キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
キャプテン森崎まとめ掲示板TOP

■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 301- 401- 501- 601- 701- 最新50
異邦人モリサキ

1 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/01(金) 00:31:21 ID:Hgnh9qno


本作は恋愛SLG『みつめてナイト』を基にした二次創作です。

騎士の時代が終わりつつある南欧は架空の小国、ドルファン王国。
戦火の迫るこの国に傭兵として降り立った東洋人、森崎有三の体験する
波乱万丈の三年間を描きます。


独自要素が強いため、外伝スレを経ずにスレを立てさせていただきました。
ご容赦下さいませ。



456 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/22(金) 01:05:00 ID:???
C 冬馬由美好きなんだよね、という本音はともかく。
  わざわざCP使う選択肢なんだし、有利になってくれるでしょう、と。

457 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/22(金) 10:42:25 ID:???
A傭兵という職業柄、ドルファン出身の商人や船乗り又は傭兵の名前ぐらい覚えてても、おかしくないと思います。
教会の神父さんなら世話になったので、その人の遺族に会いたいとか住所が知りたいって云えば見せて貰えるんじゃないかな。

458 :ノータ ◆JvXQ17QPfo :2012/06/22(金) 22:55:41 ID:???
C
理由:例外的にCPを使った選択肢には裏ワザの可能性があるため
   恐らくこの選択肢がそうではないかと判断しました

459 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/22(金) 22:59:57 ID:???

デートの予行演習もかねて

460 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 00:56:48 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>455の選択については……

>>457 さら ◆KYCgbi9lqI様の回答を採用させていただきます!
どちらかと言えばB寄りの回答という気もしますが、手段の提示はお見事でした。
CP3を進呈いたします。


その他の皆様全員で特殊選択肢であるCを選ばれるというまさかの展開には驚きましたw
が、残念。これは普通にネタ選択肢です……。
こういう場合は基本的にハイリスク、(場合によっては)ハイリターンというパターンが多くなっています。
ちなみに今回もし選ばれていたら、基本的にガッツ消費、低確率(5%程度)で称号&スキル獲得でした。

特殊選択肢にて初の回答をいただいた皆様には、システム例示で物語の進行を補助していただいたことに対して
それぞれCP1を進呈いたします。



>>456
おお、いいご趣味ですね。
冬馬さんの演じるもう一人は攻略難易度が高すぎる(おそらく初回プレイでは早期にバッドエンドが確定する)ため
今回は顔見せがあるかどうかという程度の予定ではありますが、ご要望次第では出番増量も……?

>>458
今回はこのような結果となりましたが、賭けに出ることで大きな成果を得られることも確かにありますので、
ここぞという場面でまた挑戦してみて下さいね。

>>459
本番がこの直後なので、さすがにもうちょっと間を空けたいところですねw

461 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 00:58:37 ID:???
***


A 正面から頼み込む。



その空間は静謐に満ちている。

「お邪魔しま〜す……」

分厚い樫の大扉は、森崎が引くと音も立てずに開いた。
柔和な白に統一された内壁は森崎の視線よりも少し上からアーチを描き、頂点で繋がって
ドーム状の天井を形作っている。
飾り窓から射す朝の光が古びた長椅子を飴色に照らし出す、その中を貫くのは深い紅の絨毯だった。
真っ直ぐに祭壇へと続くそれは、さながら告解の道である。

「……誰か、いませんか〜」
『ねえキミ、どうしてそんなに小声なの』
「大声出せる空気じゃねえだろ、何か」

おそるおそる、といった風情で絨毯を踏みしめる森崎の、その囁き声すら音の波となって
壁に反響するように感じられた。
陽光の透き通るような白と内壁の乳白に押し固められた静謐を揺るがす、それは罪悪である。
自然、押し黙った森崎が無人の教会の中央に立ち尽くす。
外に囀る小鳥の声も、この白の中には届かない。
まるで時の止まったようなその空間に、

「――――何か御用ですか」

唐突に、声が響いた。
低く、静かな、しかし異様に近い、声。

462 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:00:17 ID:???
「……ッ!?」
『ひゃああっ!?』

ほとんど耳のすぐ後ろで発せられたような声に、反射的に振り返る森崎。
そこに、影はない。
しかし、数歩。
ほんの数歩を離れた場所に、白が、揺れていた。

「あ、あ、あんた……!?」
「……当教会に、何か御用でしょうか」

ゆらりと揺れた白の下には、透徹した瞳がある。
成る程、この瞳の持ち主ならば気配を感じさせぬのも当然と覗き込む者に納得させるような、
それは真夜中を吹く風の、黒。

「や、あの、その……」

純白に身を包んだ、黒い瞳の女。
白はベールと修道服。
女は、シスターであった。

「お話を、伺います」

微笑と銘打たれた仮面を隙なく被ったような笑顔を浮かべたシスターの、
低く掠れた声が堂内に響いた。


***

463 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:01:17 ID:???


