キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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異邦人モリサキ

1 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/01(金) 00:31:21 ID:Hgnh9qno


本作は恋愛SLG『みつめてナイト』を基にした二次創作です。

騎士の時代が終わりつつある南欧は架空の小国、ドルファン王国。
戦火の迫るこの国に傭兵として降り立った東洋人、森崎有三の体験する
波乱万丈の三年間を描きます。


独自要素が強いため、外伝スレを経ずにスレを立てさせていただきました。
ご容赦下さいませ。



386 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/16(土) 04:23:34 ID:???
***


A 「恩人……てやつさ。あんたがご丁寧に調べ上げた通りにな」


森崎とて、幾つもの戦場を生き抜いてきた男である。
ただ一方的に気圧されているわけではなかった。
初撃を凌いだのであれば次に来るのは攻めの好機だと、森崎は理解していた。
そんな森崎の、しっかりと息を整えて吐き出した言葉には、棘がある。
受け取る者を刺す棘だ。
そして棘に含まれているのは、緩やかな毒だった。

「……賢しいな、東洋人」

細かな棘から指先を伝う毒に、氷青色の瞳が険しさを帯びていく。
その表情に森崎は己の考えが正しかったことを確信し、僅かに口の端を上げる。
眼前の男は、ソフィアが世話になった、と口にした。
それも礼金を用意するほどの。
何故、この男がそれを知るのか。

「余所者は知り合いが少なくてね」

誰かと違って、と言葉にはせず目線に込める。
じり、と。それを耳にした男の気配が変わっていく。
余裕に満ちた酷薄の下から、ちろちろと怒りの種火が顔を覗かせようとしている。
もう一歩踏み込めば、それは炎となって燃え上がるだろう。
しかしそれは森崎のみならず、おそらくはこの男の傍にいるソフィアをも巻き込む熱となる。
故に森崎はあえて一歩を退いた。

387 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/16(土) 04:27:23 ID:???
「頭、使わねえと生きていくのも難しいのさ」
「……吠えて命を縮める犬もいる。気をつけることだな」

ニヤリと笑って言った森崎に、苦々しげに鼻を鳴らしてジョアンが返す。
この日、交わす刃はここまでと理解した表情だった。
一瞬の後、元のように傲岸の仮面を被ると、ジョアンはその視線をソフィアの方へと向ける。

「帰ろう、ソフィア。いつまでもこんなところにいてはいけないよ」
「……」

振り返らぬままのソフィアは、ふるふると小さく首を振るばかりで黙りこんでしまう。
そんな婚約者の様子にジョアンは大袈裟に肩をすくめると、ぞっとするほど甘い声で言葉をかける。

「……おやおや、疲れてしまったんだね。
 早く馬車に乗り給え、今夜はゆっくり休むといい」

言いながらソフィアの肩を抱いたジョアンが踵を返し、かつかつと足音を立てながら
森崎には一瞥をくれる様子もなく去っていく。
闇に紛れようとするその背に、森崎の声がかけられた。

「邪魔して悪かったよ―――『この間から色々と』、な」
「―――」

それは最後の、そしてとっておきの、毒だった。
男の傲岸を貫き不遜を割る、致命の一撃。
漆黒のベストを纏った背が、しかし宵闇にも明らかなほどにビクリと揺れた。
揺れて、直後。
目には見えず耳には聞こえない何か、おそらくは人を裂き肉を抉るが如き何かが、
男の背から膨れ上がった。

388 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/16(土) 04:28:25 ID:???
遠く離れて立つ森崎が、鼻先を掠めるその何かに気圧されかけ、石畳に両足を踏みしめる。
がちりと、腰の辺りで何かが鳴った。
知らず手を伸ばしていた剣の柄が、鞘と当たって響いた音だった。
森崎の眼前で爆ぜようとしたそれは、しかし臨界を迎える寸前、懸命に押さえ込まれるように震え、
次第に圧縮されて縮んでいく。

「……」

縮んでなお、鼻先から気配が遠ざかりつつあってなお、森崎をして油断なく構えさせたそれは、
硬い革靴の足音が馬車の中に吸い込まれると同時、ようやくにして霧消するのだった。


***

389 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/16(土) 04:30:26 ID:???


『色々あった一日だったけど……最後にミソがついちゃったね』
「……」

兵舎への帰途。
ふわふわと周りを舞うピコの言葉に、森崎は答えない。
いま、その思考を占めるのは、相棒の声でも、波乱の一日への回想でも、
栗色の髪の少女ですらない。
そこにあるのは、ただ一人の男の姿であった。

「ジョアン……エリータス」

あの男とはもう一度、否、この先幾度も相まみえることになるだろう。
そんな確信に近い予感と共に、ただその名だけを呟く。
刻むように。
森崎の眼差しは、戦士のそれである。
宿る光はいささかも揺らがず、夜の闇を切り裂くように爛々と輝いていた。



   『少女の騎士(後編)』了


.

390 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/16(土) 04:44:15 ID:???
******

ようやく初回ターン終了! といったところで、
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
明け方までのお付き合い、ありがとうございました。

さて、参加していただいている皆様におかれましては
長い長い四月、いかがでしたでしょうか。
次月以降は長々しいテキストでのナビは徐々に鳴りを潜めさせ、
比較的短いスパンで選択や判定を行なっていく方針です。

四月全体が大体これ以降の4〜6ヶ月分ほど…という辺りをひとつの目安として
考えておりますが、ここまでをプレイしていただいての感触、ご感想を含めて
更新テンポやタイミング、ボリュームについて等々、色々とご意見ご指摘を
お寄せいただければ幸いです。
それではまた、次回更新にて。

391 :◆W1prVEUMOs :2012/06/16(土) 08:49:47 ID:???
> 四月全体が大体これ以降の4〜6ヶ月分ほど
これからはこの一ヶ月で物語の6分の1消化することになるのか
割と短編な感じ?

392 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/16(土) 09:28:15 ID:???
重要な選択肢には時間を取って貰えると思いますが、ちょっとした選択肢なら時間は短くても良いと思いますね。
更新テンポは、このスレのシステムでは、どうしても遅くなるのは仕方ないと思います。
ボリュームは多いと思った事はないですね。書く方は大変でしょうけど。


393 :◆W1prVEUMOs :2012/06/16(土) 09:41:40 ID:???
時間が短いと参加できない=CP・EP獲得のチャンスが減ってしまうから
今ぐらいがちょうどいいんじゃないかな

394 :森崎名無しさん:2012/06/17(日) 00:20:19 ID:???
獲得したCPやEPをどう使うかも結構悩ましいですね。

395 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/17(日) 12:27:01 ID:???
うーん、個人的には更新スピード早いほうがうれしいので、痛し痒し。

CPとEPの使い方は、とりあえず自分は「常にCP5は残るように」と考えてる。振り直しがしたいw

396 :森崎名無しさん:2012/06/17(日) 18:38:07 ID:???
たしかに一番悪いマークが出たらリドローしたくなりそうだ。

397 :森崎名無しさん:2012/06/17(日) 18:59:58 ID:???
【数値加算】も有るしね。

398 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/18(月) 01:16:29 ID:???
皆様、ご意見ありがとうございます。


>>391
はい、年単位で時間のかかる設計にはしておりません。
元々は周回プレイを視野に入れたシステムなのですが、物語性の強化という
語り手側のエゴで、シナリオ面がかなり増量されているのが現状です。

>>392
期限を短く区切っても、更新のできる時間はどうしても夜22時以降となってしまうのが
悩みの種ですね……。
重要な選択についてはもちろん丸一日に近い期限を設けておりますが、
それでも生活時間帯によっては厳しいという方もいらっしゃるでしょうし
その辺りについては随時ご意見をお待ちしております。

>>393
更新回数が増えれば獲得機会も増えますが、特定の時間でしか参加できないという
プレイヤーの方にご迷惑をおかけしてしまうんですよね……。

>>395
一日二更新、となると22〜23時頃に前日夜の選択からの続き。
そこから0〜1時頃までで区切った小選択……という形も考えられますが、
主に私の技量の問題で足踏みをしております。
CP/EPはそれぞれの方針が色濃く出る部分かと思いますが、
まず最初の戦争モードで様子を見てみるのも一手かと。

399 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/18(月) 01:17:32 ID:???
*D26.5
フレーバーテキスト


◎ダナン返還問題

熱心に新聞の活字を追っていた森崎有三が思わず声を上げたのは、五月十四日の朝である。

「きな臭くなってきやがった」
『朝から物騒なことを言わないでよ……もう。で、何があったの?』

小さな眉をしかめるピコに、森崎が新聞から目を上げて答える。

「戦争の臭いだよ」
『戦争? ……でもプロキアって王様が変わっちゃったから、もう戦争しないんじゃなかった?』
「ま、王じゃねーけどな。そういう流れにはなってた」

言って僅かに渋面を作る森崎。

「このまま終戦……てんじゃ、こちとらおまんまの食い上げだからな。焦ったぜ」
『月のお給料はもらえるじゃない』
「違約金で契約解除って線が濃かったんだよ。そもそも俺らは何でこの国に来たと思ってんだ」
『何で、って……あ』

