえて
森崎の心情を捉えた、素晴らしいものでした。
CP1を進呈いたします。

また>>330 とやま ◆bz6wYVJDKA様の回答について、
小さい方は大ピンチでしたので今回は採用を見送らせていただきましたが、
この先、その選択についての「手段」を講じていただく状況が出てきます。
その場合には今回いただいたようなご回答が模範的なものになるでしょう。
次点としてCP1を進呈いたします。

337 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:02:12 ID:???
>>331
傭兵は軍属なので帯剣していますが、確かに斬り捨て御免というわけにはいきません。
喧嘩で相手を殺したのが露見してしまえば普通に殺人罪、それも軍法会議にかけられるので
ほぼノーウェイトで極刑です……もっとも森崎は「三年間は死なない」という
ゲーム上の呪いを持った身なので、違う展開になっていきますが。
また現在はモラルが高めなので、加勢に入るには「それっぽい」理由が必要になってきます。

>>332
なるほど、「あなたのためだから」は頷ける理由ですね。
人物称号がひとつ前であれば採用させていただいていたと思います。
それにしても、この波乱万丈の一日はいつまで続くのでしょうか……?

>>334
そうですね。
すっかりこの手の騒動を放っておけない体質になりつつあります。

>>335
意外な視点を提供していただきました。
なるほど、あえて「加勢は」しない理由というのも面白いですね。


ご回答いただいた皆様にはそれぞれEP1を進呈いたします。

338 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:03:56 ID:???
***


A 「おいおい、そこら辺にしときな」 割って入る。


怒号と、暴力と、皿の割れる音。
その背を押したのは、眼前の光景が、何かひどく苦い後味を舌の上に蘇らせたからであろうか。
やり残してきたことを取り返そうと、心のどこかで考えていたのかもしれない。
立ち上がった森崎が声をかけたのは、大柄な男の拳がいま、まさに振り下ろされようとした瞬間である。

「……あァ!?」

野次や喧騒とは違う、突然の言葉に大柄な男が動きを止める。
殺気立った表情で振り返った、その目には森崎がどう映っていたものか。
男は憤然と立ち上がるや、猛然と森崎に向かってきたのである。

「すっこんでろ! 東洋人が!」

怒鳴った男が腕を振り上げ、拳を固める。
これから殴りますよと言わんばかりの挙動に、森崎が舌打ちして男を見据えた。

「チッ……すっかり頭に血が上ってやがる」
『こんなとこで怪我しないでね』

冷静に言うピコにちらりと視線を送った森崎に、拳が迫る。

339 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:05:00 ID:DUSQAIUU
*チェック

体術判定

目標値【17】 → ! numnum

※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
難易度−体術を目標値とし、目標値以上の値が出れば成功。
00が出た場合は難易度にかかわらず成功となります。
結果によって展開が分岐します。

成功→ 軽く身を躱す。
失敗→ パンチが直撃! ガッツ減少。

340 :源氏 ◆rLDAH8Hy8Y :2012/06/14(木) 01:06:10 ID:???
目標値【17】 →  11

341 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:07:35 ID:???
失敗→ パンチが直撃! ガッツ減少。


「俺を誰だと思ってんだよ、……っとお!?」

ひょい、と体を入れ替えようとした森崎の動きが、止まる。

「誰だ、こんなトコに椅子出しっぱなしにしてるヤツは……って!」
『危ない!』

ピコが叫んだときには、既に遅い。
石塊のような男の拳が、森崎の顔面を直撃していた。

「ぶべらっ!」

奇妙な悲鳴を上げながら飛んだ森崎が、食べかけの皿が満載されたテーブルに突っ込んで
盛大な音を立てた。

「……」
「……」

一瞬、飯場が静まり返る。
殴った男すら唖然とする中、

「痛ぇ……けど、まあ、これでひとまず気が済んだか?」

歯型の残る鶏肉や魚の切れ端、熱いスープを頭から被って湯気を上げる森崎が立ち上がり、
渋面を作りながら血の混じった唾を吐く。
しまらない姿に、大柄な男も毒気を抜かれた様子で森崎を見つめていた。