「……なるほど。最近この街へいらしたのですね。それでこの街に住んでいるはずの、
 以前に世話になられた方の消息が知りたい……と」

純白のベールの下から覗く静謐な微笑は、淡々と紡がれる言葉と相まってひどく乾いた印象を与える。
喉がひりつくような感触を覚えた森崎が、唾を飲み込みながら曖昧に頷く。

「はあ……まあ、そんなところで……」
『テキトーなこと言っちゃって』

頭の上にちょこなんと肘をついて言うピコの言葉は無視しつつ、森崎が困ったような笑顔を浮かべて続ける。

「……いや、それでその、信徒名簿なんかを……まあ、見せてもらえれば、話も早いかと思いまして……」
「構いませんよ」
「だよな、いや、だと思いました! それじゃまあ、そういうことで……って、いいのかよ!?」

あまりにもあっさりと頷いたシスターに、思わず踵を返そうとしていた森崎が
逆に驚きと共に訊き返す。

「いやいやいや、マズいんじゃねーのそういうの!? もうちょっとこう、警戒心をだな」
『キミが言うかね……』
「私どもの教区では、特に隠し立てするようには申しつかっておりません。
 名簿に記載をさせていただく際にも、その旨は皆様にご説明しております」
「あ、そ、そうなんだ……、ですか……?」

取り乱す森崎とは対照的に、あくまでも平静かつ淡々と話すシスター。
ひどく釈然としない気持ちで森崎が呟いたときである。
きい、と微かに軋む音を立てながら、祭壇の脇に据えられた扉が開いた。

「―――何を騒いでいるのですか」

464 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:02:18 ID:???
扉の向こうから現れたのは、一人の男である。
足元までを真っ直ぐなラインで覆う黒のキャソックを纏い、背中まで垂れる栃色の長い髪をまとめるように
頭頂に乗せた円形の帽子、カロッタはやはり司祭の位を表す黒の一色。

「あ、神父様……」

シスターが神父と呼んだ男は、ほとんど足音すら立てることなく歩いてくる。

「申し訳ありません、こちらの方が名簿をご覧になりたいと……」

神父が、森崎から数歩の位置で立ち止まる。
背の高い男であった。
口元には神職にある者らしく柔和な笑みを浮かべていたが、小さな丸眼鏡の向こうに光る、
見下ろすような視線はおそろしく熱量が低い。

「……」
『……なんだか、寒くない?』

露出した腕をさすりながら、ぶるっと震えてみせたピコの方へと目をやる余裕は、森崎にはない。
得体の知れぬ怖気は、本能が眼前の神父を警戒しているものであった。

「そうですか、あなたが」
「……」

かけられる声はねっとりと柔らかく、しかし肌にへばりついて毛穴から沁み渡るような、
生理的な嫌悪感を催させるものである。

465 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:04:34 ID:???
「結構ですよ。我が教区にお住まいになっている方であれば、どなたでも名簿をご覧いただけます。
 貴方も今は我が教区の信徒ですからね、森崎有三さん」
「……」
『ねえ、今この人、すんごい流暢にキミの名前を発音しなかった?
 モリサキ、じゃなくて森崎、だったよね。日本語できるのかなあ』

感心したように言うピコだったが、森崎自身はまったく違うことを考えていた。

(問題は、そこじゃねえ。……俺はまだ、名乗ってねえんだぞ)

だが神父は、平然と森崎の名を呼んでみせた。
自身が事前に調べ上げられているという事実は言いようのない不気味さを感じさせる。
そしてまた何より森崎の神経をささくれ立たせたのは、今この場でそれを明らかにしてみせた
神父の意図が判然としないことである。

(ついうっかり……なんてワケ、ねえな)

森崎が逸らすことなく見返したままでいる神父の目には、理性の光があった。
たとえそれが触れる者を凍てつかせるような極低温の煌めきであったとしても、
少なくともつまらない間違いで手の内を明かすような男にできる眼差しではない。
ならばそれは恫喝か、警告か、或いは他に何かの思惑があるのか。
その目的が分からぬことが、森崎の心を波立たせる。
と、そんな森崎の内心を知ってか知らずか、神父がついと頭を下げると、笑みを深くしてみせた。

「……失礼。私はこれから所用がありまして、出かけなければなりません。
 何かあればシスター・ルーナにお聞き下さい」
「……」

無言を貫く森崎の態度にも、神父が表情を変えることはない。
色のない笑顔を向けて、言う。

466 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:05:35 ID:???
「弱者は己に頼らず、天に頼るしか術はありません。
 教会はいつでも扉を開いております、いつでもお越し下さい。……それでは」