何かに気付いたようなピコに、森崎が頷く。

「そうだ。このドルファンは戦果次第じゃ傭兵だって騎士として取り立てるって触れ込みなんだよ。
 だからわざわざこんな南の果てまで来たんじゃねえか」
『そっか、戦争がなくなったら……』
「賃金はあっても、仕官のクチはねえ」
『ど、どうするの?』
「そこで、こいつよ」

400 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/18(月) 01:18:34 ID:???
言った森崎が、手にした新聞をぱんと叩く。
見出しには、『ヴァルファ=プロキア会談破談』との文字が踊っていた。

「いいか? まず、今月の頭のことだ」
『うんうん』
「ゲルタニアの首相選挙が終わって、いつも通りコールっておっさんが勝った」
『ゲルタニアって、お隣の国だよね』
「そうだ。プロキアとも国境を接してる」

ドルファンの北東に位置するゲルタニアは十数年前に共和制へと移行した軍事大国である。
両国の間にはベルトニア山脈が聳えており、隣国とはいえ人的交流はそれほど多くはない。
政治的関係は、共和制移行の際に生じたゲルタニア=プロキア戦争にドルファンが
ゲルタニア側として参戦した経緯もあって比較的良好である。
ベンヤミン・コールは現職の首相であり、共和制移行以来、実に四選を果たしていた。

『で、そのゲルタニアのおじさんがどうしたの?』
「ああ、そのハゲが余計なことを言い出したんだ。ゲルタニアはドルファンとプロキアの
 休戦問題の早期解決を期待しており、仲介の労をとる用意もある、ってな」
『どういうこと?』
「要は、お節介を焼いてこの戦争をちゃんと終わらせてくれるってのさ」
『ふうん。いい人だね』
「だーかーら、そう簡単に終わっちゃ困るんだっての!」
『あ、そうか。……ひゃ!』

宙に浮かぶ小さな妖精が、悲鳴と共に天井近くまで舞い上がる。
指で弾こうとした森崎の手から逃れたのだった。

『何するんだよ、キミ!』
「話、戻すぞ」
『もう!』

ぷりぷりと怒ってみせるピコの様子を気にした風もなく、森崎が話を続ける。

401 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/18(月) 01:20:55 ID:???
「で、このゲルタニアの表明に乗っかったのがプロキアのヘルシオ公だ。
 まあドルファンは賠償金だのをやたらとふっかけてたからな」
『戦争したいの?』
「駆け引きってやつだろ。取れるとこからは徹底的に搾り取ろうとするのが政治ってもんだ」
『ひどーい』
「ヘルシオ公はとにかく休戦の話し合いを前に進めたいってんで、せっかく雇い入れた傭兵団、
 ヴァルファバラハリアンに改めて渡りをつけた。
 まあ連中がダナンに居座ってちゃ、まとまる話もまとまらねえからな」

口を尖らせるピコを無視して言った森崎が、手にした新聞をもう一度掲げてみせる。

「その結果が、こいつよ」
『……破談?』
「そうだ。ヴァルファは雇い主のプロキアから要求されたダナン撤収を断りやがった。
 何を考えてるんだか知らねえが、違約金を吊り上げようって腹かもな」
『プロキアも大変だねえ……』
「まあな。つっても、元々向こうから仕掛けてきた戦争だ。自業自得ってもんだぜ」

肩をすくめる森崎。

402 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/18(月) 01:23:22 ID:???
「何にせよ、相手はただの傭兵団じゃねえ、全欧最強のヴァルファ様だからな。
 ドルファンもプロキアもこいつを無視して話は進められないってわけだ」
『ど、どうなるの……?』
「話し合いで終わりかけてたところに、カネと剣とが割り込んできたのさ。
 一戦交えて白黒つけなきゃまとまらねえって雲行きだぜ」
『う〜ん……』
「納得いかないか? つっても、これが俺らの生業だからな」

そうして、事態は概ね森崎の想像通りに推移することとなる。
五月十七日、プロキアはヴァルファバラハリアンとの契約を破棄。
ダナン撤収に応じない場合は武力行使も辞さないとの姿勢を打ち出す。
これに対しプロキア側の対応を非難するヴァルファはダナン占拠の維持を強行、
ダナンを巡る情勢は一気に緊迫の度合いを増していくのだった。


******

403 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/18(月) 01:24:26 ID:???
*D26.5
訓練選択


「貴様らも知っての通り、ヴァルファの連中はプロキアの意向を無視してダナンに居座っている!
 これがどういう意味だか、わかるな!」

荒野に響き渡るヤング・マジョラムの大音声も、既に耳に慣れてきた感がある。
整列した三百の傭兵を前に朝の訓示を行うヤングが、大きな身振りで傭兵たちを指し示すと、
一拍を置いて続ける。

「そうだ、貴様らが地獄に叩き込まれる日が近づいてきたということだ!
 一日でも長くこの世を楽しみたいなら、一層の訓練に励め! 以上だ!」


***


『それで、今月は何をするの?』

森崎有三
称号:気のいいヒガシの山の仲裁屋
現在のガッツ:110

剣術・馬術・体術・魅力・礼法・墓守・休憩の中から『二種類』選んで下さい。
同じ訓練を二つ選んでも構いません。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願い致します。
期限は『6/18 23:00』です。


***

404 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/18(月) 01:26:28 ID:AtiYrq+w
他所のお国事情、実は中盤から終盤にかけて森崎の運命に大きな影響を及ぼします。
といったところで、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

405 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/18(月) 10:09:44 ID:???
剣術・魅力
まず戦争が近いと思うので攻撃力と守備力を強化出来る剣術を選びました。
前の訓練選択の時に言われてたんですが魅力というのは重要なものだというので序盤に上げておこうと思いました。

406 :◆W1prVEUMOs :2012/06/18(月) 19:47:26 ID:???
体術・魅力
最初のうちは目に見える成果が出るまで同じ訓練を繰り返した方がいいかと思い

407 :ノータ ◆JvXQ17QPfo :2012/06/18(月) 20:36:34 ID:???
体術・魅力
理由:上と同じような感じ。
   それとこの戦いは、死なない、逃げない、負けない戦いをしないとまずいからね
   回避と防御に特化したら序盤は楽になりそう

408 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/18(月) 22:01:13 ID:???
体術・魅力
前回、とてもよい判定結果ならスキル習得かもとおっしゃっていたので
ポイントの蓄積で習得できる仕組みなら、今回まず間違いなく習得できるから。

409 :Q513 ◆RZdXGG2sGw :2012/06/18(月) 22:43:53 ID:???
体術・休憩
体術のスキル狙い。それと、ガッツも多いほうがいいんじゃないかと

410 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 03:38:53 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>403の選択については……

>>407 ノータ ◆JvXQ17QPfo様の回答を採用させていただきます!
目的意識のはっきりした育成方針の提案、ありがとうございます。
CP3を進呈いたします。
ただ次回からは、他の方と似たご回答でもご自身の言葉でお願いいたしますね。

同様にスキル取得を意識された>>406 ◆W1prVEUMOs様、>>408 ◆9OlIjdgJmY様も
CP1を進呈いたします。


>>405
はい、戦争の足音は迫っています。
そろそろ攻撃力のアップも意識していきたいですね。

>>409
そうですね、休憩はとても重要です。
戦争が起こる月にはその旨が告知されますので一応の回復は可能ですが、
イベント内で突発的な戦闘やガッツの上下が発生することも多いので
ギリギリを維持するのは非常に危険ですね。

411 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 03:39:54 ID:???
***


「なあ、ヤングのおっさん」
「教官と呼ばんか! モリサキ、貴様は今日明日の基礎訓練を倍にしろ!」

汗まみれの森崎がヤング・マジョラムをつかまえて尋ねたのは、とある昼下がりのことである。
耳どころか下腹にずしんと響く大声を受けながら、森崎は平然と肩をすくめてみせる。

「はン、いつものことじゃねえか」
「……俺も段々と、貴様に懲罰を与えているのか特訓をしてやっているのか分からなくなってきた。
 で、何だ。気になることでもあったか」

眉根を寄せるヤングに、森崎が視線で遥か彼方を示す。

「や、あちらさんは何をやってんだと思ってよ」
「あちら……? ……む」

つられて見やったヤングが、途端に渋面を作る。
荒野の向こうにあったのは、きらびやかな一団の姿であった。
遠目にも分かる、選びぬかれた駿馬。
それにまたがるのは種々様々な趣向を凝らし、しかし一様に陽光を反射してぎらぎらと輝く
銀細工と思しき鎧を纏った男たち。
周囲には馬の口を取る者や馬上の男たちに何かを命じられて走っていく者、或いは大量の荷を背負って
側に控える者たちなど、おそらくは馬上にある男たちの従卒と思しき取り巻きが溢れていた。

「……気にするな。訓練を続けろ」
「って、言われてもよ……こないだまであんなの、いなかっただろ」

食い下がる森崎に、ヤングが大きくため息をついて重い口を開いた。

412 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 03:41:40 ID:???
「……彼らは自由騎士だ。訓練は義務ではない」
「自由騎士……?」