※ガッツが10減少しました。

342 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:13:28 ID:???
***


「……なるほど。つまり、お前はこのキルト人……」

と、頭からコンソメスープの匂いをさせながら大柄な男の話を聞いた森崎が、
腫れ上がった鼻に布切れを詰めていた小男を顎で指す。
小男が、内出血で赤黒く染まった顔をびくりと怯えたように歪めた。

「こいつに、金を貸してたと」
「……そうだ。お袋への急な仕送りが必要だとか言うからよ。けど、この野郎」
「その金をすっかり博打でスッちまったってわけか」

冷たく言い放つ森崎に、小男が立つ瀬のない様子でおどおどと周囲を見回し始める。
無論、逃げ場などない。
森崎を挟んで大柄な男と小男が座る周りには飯場にいた男衆がすっかり人垣を作って
三人のやり取りを見ていた。

「返せと言ってもアテがねえ、取り返してくるからもう幾らか出してくれねえかと、こう来やがった!
 ふざけやがって、この野郎!」
「わかった、わかったから立ち上がるんじゃねえよ」

口にする内に興奮したのか、男がいきり立つのへ森崎が宥めるように言う。
憤懣やるかたない様子で、それでもどうにか椅子に座り直した男を見やってから、
森崎が小男に向かって口を開く。

「要はお前が悪いんじゃねえか、馬鹿野郎」
「ひっ……」
「そうだろ、わかりゃいいんだ。後はこのクソッタレがミンチになるまで、黙って見ててくんな」
「うわあ!」
「って、待て待て待て! だからすぐにカッカするんじゃねえよ!」

343 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:14:29 ID:???
小男へ向かって手を伸ばしかける大柄な男。
すんでのところで制した森崎が、悲鳴を上げて椅子から転げ落ちた小男もろとも、
強引に二人を席に着かせる。

「こいつをタコにしたって、金が降ってくるわけでもねえだろ。
 気は晴れるかも知れねえが、その後は山から追い出されてお前の食い扶持がなくなるだけだ」
「むぅ……」

いかに荒くれ揃いの鉱山とはいえ、衆人環視の殺しとなればただでは済まない。
ましてここは深山幽谷の彼方ではなく首都城塞ドルファンの範疇であり、官憲の目もそれなりに厳しい。
それを思い出したのか、男が唸り声を上げて森崎を睨む。

「じゃ、どうしろってんだ。水に流せってのはナシだぜ」
「言わねえよ、んなこたあ。……お前、結局幾ら貸したんだ?」
「ひの、ふの、み……と、全部で……このっくらいだぜ」

聞けば、街に繰り出して美味い酒と飯が二、三度楽しめる程度の額である。
少し考えた森崎が、鼠のように周囲をちらちらと伺っている小男に声をかけた。

「お前」
「ひゃあ! 許してくれえ!」
「ワビ入れる前に働け」
「え?」

きょとんとした小男に、森崎が続ける。

344 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:18:21 ID:???
「ここは日払いだろうが。今日からその賃金の半分、毎晩きっちりこいつに渡せ」
「そ、そんなあ……それじゃメシ食ったらすっかり飛んじまいまさあ……。
 オネエちゃんの晩酌がなけりゃ、こんなこの世の地獄に耐えられませんぜ」

心底から困り果てた、とでもいうかのように言ってのける小男に、
森崎の堪忍袋の緒が切れる。

「やかましい、昼間は額に汗して働け、夜はクソしてとっとと寝ろ!
 キレイな体になるまで酒も女もねえだろが!
 借りた金で賭場通いなんざする馬鹿にはちょうどいい薬だ!
 つうかテメエのせいで俺は飯の食いさしまみれになってんだぞ、わかってんのか!?」
「ひ……!」

食い下がる小男を、森崎が怒鳴りつける。

『ご飯の食べかすだらけなのは自業自得だけどね』
「……」
『あ、耳の後ろ、人参のしっぽついてるよ』

無言のままぎろりと中空の相棒をを睨んだ森崎が、へばりついた野菜くずを乱暴につまみ剥がすと、
口に放り込んでがりがりと噛み砕く。
その様子が恐ろしかったのか、すっかり萎びた小男に鼻を鳴らして、森崎が大柄な男へと向き直った。

「ここらの相場からすりゃ、来週には全額返ってくるだろ。この辺で落とさねえか。
 大体、お前が最初ッからこいつの性根を見抜いてりゃ、こんなことにはならなかったんだぜ」
「……」