言い終え、十字を切った神父が、シスターに向けてひとつ頷くと、歩き出す。
現れたときと同じようにほとんど足音を立てぬ神父は、そのまま教会の大扉から出て行くのだった。


***


「しっかりした紙だな。……この手の技術もスィーズランド譲りってわけか」

神父がいなくなって暫く経つ今もなお、警戒感はまだ全身を支配している。
それでも森崎は、ともかくも最初の目的を果たすべく、シスターから渡された教区名簿の
分厚い皮表紙を開いていた。

「ロベリンゲ、ロベリンゲ……と。お、これだな」
『どれどれ? ……ひゃ!』

名簿の上に身を乗り出すピコを摘み上げ、脇に移動させる森崎。

『もう! 口で言えばいいじゃない!』
「ソフィア・ロベリンゲ……ふむふむ」
『ね、聞いてる!?』

抗議を無視した森崎が、そこに書かれている文字列に目を走らせていく。
ソフィア・ロベリンゲ。
D**年、12/10生まれ。
学生、所属はドルファン学園。
家族は父ロバート、母ロミルダ、弟エリク。
現在フェンネル地区**号在住―――。

467 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:06:39 ID:???
「……ま、こんなところか」

ソフィア、そして家族の情報に一通り目を通した森崎が顔を上げると、
そこにピコの姿はない。

「……あれ? おーい、もういいぞ、ピコ!」
『もう、キミなんか知らない!』

呼んだ森崎に返ってくるのは、声ばかりであった。


***


サウスドルファン駅はドルファン地区の南西、シーエアー・フェンネルのそれぞれと
境を接する位置にある、環状馬車の停車駅である。
五月祭の今日、周辺で様々な催し物が開かれる沿道は黒山の人だかりであった。

「さーてと、約束の時間にはまだ少し早いが……」
『あれ? ねえ、あそこ……ソフィアじゃない?』
「ん?」

目印にと指定された軽食店の近くまで来た森崎が辺りを見回していると、
ようやく機嫌を直したのか、再び姿を現したピコにつんと袖を引かれる。
言われた森崎が目を細めれば、人波の向こう、歩行者の流れから少し離れた壁に
そっと寄り添うように立つのは、確かに待ち合わせの相手である少女のようだった。

「……いつから待ってるんだ?」
『まあ、遅れて来るようなタイプじゃないだろうけどねえ』

そんなことを言い交わしながら、人ごみをかき分けてそちらへと向かう森崎。
その目の前で―――

468 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:07:40 ID:eXV6pfKY

*ドロー

目の前で? → ! card


※ ! と card の間のスペースを消してカードを引いて下さい。
結果によって展開が分岐します。

スペード・ハート・ダイヤ→こちらに気付いたソフィアが歩いてくる。
クラブ→ソフィアに声をかけるナンパ男が。またか!
JOKER→突然、馬車を引いていた馬がいななくと、手綱を振りきって駆け出した! 暴れ馬だ!


469 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/23(土) 01:10:14 ID:???
目の前で? →  ダイヤ2

470 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:45:07 ID:???
>>469
ドローありがとうございます。
EP1を進呈いたします。


***


スペード・ハート・ダイヤ→こちらに気付いたソフィアが歩いてくる。


「あっ……モリサキさん」

小さく手を振りながら歩いてくる少女は、森崎がこれまでに見た姿とは大きく印象が違う。
それもそのはず、今日の彼女が纏っているのは学園の制服ではないのだった。
ともすれば儚げな印象を与えるその上半身を包むのは、淡い緑色のブラウス。
その上から薄桃色の精緻な刺繍を施されたショールを肩にかけ、腰から下を覆う紅色の長いスカートは
ふわりと初夏の風に揺れてやわらかいシルエットを描いている。
栗色の髪は若草色のリボンで一つにまとめられ、ちょうど馬の尾のように後ろへと垂らされていた。

「おはようございます。今日はいらしてくださって、ありがとうございます」

正面に立つや、深々と頭を下げるソフィア。
ぴょこんと、まとめられた髪が跳ね上がった。
鷹揚に頷き返す森崎にどこか困ったような笑顔を浮かべながら、ソフィアが続ける。

「毎日お疲れのところ、無理を言ってしまったんじゃないかって、ちょっと心配で……」
「……」
「えっと……私、どこか、変……ですか?」

無言のまま見つめる森崎に、僅かに顔を赤らめてソフィアが訊ねる。
そんなソフィアを前に、森崎は―――

471 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/23(土) 01:48:17 ID:eXV6pfKY

*選択

A 服を褒める。

B 照れて口ごもる。


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『6/23 23:00』です。


******


実はこの欧州世界、原作からしてイベリア半島とイタリア半島が存在しません。
ローマがないなら、はてさてこれは何カトリック? といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。