耳慣れない言葉に森崎が首を傾げる。
つい最近どこかで聞いた気もするが、思い出せない。
少なくともこれまで渡り歩いてきた各国には存在しない階級だった。
そんな森崎に、ヤングが説明を加える。

「自身で騎士の称号を得たわけではなく、また軍属としての階級も持たない世襲の騎士のことを、
 我らがドルファンでは畏敬を込めてそう呼んでいる」

その口調に込められていたのは、無論のこと畏敬などではない。
明らかな侮蔑。
そしてまた我らが、と口にしたときに滲むのは、諦観であった。
同時に、そこまで言われてようやく森崎の脳裏に浮かぶ記憶があった。
夜を纏うように現れ、自らを自由騎士と名乗った男。

「……ジョアン・エリータス」
「ん? 奴を知っているのか?」
「……」

にわかに表情を険しくした森崎の無言をどう取ったか、ヤングが続ける。

「エリータス家はドルファンの西、エローという都市を所領に持つ大貴族でな。
 武門の代表として王室会議……この国の政治の中枢にも名を連ねる、名家中の名家だ。
 官僚や宮廷貴族を束ねるピクシス家と並んで『旧家の両翼』などと呼ばれることもある。
 ジョアン・エリータスは、現当主の三男だ」

413 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 03:42:55 ID:???
華々しく並ぶ言葉の数々を聞いた森崎が、ボソリと漏らす。

「さしずめ老中の子……ってとこか。道理で偉そうなわけだ」
「ロージュー? 何だそれは」
「いや、こっちの話だ。続けてくれねえか」

呟きを耳にしたヤングが怪訝そうな顔をする。
森崎が小さく首を振って、先を促した。

「……まあ現当主といっても、聖騎士として名を馳せた奴の父親は既に他界しているから、
 いま家を切り盛りしているのはその妻、つまりジョアンの母であるエリータス卿夫人だ。
 女傑と呼ばれる方だが、ジョアンのことは猫っかわいがりしていたらしいな」
「カネもコネも使い放題ってわけだ」
「……」

無言のまま、ヤングは大きな傷痕の走る左の片眉だけを上げる。
それは森崎の言に対する、明快な肯定であった。

「そんなわけで、ジョアンという男は自由騎士どもの中心……ある意味では
 その象徴とも言える存在だ。わかったら訓練に戻れ」
「つまり、だ。大貴族サマのボンボンが、似たような脛かじりどもを集めて
 七光りで騎士ごっこをしてるってことだろ」
「お前は……」

引き下がらない森崎に、ヤングが天を仰ぐ。

414 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 03:47:13 ID:???
「おっさん、連中には訓練の義務もないって言ったろ。
 要は気が向いた時に集まっちゃあ、ああやって遊んでるだけ。
 どうせこの後は汗を流してどこぞで盛大に宴でも開くんだろうな」
「……」

沈黙は、雄弁な肯定だっただろうか。

「ジョアンのヤツもあの中にいるのか?」
「どうだろうな。気紛れな男で、自由騎士たちの『訓練』に参加するかどうかも
 その日の気分次第と聞いている」
「……そうかい」

肩をすくめた森崎が、ふと銀の鎧の一団を見やる。
と、驚いたように声を上げた。

「ん? ……おいおい、何やってんだあの連中」

森崎の視線の先、一団は大きな円を描くように広がっている。
その円の中に進み出たのは二つの鎧姿である。
背丈よりも長い巨大なランスを下げた二人は、円の端と端で互いに向かい合うように
ゆっくりと馬を回すと、静止する。
眉根を寄せる森崎の脇で、ヤングが唸るように言った。

「……あれはジョスト、だろう」
「はァ?」

耳慣れぬ単語を森崎が頭の中から探し出すまで、しばしの時間を要した。

「ジョスト……って、まさか馬上槍試合か!?」
「その通りだ」

415 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 03:48:51 ID:???
ジョストとは、欧州で古くから行われていた騎士たちの遊興である。
集団戦ではなく、一騎討ちの形式で行われる試合をそう呼んだ。
しかし時代の流れとともに廃れ、どの国でも何十年も前に途絶えているような、
古典的な競技のはずであった。

「実際ンなことやってんの、初めて見たぜ……骨董品市場かよ」
「あれがこの国の、今の騎士の戦いだ。彼らは彼らなりに、本気で訓練をしているつもりだろう」

再び、静寂が降りた。
森崎がヤングの発した言葉の意味を咀嚼するのには、先ほどの倍以上の時間が必要だった。

「……嘘だろ」

ようやくにして絞り出したのは、そんな言葉である。

「なあ、おい、確認させてくれよ、ヤングのおっさん」
「何だ」
「この南欧じゃ、まだ百年戦争の続きをやってんのか」
「……」
「銃を使わねえとか、そういう段階じゃねえだろ、ありゃあ」
「……」
「矢と砲弾の雨が降ってパイクが押し寄せてくる中で、やあやあ我こそは、とでもやるつもりかよ」
「……彼らは、若い」

責めるような森崎の言葉に、沈黙を守っていたヤングがようやく口を開く。

「父祖の武勇伝と絵巻物でしか戦争を知らん世代だ」
「笑えねえ冗談だぜ」

皮肉げに言った森崎に、更に追い打ちをかけるようなヤングの言葉が続く。

416 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 03:49:54 ID:???
「だが俺たちはその絵巻物と轡を並べるのさ」
「なにィ!?」

驚愕する森崎に、ヤングが淡々と言葉を紡ぐ。

「ドルファン王都騎士団は俺たち傭兵大隊を覗いては全八大隊から構成されている」

俺たち、とヤングは言った。
傭兵大隊の長を兼任するとはいえ、彼は大尉の階級を持つれっきとした正規軍の軍人である。
そこに込められた感情は、森崎には分からない。
分からないがしかし、その立ち居地の一筋縄ではいかないことだけは、理解できた。

「一大隊の定数は平時230名。槍騎兵……つまり騎士が100名と、専任の砲兵が10名。
 それから騎士たちの家から供出される従卒が120名。原則として連中の輜重はこの従卒が務める」
「従卒も編制に含めてんのかよ」
「……」

森崎がこぼすのを、ヤングは無視する。

「南欧ドルファンといやあ陸戦の雄、ってな評判も今は昔、か……で、戦時は」
「戦時定数は550名。平時編成に加え、徴募のパイク兵160名、弓兵160名が加わる」
「徴募ねえ……農民や狩人を召し上げるって話だろ」

苦々しげに、森崎。

「その通りだ。そこはどの国でも変わらんな」
「……」
「他所と違うところといえば、我らが誇り高きドルファン陸軍では大隊所属の正騎士の数を
 大幅に水増ししていることくらいだ」
「なにィ!?」

驚愕は続く。

417 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 03:51:12 ID:???
「騎士の定数は100名と言ったな。だが実のところそれが正騎士だけで満たされたことは、
 先のプロキア=ゲルタニア戦役以来、一度もない」
「……」
「現役で戦場を知る歴戦の騎士たちは年老い、騎士団を退いていく一方だ。
 軍属を望まん自由騎士どもを数に組み入れて、ようやく誤魔化している。
 ……今となっては、定数の約半分が自由騎士だ」
「ちょ、ちょっと待て」

開陳された事実を整理するように、森崎が言う。

「……つまり、この軍の主体である騎士団の、主戦力であるところの騎士は、
 実はその半分が軍属ですらねえ、あの決闘ごっこどもってことか!?」
「どうだ、笑えるだろう」
「笑うしかねえよ!」

叫ぶように言った森崎が、口の端を上げて笑みの形を作る。
天を仰げば、漏れた嘆息が青空に登っていく。

「ハハ、とんでもねえ国に来ちまったのかも知れねえな、俺……」
「ぼやくな、それだけ貴様らにも勲功を上げる機会が多いということさ」
「生き残れりゃ、な……」

新緑の季節の日はまだ高く、森崎の目を焼く。
瞼を閉じた森崎が、やがてがっくりと肩を落としてヤングの方へと向き直る。

418 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 03:52:39 ID:???
「……はァ。ところでさっき、連中の輜重は従卒がやるって言ってたけどよ」
「ああ」
「肝心の、俺たちの補給は誰がやってくれるんだよ」
「それは御用の酒保商人が着いてくる。食料、武器防具の替えから博打、女まで何でもござれの一座だ。
 ま、分かってるだろうが連中に嫌われるとしんどいぞ、上手く付き合えよ」

言ったヤングが、ぽんと森崎の肩を叩くと踵を返して歩いて行く。
話はこれで終わり、ということのようだった。
もう一度深く溜息をついた森崎の見やる先で、きらきらと輝く銀鎧が馬とともに駆けていく。
取り囲む人垣からは、楽しげな歓声が響いていた。



******

419 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 03:54:11 ID:???