大柄な男は、なおも渋面である。
眉根を寄せた森崎が、再度小男に顔を向けると、言う。

345 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:19:56 ID:???
「おい、テメェ」
「うひっ!? まだ何か!?」
「さっきの約定、守れるか守れねえか……いま、ここで誓え」
「ま、守ります、守らせていただきやす、はい!」

迫力に押されたか、小男がぶんぶんと首を縦に振りながら口走るのを聞いた森崎が、
周りに人垣を作って立つ男たちを見渡しながら口を開いた。

「聞いての通りだ。これでも話を破るなら……そんときぁ、ここにいる全員が証人さ。
 改めてこの馬鹿を吊るし上げろ。俺が許す」
「ひぃぃ……」

周囲にいる男たちが首肯するのを見た小男が、締め上げられたように喉の奥から悲鳴を漏らす。

「もし街にトンズラこいたとしても、とっ捕まえて引っ立ててきてやる。
 どうだ、これで。俺の顔、立てちゃくれねえか」
「……」

しばらくの間、沈黙が降りた。
目を閉じ、眉間に皺を寄せて考え込んでいた大柄な男が、やがて大きく息を吐いて言った。

「わーった、わぁーったよ、黒髪の兄ちゃん。今度のこたぁ、それで構わねえ」
「うし、いい男っぷりだぜ、お前」

ニカリと笑った森崎が、ひとつ頷く。
と、おもむろに両手を掲げて言った。

346 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:21:27 ID:???
「じゃ、こいつは俺の故郷の作法でよ。お前ら、ちっと手を出してくれ」
「……?」

森崎が促したのは、大柄な男、そして小男の両方にである。

「手締めつってな。事が片付いたら、言い立てた方も言い立てられた方もこれでお終い、って意味で
 一緒に手を打つんだ。そら、合図で行くぜ」
「お、おう……」
「へぃ……」

戸惑う男たちに身振りで手順を示してみせた森崎の、いよぉーお! という掛け声の直後。
シャン、と拍手が鳴り響いた。


******


称号『ヒガシの山の仲裁屋』を獲得しました。
効果:揉め事の交渉判定時に+5の修正。


******

347 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:23:04 ID:???

『これでようやく一巡り、っと』
「もうすっかり夕暮れじゃねえか……くそう」

苦々しげに見上げた森崎の視線の先、夕陽は既に高い城壁の向こうである。
長い影に覆われた街並みは城西、フェンネル地区だった。

「毎日訓練所に通ってるんだし、まあ見慣れた景色といやあそうなんだが……。
 この辺、北側にはホントに住宅街しかないのな」
『通り道にはシアターとか運動公園なんてのもあるじゃない』

普段の通勤路を思い出したのか、ピコが顎に手を当てながら言うのへ
森崎がため息混じりに答える。

「あれは城に近い方、こっからだと運河の向こうだろ」
『うーん、そだっけ?』
「いい加減なヤツだな……」
『ちょっと地図見せて? へぇ、南に下ると色々とレジャーもできるんだ』

森崎が一日握りしめていたせいですっかり皺だらけになった地図を覗き込むピコ。
追って目線を落とした森崎が、そこに並ぶ文字を見て奇妙な作り声を上げる。

「運河沿いの遊歩道にゴンドラ乗り場……ねえ。恋人たちの定番コースってわけだ」
『ひがみっぽい言い方だね』
「疲れてるんだよ……今日はえらく色々あったからな。
 ただでさえ丸一日歩きどおしだったってのに」

ぐったりと肩を落として呟く森崎にピコがひらりと舞い降り、小さな手でぽふぽふとその背を叩く。

『まあまあ、あとはいつもの道を通って帰るだけだし、ね!
 どっかでちょっといいお酒でも呑んでこ!』
「はあ……そうすっか……」

348 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:24:05 ID:???
ぼそりと漏らして歩き出す森崎の視界の端、家々の向こうには高い城壁が聳え立っている。
もう少し南下すれば、そこに大きな門が見えてくるはずだった。

「レッドゲート……か。」
『このドルファンの正門だよね』
「俺らがこの門から出るのは、いくさ場に向かうとき……さて、いつになるのかね。
 来週か、来月か、それとも来年か……」
『……』