訓練ダイス

※訓練は前後半に分かれています。
★マークごとにお一人づつ、!と numnumの間のスペースを消してダイスを引いてください。
目標値【50】に対しプラスマイナス30以内で成功、プラス31以上で大成功、マイナス31以下で失敗となります。
大成功時は成果が1.5倍、失敗時は0.5倍となります。


前半(体術)1
! numnum + ! numnum + ! numnum =

前半(体術)2
! numnum + ! numnum + ! numnum =

後半(魅力)1
! numnum + ! numnum + ! numnum =

後半(魅力)2
! numnum + ! numnum + ! numnum =



******

420 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 03:55:13 ID:9bPY4BPI

今回は三つのスキル獲得チャンスがありますが、三つめは体術の結果次第……といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。


421 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/19(火) 04:37:43 ID:???
61  +  79  +  38 =

422 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/19(火) 04:43:23 ID:???
【数値加算】
EPを5消費して>>421の真ん中に+5します。
これで79+5=84で大成功になるのかな?

423 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/19(火) 04:45:51 ID:???
コピペミスしてますね。加算も当然無効ですね…

前半(体術)1
54  +  30  +  61 =

424 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 04:46:37 ID:???
>>422
はい、その通りです。
初めての数値加算、ありがとうございます。
システムの例示にご協力いただきましたので、CP1を進呈いたします。

425 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/19(火) 04:47:44 ID:???
>>423
本作では多少のコピペミスなどは判定に影響させないようにしておりますので、お気になさらず。
体術1は>>421-422を採用いたします。

426 :テトラ ◆yfCGLLZSBA :2012/06/19(火) 06:12:07 ID:???

前半(体術)2
55  +  92  +  68 =

427 :Q513 ◆RZdXGG2sGw :2012/06/19(火) 06:53:49 ID:???

後半(魅力)1
85  +  85  +  83 =

428 :森崎名無しさん:2012/06/19(火) 06:58:08 ID:???

後半(魅力)2
32  +  69  +  74 =


429 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/19(火) 08:16:50 ID:???

後半(魅力)2
81  +  41  +  88 =


430 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:30:31 ID:???

皆様、ご回答ありがとうございます。
それぞれEP1を進呈いたします。



前半(体術)1
61  +  79(+5)  +  38 = 大成功1 成功2

前半(体術)2
55  +  92  +  68 = 大成功1 成功2

→大成功2 成功4


後半(魅力)1
85  +  85  +  83 = 大成功3

後半(魅力)2
81  +  41  +  88 = 大成功2 成功1

→大成功5 成功1

431 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:31:32 ID:???
//体術訓練

ずうん、という地響きと共に叩きつけられた巨体が、そのまま地に這う。
濛々と舞う土埃の向こうから現れたのは、仁王立ちのヤングである。

「よし、次!」

言い放ったその鷹の如き目は、倒れたままぴくりとも動かない巨体など既に映していない。

「……今の、見たか?」
「ああ……あれだけ体格の違う男が宙を飛んだぞ……」

ぞっとしたように言うネイに、トニーニョが答える。
彼らは体術訓練の真っ最中であった。
体術といっても、徒手空拳の強さを競う格闘技の訓練ではない。
居並ぶ傭兵たちは一様に、利き手に刃を潰された剣や穂先が木で覆われた槍といった訓練用の得物を持ち、
もう片方の腕には厚い木の板に鉄の枠を取り付けられた円盾を固定している。
訓練はそれらを装備したままの密着戦を想定したものであった。

「どうした、次! 申し出る者はいないのか!」

ならば、というように犠牲者を探しだそうとするヤングの前に、手が挙がった。

「俺が行くぜ」
「モリサキ!?」
「うへえ、お前わざわざ死にに行くのかよ!」

仲間たちの驚きの声が響く中、一歩を踏み出した森崎がニヤリと笑う。

432 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:32:33 ID:???
「なぁおっさん、本気でやってもいいんだよな? 怪我しても恨みっこなしだぜ」
「大口だけは一人前だが、そこに」

と、いまだ地に伏したままの巨体を顎で指したヤングが答える。

「そこに倒れてるのも確か、似たようなことを言っていた気がするぞ」
「ヘッ、一緒にするんじゃねえよ」

盾を前に構えた森崎が、言いながら無造作に間合いを詰める。
圧力をかけて近づき、足を掛けるか蹴りを見舞うか、それともそのまま盾で一撃を狙うかという動きである。

「俺らの国にはな、柔の技ってもんが―――」

口にしかけた森崎が、ぐるりと回転した。
構えた盾を支点とした、綺麗な一回転である。

「―――なにィ!?」

舌を噛まなかったのは僥倖というべきか、あるいは森崎も最低限度の矜持を見せたものか。
そのまま、背中から地面に落ちる。

「ぐっ……!」

どこをどうされたものか、森崎にもはっきりとはわからない。
盾でできた死角に伸びたヤングの手がその縁を掴んで固定し、更には一瞬の内に体を入れ替えて密着された、
かろうじてそれが認識できただけである。
気がついたときには、何事もなかったかのように立つヤングの姿を逆さまに見上げていた。

433 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:33:33 ID:???
「……ほう、受身くらいは取れるようだな。なら遠慮はいらんだろう、立て」
「な……」
「ここからは手加減なしだ。存分に胸を貸してやる!」

牙を剥くように笑ったヤングの視線は、森崎を見据えて放さない。

「また始まったぜ……」
「ああ、モリサキのやつもエラいのに目をつけられたもんだ……」
「どんだけ東洋人嫌いなんだよ、あの鬼教官……」

外野のざわめきも収まらぬ。
そんな中、立ち上がった森崎が砂の混じった唾を吐き捨てると、再び盾を前に構えてヤングへと向き直る。

「いい度胸だ……来い! モリサキ!」
「そう何度も投げられてたまるかー!」


***


この日、文字通り足腰立たなくなるまで続けられた訓練の中で森崎が何度宙を舞ったのか、
数えていたものは誰もいない。
それでも日の傾いた荒野の真ん中、精根尽き果てて大の字に倒れた森崎に向けて
ヤングは言ったものである。

「貴様にも『見習い拳士』程度の素養はあるようだな! 明日からはまた違うメニューでしごいてやる!
 よく休んでおけ!」



434 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:34:34 ID:???
******


※称号が『気のいい見習い拳士』になりました。

スキル『受身』を獲得しました。
種別:パッシブ
消費ガッツ:-
効果:個人戦闘時、DEF値を+10する。


******

435 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:35:35 ID:???

//魅力訓練


「……確かに、良くなってるな」

褐色の優男、ネイが不意にそんなことを呟いたのは、やはり素振りの最中である。
言われた森崎が手を止め、怪訝そうに訊ねる。

「何だよ、藪から棒に」
「いや、前に言ってただろ、お前」
「だから、何を」
「女のコたちにきゃ〜きゃ〜言われたいってよ」
「あー……だっけか」

そんなことを言った気もする、程度の記憶で答える森崎に、ネイが苦笑する。

「何だ、覚えてないのかよ。ま、でも、どっかで意識してたんじゃないか。
 ちゃんと良くなってるぜ」
「つーか、さっきから何が良くなってる、ってんだ」
「いや、だから……」

一拍置いたネイが、それこそ女性に見られれば黄色い歓声を上げられそうな笑みを浮かべて続けた。

「―――カッコ良くなってる、って言ってんだぜ」
「……ぶっ!?」

思わず吹き出し、げほげほと咽たのは言われた森崎だけではない。
すぐ後ろで黙々と剣を振っていたトニーニョもまた、全力で咽返っていた。
そしてまた色めき立ったのは、無論のことジェトーリオである。

436 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:36:53 ID:???
「ネイくんちょっとどいて。そいつ殺せない」
「どっから涌いて出たんだお前! 黙って自分の腹でも掻っ捌いてろ!」

背中に忍ばせた鞭状の得物へと手を伸ばす黒人に、ネイが思い切り蹴りを入れて黙らせる。
そんな姿を見ながら、しかし森崎も一歩を退く。

「い、いや、ネイ、お前……俺にそっちのケは……」
「そ、そうだぞネイ、個人の嗜好に立ち入る気はなかったが、そういうことなら先に言ってもらわんと……」
「ハァ!? ……って何言ってんだ、バカ! バカなのかお前ら!」

引き攣った顔で手を振る森崎、そして同様に青ざめた顔で後退るトニーニョの姿に、
ようやく何を勘違いされているのか気付いたネイが慌てたように言う。

「そうじゃねえよ! 俺だって野郎になんか一インチの興味もねえやい!」
「え……」
「そうなのか……」
「安心したような顔をするんじゃねえよ! 俺が好きなのは昔っから死ぬまで女のコたちだけ!
 知ってるだろ、そんくらい!」
「いや……それもカモフラージュなのかと……」
「だああっ! んなわけあるか!」

しばらくして誤解が完全に解けるまで、むくつけき傭兵たちの大部分はネイの周りから離れ、
ごく一部の数名は逆に妙に近い位置で素振りを続けていたという。


***

437 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:38:27 ID:???

「……ふう、エラい目に遭った。何でちょっとモリサキのことを褒めただけでこんなことに……」
「災難だったな」
「お前が言うな!」

訳知り顔でぽんぽんと肩を叩く森崎に、ネイが噛み付く。

「まあまあ……ところで、モテモテ免許皆伝のネイ師匠のお墨付きってことは、
 俺もイケメン軍団の仲間入りってことか? ま、わかってたことだけどな」
「調子に乗んな」

ふぁさ、と黒髪をかき上げる森崎を、ネイが呆れたように見やる。

「前より清潔感は出てきたよ。だがまあ、せいぜいまだ『フツメン』ってとこだ」
「……何だよ、普通って」
「ま、スタートラインには立ててるってことさ。けど、このレースは長くて厳しいぜ。
 気を抜くとすぐ脱落するからな、精進しろよ」


******


※称号が『気のいいフツメン』になりました。

スキル『清潔感』を獲得しました。
種別:パッシブ
消費ガッツ:-
効果:魅力判定時、目標値を10下げる。同様のスキルとは効果が重複しない。


******

438 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:40:43 ID:???

//複合スキル獲得


「最近、貫禄がついてきたな」
「あ? ……お前に言われると真実味があるな、貫禄番長のトニーニョさんよ」

長身に坊主頭の強面、更には全身が鍛え上げた筋肉で覆われた姿を見やって森崎が返すのへ、
トニーニョがその仏頂面を険しくする。

「茶化すな。……お前には、人を惹きつける何かを感じるという話さ。
 俺だけじゃない……他の連中やヤング教官も、近頃のお前には一目置いているだろう」
「おいおい、持ち上げても何も出ねえぞ。大体、俺がここに来てからまだ一ヶ月ちょいだぜ?
 近頃も何も……」

言った森崎に、トニーニョが表情を変える。
それは彼にしては珍しい、苦笑とも言える笑みであった。

「その短い期間で、いつの間にか人の輪の中にいる……お前には『リーダー』の才があるのかもしれないな」
「……よせやい、照れるぜ」
「それは」

手を振った森崎の仕草を止めるような、声音。
思わず見返した森崎の目に、トニーニョの苦い笑みは変わらず映っている。

「……それは、俺にはないものだ」

しかし紡がれる言葉は、どこか寂しげに響くのだった。


439 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:41:44 ID:???
******


※称号が『気のいいリーダー』になりました。

スキル『鉄壁』を獲得しました。
種別:部隊アクティブ
消費練度:10
効果:使用ターン、任意の1部隊の防御ダメージを50%にする。


******

440 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:42:49 ID:???

*D26.5 「気のいいリーダー」森崎有三
メインイベント
『少女と騎士』


新緑の薫りも強くなってきた、ある朝のことである。
欠伸混じりの森崎が、まずは水でも汲みに行こうかと部屋を出ようとした、その足元で
カサリと鳴るものがあった。

「……手紙?」
『何なに、どーしたの?』

扉の下に挟まれた、それは白い封筒であった。
拾い上げた森崎が朝の光に透かすように、表裏を改める。
宛名はない。

「直接届けに来たってわけか」
『でも、この名前って……』

白い封筒に宛名は書かれていない。
しかし、裏には小さな字で差出人の署名があった。
―――ソフィア・ロベリンゲ。

「……」
『とりあえず、開けてみようよ』
「……そうだな」

441 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:44:02 ID:???
ピコに促された森崎が、部屋の中に戻ると文机へと向かう。
特に封緘はされていない封筒を開けると、中にはやはり白い便箋が一枚。

  ―――この間は申し訳ありませんでした。

ユーゾー・モリサキ様、と書かれた手紙は、そんな謝罪から始まっていた。

「……この間、か」
『あのジョアンとかいうキザ男のことだよね』

あの、薄闇の道を思い浮かべる。
自分とは無関係だと必死に言い募った彼女。
振り向かなかった、その背中。
その真意が、直接に書かれていたわけではなかった。
しかし、礼と謝罪とが幾重にも織りなされる文章から、それは匂い立つようであった。

『……ホント、嘘のつけなそうな子だね』
「バカ正直というか、なんというか……」

そんな手紙の締めくくりは、意外な言葉で結ばれていた。

「……つきましては次のお休みの日、五月祭が開かれます。
 この街を知っていただくには良い機会かと存じます。
 宜しければ、是非ご案内させていただきたく……か」

読み上げた森崎の頭に、ピコがひらりと舞い降りる。

『お礼……ていうか、デートのお誘いじゃない、これ?』
「まあ、そう読めるな」
『ふふ〜ん、この色男! ……で、どうするの?』

ちょいちょい、と頭をつつくピコをぞんざいに振り払いながら、森崎が口を開く。

442 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/21(木) 00:46:13 ID:0J7QSWn+
「どうするもこうするも……」


*選択

A 誘いを受ける。

B 言い訳を探してみる。


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【森崎の心情から、選択理由】を必ず付記していただくようお願い致します。
期限は『6/21 23:00』です。


***


最速での「鉄壁」獲得はちょっと予想外でした、といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

443 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/21(木) 11:51:28 ID:???
A 季節毎のイベントって大切にしたいですね。
森崎ならば恋愛感情が有るかどうかは別にして少女の好意は無下にはしないと思います。

444 :ノータ ◆JvXQ17QPfo :2012/06/21(木) 15:53:01 ID:???
A
理由:何らかの策略が蠢いている可能性も否定できないが、この少女の誘いを断る理由は特にない
   むしろ前の訓練で仲間から良い評価を受けた森崎なら自信を持ってこの誘いを受けると思います   
   障りのない服装、清潔感ある感じになった森崎は、どう思われるか気になるはず

445 :◆W1prVEUMOs :2012/06/21(木) 21:41:23 ID:???

ソフィアがキザ男の目を盗むという危ない橋を渡ってるのに、それを無下にしたら男がすたる

446 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/21(木) 22:59:12 ID:???

ソフィアが心配なのは勿論、ジョアン本人も重要人物ぽいので情報が欲しい。
あいつがボンクラだと森崎の戦死確率が上がりそう。

447 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/22(金) 00:21:04 ID:???
この国の軍のありようを聞く限り契約期間中にこの国滅びてもおかしくない感じだね。

448 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/22(金) 00:33:13 ID:???
少なくとも、このまま進めば滅びかねない国のあり方ですね

449 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/22(金) 00:42:11 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>442の選択については……

>>444 ノータ ◆JvXQ17QPfo様の回答を採用させていただきます!
魅力訓練の結果から自信をつけているという視点は非常に新鮮でした。
なるほど、流れとしても自然ですね。
CP3を進呈いたします。


>>443
確かに今の森崎がそういった行動を取るのは考えにくいですね。
一年目の季節イベントはメインイベントに関わることが多くなっていますので、
来月以降に出てくる新キャラクター共々お楽しみ下さいませ。

>>445
はい、ソフィアはソフィアで色々と多方面に気を遣う立場にあります。
男としてフォローしてあげたいところですね。

>>446
自由騎士は軍属ではないので指揮権こそありません(もっと言えば参戦義務すらありません)が、
人手不足のドルファン軍においては彼らが戦局に影響を与えるのは確かですね。
ちなみにジョアン本人についてはまだ秘密ですが、自由騎士の大半はボンクラです…。


ご回答いただいた皆様にEP1を進呈いたします。


450 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/22(金) 00:50:48 ID:???
>>447
はい、実はドルファンの軍事力はガタガタです。
政治と外交の側でどうにか綱渡りを続けているのが現状ですね。
まあ、だからこそ傭兵が活躍する余地もあるのですが…。

>>448
現状で開示されている情報はまだまだ氷山の一角ですが、
確かに未来を楽観視できる状況ではありませんね。
一番の問題は、当事者たちの多くがその危機感を持てていないことです。

451 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/22(金) 00:54:08 ID:???
******


それから幾つかの日が流れ、瞬く間に五月祭の当日となった。
まだ小鳥の囀りが響く朝のこと、森崎が覗き込むのはこの日のために新調した手鏡である。
映り込んだ顔に髭の剃り残しがないことを確認した森崎が、濡らした髪の流れを手櫛で整える。
身につけた服も清潔感のある白いシャツに、細身のパンツ。
色はこの春流行の枯葉色である。

『ま、流行ってるってノエルさんに勧められたのを、そのまま買っただけだけどね』
「うるさいな。流行なんて研究する時間はなかったんだよ」
『でも今回は最初から普通っぽい服、売ってくれたね』
「いや、あれは絶対隠し玉を用意してる目だったぞ……油断できねえ」
『目ぇ〜? へえ、胸しか見てないのかと思ったよ』
「それは男として当ぜ……ゴホン、何のことだか分かんねえな」

咳払いとともに言った森崎が、もう一度鏡を覗くと、一つ頷く。

「さて、とりあえず……」
『身だしなみは整えたね。最低限』
「一言余計だっつーの」
『何だかんだ言って、結構ノリノリじゃない……』

呆れたように言って中空をくるりと回ったピコに、森崎が指を振ってみせる。

「チッチッチ、一度やると決めたら完璧を期すのが俺の流儀だぜ」
『こないだネイに褒められたからって、すっかり自信つけちゃって……』

半目になったピコには構わず、森崎が手早く革のベルトに愛用の長剣を提げて言う。

452 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/22(金) 00:55:09 ID:???
「出るぞ」
『え、もう? まだ約束の時間にはかなり早いけど……』
「バーカ、まずは相手の下調べだ。本当なら昨日までにやっておきたかったんだけどな」