それきり何となく黙り込んだまま歩き続ける森崎の行く手に、やがて見えてきたのはセリナ運河だった。
ドルファン南部の港湾と北部の山林とを繋ぐ、かつて流通の大動脈として栄えた運河である。
茜色から群青に変わろうとする空を映すそのセリナ運河に架けられた橋を渡って、シーエアー地区と
ドルファン地区の境に差し掛かろうかという辺りのこと。

「あの……すみません」

森崎の背にかけられる、か細い声があった。

「んあ?」
「あの……モリサキさん、ですよね?」

間抜けな声を上げながら振り返った森崎の目に映ったのは、夕闇に佇む一人の少女の姿である。
軍服を思わせる、しっかりと型取りされた濃紅色の上着にスコットランド風のチェック柄で織られたスカート。
胸元に咲く大きなリボンが、まだ子供らしさの抜けきらぬ少女を演出している。
フリルのあしらわれた白い肩掛けにかかる、長い栗色の髪がさらりと風になびくのを見て、
森崎がほんの数週間前の記憶を掘り起こす。

349 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:25:06 ID:???
「あー……っと、ソフィア……だったか?」
「はい……!」

森崎が名を呼んだ瞬間、不安げだった少女の表情に笑顔が浮かぶ。
春、雪の下から顔を出す小さな花のような笑みだった。

「ソフィア・ロベリンゲです。その節はお世話になりまして、ありがとうございました」
「いやいや、頭上げてくれよ」

深々と礼をするソフィアに、森崎が慌てたように言う。
その肩にちょこんと腰掛けたピコが、ニヤニヤと笑いながら茶化した。

『こんなとこ、人に見られたら通報されちゃうもんねえ。”傭兵、学生を恐喝!”なーんて』
「頼むから黙ってろ……」
「え!? す、すみません!」

苦虫を噛み潰したような顔で呟いた森崎の声が届いたのか、ソフィアが弾かれたように顔を上げると
更に深々と頭を下げる。

「あ、いや、あんたに言ったんじゃねえんだ。気にしないでくれ」
「は、はい……」

とりなす森崎にようやく向き直ったソフィアだったが、ちらりと森崎の顔を見ると俯いてしまう。
そんなソフィアの様子に、ピコが森崎の耳に向かって囁く。

『怖がられてるんじゃない? 目付きが悪いんだよ、キミは』
「……」

350 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:26:07 ID:???
その手に乗るかとばかりに無視する森崎。
沈黙が続きを促していると思ったのか、ソフィアが俯いたまま言葉を繋ぐ。

「あの、すみません、宿舎に伺うと言っていたのに、ちょっとバタバタしてしまって……。
 本当ならもっと早くお礼をしなければいけなかったんですけど……」
「いや、前にも言ったけどさ。お礼とかはいいって」
「そ、そんなわけにはいきません……!」

食い下がるソフィアに、森崎が小さくため息をつく。
以前にも感じたように、この少女は儚げな見た目に反して頑固なところがあるようだった。

「あんた、その制服は学生さんだろ?」
「え? ……あ、はい。学園に通っています。ドルファンでは国が授業料を出してくれるので……」
「公立学校ってやつか」
『そういえばドルファン文化部の意地がどーのこーのって、ヤング教官が言ってたね』

鬼の教練の合間に挟まれる雑談を思い出して言うピコに、森崎が頷く。
話題を逸らすにはうってつけだった。

「そういや、ドルファン学園があるのはフェンネルの東端……この近くだったよな」
「はい。この塀の向こうは、もう学園の敷地なんですよ」

傍らの、背丈よりも高い塀を見上げて言うソフィア。

「じゃ、帰り道ってわけか。……ん? 今日って安息日だよな」
「はい、そうですね」

事も無げに頷く。

351 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/14(木) 01:29:05 ID:DUSQAIUU
「休みの日まで勉学かよ。学生ってのも大変だな」
「いえ、本当は学校もお休みなんですけど」

そこまでを言ったソフィアが、僅かに言い淀む。

「私はちょっと、家庭の事情で、欠席が多くて……」
「……」

すぐに続けたソフィアだったが、家庭の事情、と口にした瞬間の表情の陰りを、森崎は見逃さなかった。



*選択

A 「家庭の事情……?」 首を突っ込む。

B 「……」 無言を貫く。


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『6/14 21:00』です。


***


長い一日もようやく終りが見えてきた、といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

352 :雑魚モブ ◆.xniaLTHMk :2012/06/14(木) 06:35:08 ID:???
B
一日中色々な事件(?)に首を突っ込んできて、色々な人の事情に触れてきたが森崎にできたのは表面上解決だけで
問題の根本的解決にはつながらなかったので、今回は一歩離れた所から問題を観てみようと考えるから。

353 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/14(木) 10:45:35 ID:???
A森崎を多少なりとも信頼してる女の子の悩みを聞いてあげるってのも年上の男の人の甲斐性だと思います。
それにこの森崎なら聞かずにはおれないでしょう。

354 :森崎名無しさん:2012/06/14(木) 15:06:05 ID:???
あ、よく見たらカード結果のダイヤの良さって三番目かよ
爺さんの判定はダイヤとクラブが一緒だが、内容が違う感じなのかと勘違いしてたぜ
CP切った方が良かったかな

355 :森崎名無しさん:2012/06/14(木) 15:12:45 ID:???
もっとハードな判定が絶対あるからその時にリダイスしないとね。

356 :源氏 ◆rLDAH8Hy8Y :2012/06/14(木) 18:25:18 ID:???
A

ソフィアが森崎にお礼を、と少し頑なになってるのも内心では「助けて欲しい」と思っているからかもしれない。
何をしてやれるかは分からないが、ただ話を聞いてあげるだけでも思いつめた表情を解してあげられるだろうか。

357 :◆W1prVEUMOs :2012/06/14(木) 18:41:19 ID:???

慕ってくれる子の境遇に首を突っ込むのも悪くない
本人は突っ込まれたくかもしれないけど
本当に嫌なら言葉に出すこともしないだろうから

358 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/14(木) 18:46:22 ID:???
A
男と女がもめていたら「女ぁ!」と動くものだと怪盗さんが言ってました。
……というのは、ともかく。こういう時に聞いてほしくない人は口に出さないでしょう。
わざわざ言うってことは(深層心理でも)聞いて欲しい、愚痴りたい、と思ってるもんです。
ただ、愚痴る以上のことを望んでいるかどうかは慎重に応対する必要がありますけど。
(喋りたい、吐き出したい、しかし踏み込んできては欲しくない、というケースも珍しくない)

359 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/14(木) 20:59:08 ID:???

苦学生にお礼をしてもらうわけにはいかないから事情を聞かねばと考えて。

360 :テトラ ◆yfCGLLZSBA :2012/06/14(木) 20:59:29 ID:???
B
森崎の方が厳しい経験もしているだろうし
あまり真っ当な生き方でもないのでこちらから口出しはしない。
それに会って日が浅いのに家庭の事情を聞くのははどうかと思ったので

361 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/15(金) 01:54:18 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速ですが、>>351の選択については……

>>358 傍観者  ◆YtAW.M29KM様の回答を採用させていただきます!
ソフィアの機微を綺麗に拾い、またその一歩先までを見通された回答、お見事です。
ほとんど初対面だからこそ言えるような愚痴、なんていうのもありますよね。
CP3を進呈いたします。

また同様にソフィアの側からの視点を提示していただいた>>356 源氏 ◆rLDAH8Hy8Y様、
>>357 ◆W1prVEUMOs様にもそれぞれCP1を進呈いたします。


362 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/15(金) 01:55:25 ID:???
>>352
表面上の解決、とは実に鋭いご指摘です。
現実でもそうですが、根の深い問題はやはり一朝一夕に解決することはできません。
それが各々の心や、あるいは文化、社会に根ざした影に起因する問題であれば尚更ですね。
傍から見てどれほど素晴らしい解決策であっても、それを簡単に受容することができない場合も多いでしょう。

>>353
今の森崎はかなり積極的に目の前の事情に飛び込んでいきますね。
痛い目にあう可能性もありますが、その分リターンも大きいでしょう。

>>359
確かにそのために話題を逸らそうとしていましたが、相手が苦学生だから……というのは
面白い視点ですね。

>>360
率直に言って、そのようなご回答が多いことを想定していたので今の状況はかなり意外です。
もちろん多数決というわけではありませんが、皆様かなり鋭く切り込んだご回答を用意されていて、
すっかり感服している次第です。
今の森崎が真っ当な人に物を言えた柄か、というのは確かにその通りで、相手によっては評価値が低い内は
まったく聞く耳を持ってもらえないどころか逆効果になることもあるでしょう。