余暇、という言葉を差し挟む余地のない地獄の訓練を思い浮かべて渋面を作る森崎。
小さく首を振って嫌な記憶をかき消すと、部屋の扉を開ける。

「敵を知り、己を知れば……ってのは兵法の鉄則だろ」
『そういうとこ、いやらしいよね』
「……」

じろりと睨んで歩き出した森崎を追いかけて、ピコがぱたぱたと羽ばたく。

『待ってってば! もう、それで具体的にはどうするの?』
「誰もが足を運んで、情報が集まる場所がある」
『酒場?』
「相手は女学生だっつの」


***


白い壁には彫刻による精緻な装飾。
ステンドグラスには聖母の姿が刻まれ、朝陽に美しく煌めいている。
重厚な扉の上に掲げられた黄金の十字架を見上げたピコが、ポツリと呟く。

『……教会?』
「そうだ」
『デートの成功でもお祈りするの?』
「んな女々しい真似するか!」
『わ、こわ〜い』

453 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/22(金) 00:59:00 ID:???
怒鳴られたピコが、悪びれた様子もなく青い空へと舞い上がる。
それを見上げた森崎が、ため息をついて続けた。

「そもそも森崎家が奉じるのは代々、熱田の神宮と決まってるんだよ。
 まあこっちで必要になることもあるから、礼拝の仕方くらいは知ってるけどな」
『冗談だよ。いつも通り、教区の信徒名簿を覗くんでしょ?』

再びふわりと降りてきたピコが言うのへ、森崎が渋面を作る。

「ひどい言われようだな」
『確かに生まれた年月から住所、家族構成なんかもわかるけどさ……わりと姑息だよね、キミ』
「知能派と言え、知能派と。いくら俺が清潔感に溢れた……」
『フツメンだからって』

さらりと言ったピコに、森崎の言葉が一瞬途切れる。
目を閉じ、息を整えて言い直した。

「いくら俺が清潔感に溢れたイケメン予備軍だからって、何の準備もなしに
 敵地に飛び込むのは主義に反するのさ」
『あ、そ……で、その予備軍さんはどうやってそれを見せてもらうつもり?』
「それはだな……」

454 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/22(金) 01:00:09 ID:bLORINas
*選択

A 正面から頼み込む。

B 策を弄する。

C きっといるに違いない美人のシスターと仲良くなってしまおう。(必要CP:1)


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願い致します。
またBを選択する場合はこれまでの描写・スキル・称号・パラメータなどから【手段】を提示して下さい。
期限は『6/22 23:00』です。

455 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/22(金) 01:02:15 ID:???
楽しいデート、その前に……といったところで、
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

456 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/22(金) 01:05:00 ID:???
C 冬馬由美好きなんだよね、という本音はともかく。
  わざわざCP使う選択肢なんだし、有利になってくれるでしょう、と。

457 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/22(金) 10:42:25 ID:???
A傭兵という職業柄、ドルファン出身の商人や船乗り又は傭兵の名前ぐらい覚えてても、おかしくないと思います。
教会の神父さんなら世話になったので、その人の遺族に会いたいとか住所が知りたいって云えば見せて貰えるんじゃないかな。

458 :ノータ ◆JvXQ17QPfo :2012/06/22(金) 22:55:41 ID:???
C
理由:例外的にCPを使った選択肢には裏ワザの可能性があるため
   恐らくこの選択肢がそうではないかと判断しました

459 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/22(金) 22:59:57 ID:???

デートの予行演習もかねて

460 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 00:56:48 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>455の選択については……

>>457 さら ◆KYCgbi9lqI様の回答を採用させていただきます!
どちらかと言えばB寄りの回答という気もしますが、手段の提示はお見事でした。
CP3を進呈いたします。


その他の皆様全員で特殊選択肢であるCを選ばれるというまさかの展開には驚きましたw
が、残念。これは普通にネタ選択肢です……。
こういう場合は基本的にハイリスク、(場合によっては)ハイリターンというパターンが多くなっています。
ちなみに今回もし選ばれていたら、基本的にガッツ消費、低確率(5%程度)で称号&スキル獲得でした。

特殊選択肢にて初の回答をいただいた皆様には、システム例示で物語の進行を補助していただいたことに対して
それぞれCP1を進呈いたします。



>>456
おお、いいご趣味ですね。
冬馬さんの演じるもう一人は攻略難易度が高すぎる(おそらく初回プレイでは早期にバッドエンドが確定する)ため
今回は顔見せがあるかどうかという程度の予定ではありますが、ご要望次第では出番増量も……?

>>458
今回はこのような結果となりましたが、賭けに出ることで大きな成果を得られることも確かにありますので、
ここぞという場面でまた挑戦してみて下さいね。

>>459
本番がこの直後なので、さすがにもうちょっと間を空けたいところですねw

461 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 00:58:37 ID:???
***


A 正面から頼み込む。



その空間は静謐に満ちている。

「お邪魔しま〜す……」

分厚い樫の大扉は、森崎が引くと音も立てずに開いた。
柔和な白に統一された内壁は森崎の視線よりも少し上からアーチを描き、頂点で繋がって
ドーム状の天井を形作っている。
飾り窓から射す朝の光が古びた長椅子を飴色に照らし出す、その中を貫くのは深い紅の絨毯だった。
真っ直ぐに祭壇へと続くそれは、さながら告解の道である。

「……誰か、いませんか〜」
『ねえキミ、どうしてそんなに小声なの』
「大声出せる空気じゃねえだろ、何か」

おそるおそる、といった風情で絨毯を踏みしめる森崎の、その囁き声すら音の波となって
壁に反響するように感じられた。
陽光の透き通るような白と内壁の乳白に押し固められた静謐を揺るがす、それは罪悪である。
自然、押し黙った森崎が無人の教会の中央に立ち尽くす。
外に囀る小鳥の声も、この白の中には届かない。
まるで時の止まったようなその空間に、

「――――何か御用ですか」

唐突に、声が響いた。
低く、静かな、しかし異様に近い、声。

462 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:00:17 ID:???
「……ッ!?」
『ひゃああっ!?』

ほとんど耳のすぐ後ろで発せられたような声に、反射的に振り返る森崎。
そこに、影はない。
しかし、数歩。
ほんの数歩を離れた場所に、白が、揺れていた。

「あ、あ、あんた……!?」
「……当教会に、何か御用でしょうか」

ゆらりと揺れた白の下には、透徹した瞳がある。
成る程、この瞳の持ち主ならば気配を感じさせぬのも当然と覗き込む者に納得させるような、
それは真夜中を吹く風の、黒。

「や、あの、その……」

純白に身を包んだ、黒い瞳の女。
白はベールと修道服。
女は、シスターであった。

「お話を、伺います」

微笑と銘打たれた仮面を隙なく被ったような笑顔を浮かべたシスターの、
低く掠れた声が堂内に響いた。


***

463 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:01:17 ID:???


「……なるほど。最近この街へいらしたのですね。それでこの街に住んでいるはずの、
 以前に世話になられた方の消息が知りたい……と」

純白のベールの下から覗く静謐な微笑は、淡々と紡がれる言葉と相まってひどく乾いた印象を与える。
喉がひりつくような感触を覚えた森崎が、唾を飲み込みながら曖昧に頷く。

「はあ……まあ、そんなところで……」
『テキトーなこと言っちゃって』

頭の上にちょこなんと肘をついて言うピコの言葉は無視しつつ、森崎が困ったような笑顔を浮かべて続ける。

「……いや、それでその、信徒名簿なんかを……まあ、見せてもらえれば、話も早いかと思いまして……」
「構いませんよ」
「だよな、いや、だと思いました! それじゃまあ、そういうことで……って、いいのかよ!?」

あまりにもあっさりと頷いたシスターに、思わず踵を返そうとしていた森崎が
逆に驚きと共に訊き返す。

「いやいやいや、マズいんじゃねーのそういうの!? もうちょっとこう、警戒心をだな」
『キミが言うかね……』
「私どもの教区では、特に隠し立てするようには申しつかっておりません。
 名簿に記載をさせていただく際にも、その旨は皆様にご説明しております」
「あ、そ、そうなんだ……、ですか……?」

取り乱す森崎とは対照的に、あくまでも平静かつ淡々と話すシスター。
ひどく釈然としない気持ちで森崎が呟いたときである。
きい、と微かに軋む音を立てながら、祭壇の脇に据えられた扉が開いた。

「―――何を騒いでいるのですか」

464 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:02:18 ID:???
扉の向こうから現れたのは、一人の男である。
足元までを真っ直ぐなラインで覆う黒のキャソックを纏い、背中まで垂れる栃色の長い髪をまとめるように
頭頂に乗せた円形の帽子、カロッタはやはり司祭の位を表す黒の一色。