ご回答いただいた皆様にそれぞれEP1を進呈いたします。

363 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/15(金) 01:56:28 ID:???
***

A 「家庭の事情……?」 首を突っ込む。

ソフィアの口をついて出た言葉は、そしてその表情に落ちる翳りは、
何かを聞いてほしいという密かな要求であっただろうか。
それは、あるいは森崎でなくても構わなかったのかもしれない。
気のおけない友人や信頼できる恩師に話をした方が、より具体的な相談ができたかもしれない。
それでも今、この夕闇の迫る路地で、森崎に向けて発せられた言葉の中にそれがあったのなら、
聞き逃したフリはできなかった。

「家庭の事情……?」

様子を窺うように呟いた森崎に、ソフィアがはっと目を見開くと、そのまま俯いてしまう。

「……え、っと」
「あ、いや、話しづらいこと聞いちまったかな。すまん」
「いえ、いいえ!」

慌てて言う森崎に、ソフィアが首を振る。
ふるふると、長い髪が揺れた。
栗色の髪は夕闇に紛れて黒く、まるで足元の影が這い上ってソフィア自身に絡み付いているようでもあった。

「その……、大したことじゃ、ないんです……」
「……」

やがて訥々と話し始めた少女を、森崎は黙ってじっと見つめる。
ソフィアはといえば、ずっと俯いたままだった。

「弟が……少し体が、弱くて。線が、細いんです。……癇癪を起こすことも、多くて」

言葉を紡ぐソフィアの、表情は見えない。

364 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/15(金) 01:57:37 ID:???
「それで、母は……どうしても、その、弟にかかりっきりで……。
 仕方ないんです、弟は手のかかる子ですから、それは」
「……」
「母はそれで、いつも疲れてて、だから……家のことや、父の世話は、私が」

ぽろぽろと漏れる言葉は、しかし奇妙に歯切れが悪い。
何か一つの原因に帰結する問題ではないのだろうと、森崎は思う。
様々な要因が絡み合い、もつれ合って、家族という狭い関係の中で行き詰まっている。
それはきっと、湖の底に溜まる泥や、古い家のきいきいと立て付けの悪い扉と似たようなものなのだ。
軋んだ歯車を、それでも回し続けなければならいことなど、世にはありふれている。
だがありふれているからといって、澱んだ泥水を飲み干せるわけでも、開かない扉に耐えられるわけではない。
どこかで油を注さなければ、人という歯車は壊れてしまうのだ。

「いいんです。父のことも、家のこと、ご飯を作るのも、お買い物やお掃除や繕い物やお洗濯、
 好きなんです。好きでやってるって、思ってます。
 だけど、だから、どうしても学校は、お休みしなければならないときもあって……」

人によって、それは酒であり、快楽であり、あるいは愛情や、友情や、職務や目標であったり、
果ては空想や幻想にその役割を求めることもあるだろう。
少女にとっての油は、きっと今、この時間。
誰とも知らぬ男にぶつける、このとりとめのない愚痴なのだ。
そんな風に考えて、森崎は話を回すつもりで口を開く。

「世話……って、親父さんも、どっか悪いのか」
「……父は、戦場で足を傷めました」

しかし、それはどうやら少女にとってはナイーブな問題であったらしい。
そう言ったきり、今度こそ口を噤んでしまう。

365 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/15(金) 01:58:40 ID:???
「……」
「……」
『……キミ、今のはちょっと無神経』

いつの間にか森崎の側に浮かんでいたピコの声は、ソフィアには聞こえない。
聞こえないはずだったが、まるでその声に促されたかのように口を開いた。

「あの、すみません。変な話をしちゃって……」
「いや、聞いたのは俺だぜ。こっちこそ悪いな」

顔を上げたソフィアは、困ったように笑みの形を作る。
森崎もまた、同じように笑うふりをするより他になかった。

「……で、今日は学校だったんだよな?」
「あ、はい」

話題を変える森崎。
ほっとしたように、ソフィアが頷く。

「あの、それで、ちょっと勉強が遅れがちだったので、先生が特別にお休みの日に
 授業をしてくれることに……」
「へえ。いい先生じゃねえか」
「はい! オルガ先生って仰って、とっても綺麗で優しい、素敵な方なんですよ。
 落ちこぼれの私なんかにも、すごく良くしてくれるんです」

教師のことを語るソフィアの顔には心からの憧憬が浮かんでいる。
つい今しがたまでの影は消え去っていた。

366 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/15(金) 01:59:41 ID:???
「綺麗で優しい女教師……か」
『拙者にも一手、御指南願いたく候』
「お前、次言ったら翅引っこ抜くからな」
『きゃあ! 妖精ごろし!』

叫ぶや森崎の肩から飛び上がるピコ。
その姿に目をやってため息をつく森崎を、ソフィアが不思議そうに見つめている。

「……?」
「……何でもない」
「そうですか……。あの、それで、私のことはいいんです。それより、お礼……なんですが」
「結局そこに戻るんだな……」

胸の前で手を組んだソフィアが、森崎に向かって一歩踏み出す。
雑談はむしろ、壁を取り払う役目を担ってしまったらしい。

「あの、もし良かったら今度―――」

何かを言いかけたソフィアが、その瞬間、凍りついた。
名を呼ばれたときのはにかむような笑顔も、教師を語るときの憧憬溢れる瞳も、そこにはない。
儚さも、頑固さも、森崎の見てきた少女の一切が、そこからは失われていた。
代わりに少女を満たしていたのは、恐怖と嫌悪、そして絶望の色である。
何かに打ちのめされてきた者だけが浮かべる光を湛えたその瞳が見つめるのは、森崎の背後。
辺りから既に夕陽の彩りは消えている。
宵闇の向こうから、それはやってきた。

「―――捜したよ、ソフィア」

367 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/15(金) 02:00:43 ID:???
底冷えのするような声音を紡いだのは、男である。
深紫のシルクシャツに、漆黒のベストとスラックス。
腰から提げているのは細身の長剣、レイピアだった。
精緻な細工を施された金の柄が、ベルトの黒に映えて静かな威圧感を放っている。
一目で最高級の仕立てと分かる装束を身に纏う、その容姿は端正にして怜悧。
永久凍土の氷を砕いて嵌め込んだような薄青色の瞳が、射貫くようにソフィアを見つめている。
長い金髪が、ゆらりと闇を掻き混ぜるように揺れた。
夜を率いて歩くような、それは男であった。

「……ジョアン」

射竦められたソフィアの漏らした、それが男の名であるようだった。
ジョアンと呼ばれた男が、口の端だけを上げた微笑を浮かべる。

「言っただろう、僕の目の届かないところに行かないでおくれと。
 外出するならきちんと家族に報告すべきではないかな、ソフィア」
「……」

俯き、唇を噛み締めて黙り込むソフィア。
吹き抜ける嵐をじっと耐えるような、姿だった。

「父上も心配しておられた。……さあ、言うべきことはあるかな」
「……」
「……」
「……めん、……さい」

暫しの沈黙の後、掠れた声が薄闇の通りを僅かに揺らす。
その声に、ジョアンが一歩を踏み出した。
革靴の底が立てる、かつりという音に、ソフィアがびくりと肩を震わせる。

368 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/15(金) 02:01:44 ID:???
「ん? 何か言ったかい、ソフィア」
「……ごめんなさい、ジョアン。以後……気をつけ、ます」

ようやくにして絞り出したような、声音。
涙声ではない。震え声でもない。
それはただ、ひび割れた荒れ野を吹く風のような、どこまでも乾いた謝罪だった。

「わかってくれればいいんだ、ソフィア。……さあ、送るよ。馬車を回してある」
「……」

肩に回された手を拒むこともなく、ジョアンと共に歩き出そうとしたソフィアが、
ほんの一瞬だけ足を止める。
ちらりと森崎を見たその瞳は何かを言いたげで、しかし口を開くことが罪であるかのように、
ソフィアは沈黙のまま目を逸らした。

「……」
「そこの、東洋人」

かける言葉もなくその背を見送ろうとした森崎に、ふと足を止めたのはジョアンである。

「……! 違うのジョアン、あの人は何でもないの、ちょっと道を聞かれただけなの、
 早く帰りましょう、ね」

表情を強張らせたソフィアが、これまでになく強い口調でまくし立てるのを聞いているのかどうか。
悠然と振り返ったジョアンが、森崎の方へと向き直る。

369 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/15(金) 02:03:06 ID:???
「……ッ!?」