「あ、神父様……」

シスターが神父と呼んだ男は、ほとんど足音すら立てることなく歩いてくる。

「申し訳ありません、こちらの方が名簿をご覧になりたいと……」

神父が、森崎から数歩の位置で立ち止まる。
背の高い男であった。
口元には神職にある者らしく柔和な笑みを浮かべていたが、小さな丸眼鏡の向こうに光る、
見下ろすような視線はおそろしく熱量が低い。

「……」
『……なんだか、寒くない?』

露出した腕をさすりながら、ぶるっと震えてみせたピコの方へと目をやる余裕は、森崎にはない。
得体の知れぬ怖気は、本能が眼前の神父を警戒しているものであった。

「そうですか、あなたが」
「……」

かけられる声はねっとりと柔らかく、しかし肌にへばりついて毛穴から沁み渡るような、
生理的な嫌悪感を催させるものである。

465 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:04:34 ID:???
「結構ですよ。我が教区にお住まいになっている方であれば、どなたでも名簿をご覧いただけます。
 貴方も今は我が教区の信徒ですからね、森崎有三さん」
「……」
『ねえ、今この人、すんごい流暢にキミの名前を発音しなかった?
 モリサキ、じゃなくて森崎、だったよね。日本語できるのかなあ』

感心したように言うピコだったが、森崎自身はまったく違うことを考えていた。

(問題は、そこじゃねえ。……俺はまだ、名乗ってねえんだぞ)

だが神父は、平然と森崎の名を呼んでみせた。
自身が事前に調べ上げられているという事実は言いようのない不気味さを感じさせる。
そしてまた何より森崎の神経をささくれ立たせたのは、今この場でそれを明らかにしてみせた
神父の意図が判然としないことである。

(ついうっかり……なんてワケ、ねえな)

森崎が逸らすことなく見返したままでいる神父の目には、理性の光があった。
たとえそれが触れる者を凍てつかせるような極低温の煌めきであったとしても、
少なくともつまらない間違いで手の内を明かすような男にできる眼差しではない。
ならばそれは恫喝か、警告か、或いは他に何かの思惑があるのか。
その目的が分からぬことが、森崎の心を波立たせる。
と、そんな森崎の内心を知ってか知らずか、神父がついと頭を下げると、笑みを深くしてみせた。

「……失礼。私はこれから所用がありまして、出かけなければなりません。
 何かあればシスター・ルーナにお聞き下さい」
「……」

無言を貫く森崎の態度にも、神父が表情を変えることはない。
色のない笑顔を向けて、言う。

466 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:05:35 ID:???
「弱者は己に頼らず、天に頼るしか術はありません。
 教会はいつでも扉を開いております、いつでもお越し下さい。……それでは」

言い終え、十字を切った神父が、シスターに向けてひとつ頷くと、歩き出す。
現れたときと同じようにほとんど足音を立てぬ神父は、そのまま教会の大扉から出て行くのだった。


***


「しっかりした紙だな。……この手の技術もスィーズランド譲りってわけか」

神父がいなくなって暫く経つ今もなお、警戒感はまだ全身を支配している。
それでも森崎は、ともかくも最初の目的を果たすべく、シスターから渡された教区名簿の
分厚い皮表紙を開いていた。

「ロベリンゲ、ロベリンゲ……と。お、これだな」
『どれどれ? ……ひゃ!』

名簿の上に身を乗り出すピコを摘み上げ、脇に移動させる森崎。

『もう! 口で言えばいいじゃない!』
「ソフィア・ロベリンゲ……ふむふむ」
『ね、聞いてる!?』

抗議を無視した森崎が、そこに書かれている文字列に目を走らせていく。
ソフィア・ロベリンゲ。
D**年、12/10生まれ。
学生、所属はドルファン学園。
家族は父ロバート、母ロミルダ、弟エリク。
現在フェンネル地区**号在住―――。

467 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:06:39 ID:???
「……ま、こんなところか」

ソフィア、そして家族の情報に一通り目を通した森崎が顔を上げると、
そこにピコの姿はない。

「……あれ? おーい、もういいぞ、ピコ!」
『もう、キミなんか知らない!』

呼んだ森崎に返ってくるのは、声ばかりであった。


***


サウスドルファン駅はドルファン地区の南西、シーエアー・フェンネルのそれぞれと
境を接する位置にある、環状馬車の停車駅である。
五月祭の今日、周辺で様々な催し物が開かれる沿道は黒山の人だかりであった。

「さーてと、約束の時間にはまだ少し早いが……」
『あれ? ねえ、あそこ……ソフィアじゃない?』
「ん?」

目印にと指定された軽食店の近くまで来た森崎が辺りを見回していると、
ようやく機嫌を直したのか、再び姿を現したピコにつんと袖を引かれる。
言われた森崎が目を細めれば、人波の向こう、歩行者の流れから少し離れた壁に
そっと寄り添うように立つのは、確かに待ち合わせの相手である少女のようだった。

「……いつから待ってるんだ?」
『まあ、遅れて来るようなタイプじゃないだろうけどねえ』

そんなことを言い交わしながら、人ごみをかき分けてそちらへと向かう森崎。
その目の前で―――

468 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:07:40 ID:eXV6pfKY

*ドロー

目の前で? → ! card


※ ! と card の間のスペースを消してカードを引いて下さい。
結果によって展開が分岐します。

スペード・ハート・ダイヤ→こちらに気付いたソフィアが歩いてくる。
クラブ→ソフィアに声をかけるナンパ男が。またか!
JOKER→突然、馬車を引いていた馬がいななくと、手綱を振りきって駆け出した! 暴れ馬だ!


469 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/23(土) 01:10:14 ID:???
目の前で? →  ダイヤ2

470 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:45:07 ID:???
>>469
ドローありがとうございます。
EP1を進呈いたします。


***


スペード・ハート・ダイヤ→こちらに気付いたソフィアが歩いてくる。


「あっ……モリサキさん」

小さく手を振りながら歩いてくる少女は、森崎がこれまでに見た姿とは大きく印象が違う。
それもそのはず、今日の彼女が纏っているのは学園の制服ではないのだった。
ともすれば儚げな印象を与えるその上半身を包むのは、淡い緑色のブラウス。
その上から薄桃色の精緻な刺繍を施されたショールを肩にかけ、腰から下を覆う紅色の長いスカートは
ふわりと初夏の風に揺れてやわらかいシルエットを描いている。
栗色の髪は若草色のリボンで一つにまとめられ、ちょうど馬の尾のように後ろへと垂らされていた。

「おはようございます。今日はいらしてくださって、ありがとうございます」

正面に立つや、深々と頭を下げるソフィア。
ぴょこんと、まとめられた髪が跳ね上がった。
鷹揚に頷き返す森崎にどこか困ったような笑顔を浮かべながら、ソフィアが続ける。

「毎日お疲れのところ、無理を言ってしまったんじゃないかって、ちょっと心配で……」
「……」
「えっと……私、どこか、変……ですか?」

無言のまま見つめる森崎に、僅かに顔を赤らめてソフィアが訊ねる。
そんなソフィアを前に、森崎は―――

471 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:48:17 ID:eXV6pfKY

*選択

A 服を褒める。

B 照れて口ごもる。


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『6/23 23:00』です。


******


実はこの欧州世界、原作からしてイベリア半島とイタリア半島が存在しません。
ローマがないなら、はてさてこれは何カトリック? といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。


472 :雑魚モブ ◆.xniaLTHMk :2012/06/23(土) 15:54:22 ID:???
A
森崎自身が服のセンスが無いので素直に感心すると思ったから
また、ソフィアの反応から服について何か言ってもらいたいのではと思ったから

473 :源氏 ◆rLDAH8Hy8Y :2012/06/23(土) 16:16:44 ID:???
A

大人の男である森崎は女学生相手に照れたりなどしないっ
自分がこの日の為に身だしなみ服装に気を使ったように、ソフィアも……と思うと
感じた通りの言葉が素直に出るのではないだろうか。

474 :◆W1prVEUMOs :2012/06/23(土) 18:01:55 ID:???

森崎がおっぱい星人に見えるのは、実はロリコンをカムフラージュしているからである

475 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/23(土) 19:02:28 ID:???
A精一杯のオシャレをしてきたであろうソフィアの気持ちを理解しない森崎ではないでしょう。

476 :Q513 ◆RZdXGG2sGw :2012/06/23(土) 21:38:34 ID:???
B
意外とシャイなんじゃないかな。あと、迂闊な誉め方をしてミスるのがこわかったり

477 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/23(土) 22:26:46 ID:???