その視線がただ自らの方を向いた、それだけで森崎は全身が総毛立つのを感じる。
じり、と思わず一歩を下がりかけた足を、かろうじて止めた。
そんな森崎に、口元だけを歪ませる笑みを向けてジョアンが言う。

「僕のフィアンセが世話になったようだな。礼金が欲しいのならエリータスを訪ねてくるといい。
 貴様の年給程度でよければ包むよう言っておく」
「エリータス……?」

傲然の二文字を具現化したような態度であったが、森崎は常の悪態をつくこともせず、
気を張り詰めたままでそれだけを口にする。

「五家評議会のエリータス家を知らないとは……流石は辺境からの来訪者、というべきかな。
 聖騎士ラージン・エリータスが三男、自由騎士ジョアン・エリータスの名、覚えておくがいい。
 そしてこのソフィアは、僕の将来の妻となる女性だ」

振り返らぬまま肩を震わせているソフィアの、栗色の髪を嬲るように梳きながら名乗りを上げたジョアンが、
ふと間をとってから、続ける。

「そうだな、大切なことを聞き忘れていた」

すう、と細められた氷青色の瞳が、酷薄な色を浮かべる。

「―――貴様は、ソフィアの、何だ?」

びりびりと、全身が警告を発しているのを森崎は感じていた。
緩んだ休日の日常はすっかりどこかへ吹き飛んでいた。
答えを誤ってはならぬ。今この場にあるのは命のやり取りに他ならない。
そう経験と勘とが告げる中、森崎がゆっくりと口を開く。

370 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/15(金) 02:05:18 ID:yuQwwJ+I
*選択

A 「恩人……てやつさ。あんたがご丁寧に調べ上げた通りにな」

B 「通りすがりだ。彼女には道を聞いただけでね」

C 「友人……いや、恋人候補ってところかな」


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『6/16 0:00』です。


******


宿敵、登場! といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

371 :雑魚モブ ◆.xniaLTHMk :2012/06/15(金) 06:05:53 ID:???
A
ソフィアは明らかに助けを求めているし、あんな他人を見下すのがデフォルトのような奴には反発するのが森崎だが
今この場で大人しくしとかないと後でソフィアが何されるか分からないし、ただの傭兵である森崎を消すこと位
簡単だと思うので無難にかつ少しの反抗心を込めて。

本当は「何が自由騎士だ、自分の自称恋人は束縛しまくってるくせに」位の悪態をつきたい

372 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/15(金) 09:41:16 ID:???
A調査か報告が入ってる以上、通りすがりで道を聞いたってのは信用して貰えない。
ならば実際恩人と言えるのだから、正直に言った方が良いと森崎なら判断すると思います。
個人的にはこの二人と別れた後エリータスの指示で森崎を襲撃してくる可能性が有るので帰り道の警戒は怠って欲しくないですね。

373 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/15(金) 10:17:36 ID:???
【ピココール】
この貴族は自分が知ってる事に嘘を言ったりすればプライドを傷付けられたと言って怒るタイプだと思うか?
それとも自分の知ってる事に対してトラブルを避けようと見え見えの嘘を言う人間を見て喜ぶタイプかどう思う?
初めて使ってみたけど、こんな感じの質問で良いかな?


374 :聴衆 ◆0Sa9mRG4IM :2012/06/15(金) 14:10:03 ID:???
C森崎に女はいらぬが名乗りに遠慮もいらぬ

375 :ピコ ◆ALIENo70zA :2012/06/15(金) 16:37:36 ID:exnOAvLU
>>373
うーん…あたしのガンリキで見たところ、すっっっごくプライドの高そうなヤツだから、怒るっていうよりも
わざわざ相手にするまでもない…なんて、呆れられるんじゃないかな?

だから、ヘタレたことを言えばこの場は収まるかもしれないけど…そこで後ろ向いちゃってるソフィアってコは、どう思うかな…。
何しろ相手は女のコ、向こうの言った通りにしたんだから平気だろう、なんて思ってたら大・大ミステイクだからね!

でも…だからってあんまり刺激しすぎるのも、なんだかイヤ〜な感じがするよ…。
よっぽど腕に覚えがあるならいいけど…。

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