リーダーの資質があるなら細かい気遣いもできそうなので。

478 :見てる人 ◆S/MUyCtQBg :2012/06/23(土) 22:47:37 ID:???
A 
森崎は、ソフィアがいつもと違う格好をしていることに気が付いてる。
そして、前のオッパイの女の人とは違い、年下の女の子だから。なんとか頑張って褒める。
ここで照れて口ごもるような男だと、この先、女難の相が見えてくると思うし。

479 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:06:25 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>471の選択については……

>>473 源氏 ◆rLDAH8Hy8Y様の回答を採用させていただきます!
なるほど、自身が努力した分、相手も頑張っている……忘れがちですが忘れてはいけない、
実に良い観点だと思います。
CP3を進呈いたします。

また同様にソフィアの努力について言及して下さった>>475 さら ◆KYCgbi9lqI様、
>>478 見てる人 ◆S/MUyCtQBg様、また現在の称号という効果的な切り口を提示していただいた
>>477 ◆9OlIjdgJmY様にもそれぞれCP1を進呈いたします。


>>472
そうですね、せっかくのデートですから出会い頭に好意的なリアクションをしてほしいと思うのは
普遍的な心理でしょう。
策がないなら服を褒めろ、あってもいいけどとにかく褒めろ、という格言(?)は
初デートから倦怠期まで広範囲にカバーできるアクティブスキルです。

>>474
斬新な視点! ……ですが、この物語の登場人物は全員18歳以上です。
そうは見えなくても世の中のルール的にそうなっています。
……それはともかく、ロリコンという名の紳士なら照れずにエレガントに相手を愛でましょう!

>>476
本作でのカード判定は基本的に「運を天に任せる」という状況を想定しますので、
相手のリアクション自体にドローを入れることはあまりしないようにしています。
そういった判定が必要とされる場面では、たとえば『褒める』という選択肢に
最初から「どう褒めるか」という【手段】を明記していただく形になりますので、
その意味ではご安心下さい。

480 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:07:38 ID:???
***


A 服を褒める。


「ああ……すまん、つい見つめちまった」
「えっ……?」

どこか変か、と問われて間髪入れずにこう答えたのが森崎である。
彼は少年とは違う種類の生き物、即ち男性であった。
そして彼はまた、少女が女という生き物とイコールであることを知っている。

「学園の制服しか見たことなかったからな。……可愛いぜ、そのカッコ」
「……っ」

目の前の少女が、自分が費やした手間暇など比べ物にならないほど、今日という時間のために
様々なものを消費し、消耗し、あるいは練磨し、研鑽したことくらいは理解している。
それはたとえば履き古した革靴の代わりに彼女の足元を彩る赤いストラップシューズであり、
白く眩しい首元あたりから微かに漂う柑橘系の香りであった。
だからこそ、賞賛を込めて素直に告げたその一言は、しかし劇的な効能を示す。
ソフィアは、一瞬にして赤面したのである。

「……あ、あ、ありがとう、ございます……っ。
 私、あんまりそういうの、言われたことなくて……」

481 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:09:30 ID:???
言った森崎の方が驚くほどに、耳まで赤く火照らせた少女が、俯き、一瞬だけ顔を上げ、
森崎と視線を合わせるやすぐにまた地面に親の敵でも見つけたように下を向きながら言う。
言葉通り、正面から褒められることにまったく慣れていないようだった。
女性は賛美を糧に美しくなるものだ。
だから美しい女性が好きならばその時々で素直に褒めるのが巡り巡って自分のためにもなる。
森崎はそんな風に考えていたが、それを彼女と同世代の少年たちに求めるのはまだ酷だっただろうか。
それにしても、と森崎は心の隅で思う。
まるきり耐性というものがないように見えるこの少女には、婚約者と称する男がいる。
ジョアン・エリータス。
あの傲慢な男は、彼女を賛美し、言葉で愛でることはないのだろうか。

(……ま、それでどうって話でもねえか)

口に出すことは流石にできない、そんな疑問を森崎は喧騒の中に捨てて少女へと向き直る。

「あの、五月祭は、お祭りですから……その、普段より、頑張る日で……。
 それで、いつも着られないような服、なんかも、頑張ってみようかな、って……」

ソフィアの、言い訳とも照れ隠しともつかぬ弁明はまだ続いていた。
その消え入るような声に、森崎は笑顔を浮かべて頷く。

「そっか。うん、いいと思うぜ、そういう気持ち」
「……はいっ」

春の花のような笑顔が、ようやく咲いた。


***

482 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:20:15 ID:???


「そこのお嬢さん、五月の花嫁になってみないかい!」

そんな声がかけられたのは、森崎とソフィアが出店を冷やかし、果汁入りの氷水を飲みながら
歩いていたときのことだった。
見て下さいあのお花綺麗ですね、おぉそうだな見たことないけど何て花なんだろうな、
あれもチューリップなんですよ珍しい品種ですけど、へえそうなのかよく知ってるな、と、
二人がその声を完全に無視したのは、自分たちにかけられたものだとは露程も思わなかったからである。

「ねえ俺っちの話、聞いてるかな! そこの黒髪の人の横の、そうあなた、お嬢さん!
 五月の花嫁、ねッ!」
「……?」
「あァ!?」

ほとんど肩に手が触れんばかりの距離にまで近づいて再度発せられた、どこまでも軽い声に
ソフィアと、そして森崎が振り返る。
立っていたのは、中年男性であった。
僅かに生え際の後退した髪を油でびっちりと固め、身にまとうモーニングは原色の黄。
陽光にチカチカと反射するのは金糸銀糸の刺繍だろうか。
まるでノエルの作る『上級者向け』の服だな、と思いながら森崎が男に向けて一歩を踏み出す。
ちょうどソフィアを背に隠すような位置取りである。

「……男連れを目の前でナンパたぁ、いい度胸だな」
「ぃえっ!? ちょ、ちょっと東洋のお兄さん……目が、目が怖い!
 そうじゃなくて、五月の花嫁が、ちょっとお話、聞いてもらえませんかァー!?」

ぺき、ぺきと拳を鳴らす森崎を、しかし押し留めたのは意外なことにソフィアであった。

「あ、あの、モリサキさん!」
「……?」
「た、たぶんこの方は、その、モリサキさんがお考えのような方では、ないと……思います」

483 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:21:38 ID:???
そんなソフィアの様子に、怪訝な顔をしながらもひとまずは拳を下げる森崎。
そう、そう教えてあげて、と必死に頷く男にちらりと目をやってから、ソフィアが続けた。

「五月の花嫁っていうのは、この辺りに昔からある言い伝えなんです。
 天使さまの御遣いとして選ばれた女の人が、幸運と祝福を運んでくる……っていう」
「そうなの! それで、その伝説にあやかって、このドルファンの五月祭では
 毎年『五月の花嫁』を選ぶコンテストが、ここ大事なトコね、花嫁コンテストが開かれるの!
 俺っちはその参加者をね、集めてるってワケ!
 お兄さんの大事なコにちょっかいかけたんじゃないの、おわかり?」

ソフィアの言葉を継いで一気に言い切った男が、引き攣った笑顔のまま森崎に人差し指を立てる。
ふん、と鼻を鳴らした森崎が、ソフィアの方へと振り返った。

「……と、言ってるが……」
「はい、そういうコンテストは確かに毎年開かれていますけど、でも、あれは事前の抽選で
 出場する人を決めるって……。倍率も、すごく高いっていう話で……」

話を振られたソフィアが僅かに眉根を寄せる。
森崎の表情が再び険しくなっていく気配を感じたか、男が慌てたように口を開いた。

「いやー、それが、それがね! 今年に限って事故だ目眩だ腹痛だ、しまいには本当に花嫁に、
 どころか母ちゃんになっちまうからこっちには出られないわー、なんてのまでいる始末で、
 土壇場で結構な欠員が出ちまってるのよ! 俺っちたち、運営全員大弱り!」

大袈裟に頭を抱えてみせる男。

「……それで、そうやって飛び込みで参加者を募集してるってわけか」
「そう! お兄さん、話が早い!」

一瞬で立ち直った男が、くるりと回ってソフィアの正面に立つと、覗き込むようにして言う。

484 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:22:40 ID:rCmrQzP6
「……で、どう? お嬢さん」
「どう、って言われても……」
「俺っちも長年このコンテストに関わってんだけどさ、お嬢さんにはこう、光るものを感じるんだよね!
 ビビーっと! ……きっといい線いくからさ、出てみよう、ネ!」
「で、でも、急に言われても、衣裳なんかも持ってませんし……」

立て板に水の如くまくし立てられたソフィアが及び腰で答えるのを、男が軽くいなす。

「そんなのこっちで用意してるから!
 お嬢さんは身一つで来てもらえれば、後はステージに立つだけ!」
「……ステージ」

ふとソフィアの呟いたその単語は、ただ男の言葉を繰り返しただけのようにも、
あるいはどこか、遥か遠い何かをぼんやりと見やりながら口にされたようにも、聞こえた。

「……」

視線が、森崎と交錯する。



*選択

A 花嫁コンテストへの参加を勧める

B 辞退するように勧める


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『6/25 23:00』です。

485 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:24:00 ID:???
******

といったところで、まだまだ早い時間ではありますが、
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
お付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

486 :雑魚モブ ◆.xniaLTHMk :2012/06/24(日) 18:50:48 ID:???
B
ウマイ話には裏があるってのが世の摂理だし、この男が本物の運営者かどうかもの怪しいので警戒するにこしたことはない
また、仮に参加して優勝でもしてジョアンに森崎と一緒にいたことが知られるとソフィアが何されるか分からないから

513KB (08:00PM - 02:00AM の間一気に全部は読めません)
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