472 :雑魚モブ ◆.xniaLTHMk :2012/06/23(土) 15:54:22 ID:???
A
森崎自身が服のセンスが無いので素直に感心すると思ったから
また、ソフィアの反応から服について何か言ってもらいたいのではと思ったから

473 :源氏 ◆rLDAH8Hy8Y :2012/06/23(土) 16:16:44 ID:???
A

大人の男である森崎は女学生相手に照れたりなどしないっ
自分がこの日の為に身だしなみ服装に気を使ったように、ソフィアも……と思うと
感じた通りの言葉が素直に出るのではないだろうか。

474 :◆W1prVEUMOs :2012/06/23(土) 18:01:55 ID:???

森崎がおっぱい星人に見えるのは、実はロリコンをカムフラージュしているからである

475 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/23(土) 19:02:28 ID:???
A精一杯のオシャレをしてきたであろうソフィアの気持ちを理解しない森崎ではないでしょう。

476 :Q513 ◆RZdXGG2sGw :2012/06/23(土) 21:38:34 ID:???
B
意外とシャイなんじゃないかな。あと、迂闊な誉め方をしてミスるのがこわかったり

477 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/23(土) 22:26:46 ID:???

リーダーの資質があるなら細かい気遣いもできそうなので。

478 :見てる人 ◆S/MUyCtQBg :2012/06/23(土) 22:47:37 ID:???
A 
森崎は、ソフィアがいつもと違う格好をしていることに気が付いてる。
そして、前のオッパイの女の人とは違い、年下の女の子だから。なんとか頑張って褒める。
ここで照れて口ごもるような男だと、この先、女難の相が見えてくると思うし。

479 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:06:25 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>471の選択については……

>>473 源氏 ◆rLDAH8Hy8Y様の回答を採用させていただきます!
なるほど、自身が努力した分、相手も頑張っている……忘れがちですが忘れてはいけない、
実に良い観点だと思います。
CP3を進呈いたします。

また同様にソフィアの努力について言及して下さった>>475 さら ◆KYCgbi9lqI様、
>>478 見てる人 ◆S/MUyCtQBg様、また現在の称号という効果的な切り口を提示していただいた
>>477 ◆9OlIjdgJmY様にもそれぞれCP1を進呈いたします。


>>472
そうですね、せっかくのデートですから出会い頭に好意的なリアクションをしてほしいと思うのは
普遍的な心理でしょう。
策がないなら服を褒めろ、あってもいいけどとにかく褒めろ、という格言(?)は
初デートから倦怠期まで広範囲にカバーできるアクティブスキルです。

>>474
斬新な視点! ……ですが、この物語の登場人物は全員18歳以上です。
そうは見えなくても世の中のルール的にそうなっています。
……それはともかく、ロリコンという名の紳士なら照れずにエレガントに相手を愛でましょう!

>>476
本作でのカード判定は基本的に「運を天に任せる」という状況を想定しますので、
相手のリアクション自体にドローを入れることはあまりしないようにしています。
そういった判定が必要とされる場面では、たとえば『褒める』という選択肢に
最初から「どう褒めるか」という【手段】を明記していただく形になりますので、
その意味ではご安心下さい。

480 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:07:38 ID:???
***


A 服を褒める。


「ああ……すまん、つい見つめちまった」
「えっ……?」

どこか変か、と問われて間髪入れずにこう答えたのが森崎である。
彼は少年とは違う種類の生き物、即ち男性であった。
そして彼はまた、少女が女という生き物とイコールであることを知っている。

「学園の制服しか見たことなかったからな。……可愛いぜ、そのカッコ」
「……っ」

目の前の少女が、自分が費やした手間暇など比べ物にならないほど、今日という時間のために
様々なものを消費し、消耗し、あるいは練磨し、研鑽したことくらいは理解している。
それはたとえば履き古した革靴の代わりに彼女の足元を彩る赤いストラップシューズであり、
白く眩しい首元あたりから微かに漂う柑橘系の香りであった。
だからこそ、賞賛を込めて素直に告げたその一言は、しかし劇的な効能を示す。
ソフィアは、一瞬にして赤面したのである。

「……あ、あ、ありがとう、ございます……っ。
 私、あんまりそういうの、言われたことなくて……」

481 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:09:30 ID:???
言った森崎の方が驚くほどに、耳まで赤く火照らせた少女が、俯き、一瞬だけ顔を上げ、
森崎と視線を合わせるやすぐにまた地面に親の敵でも見つけたように下を向きながら言う。
言葉通り、正面から褒められることにまったく慣れていないようだった。
女性は賛美を糧に美しくなるものだ。
だから美しい女性が好きならばその時々で素直に褒めるのが巡り巡って自分のためにもなる。
森崎はそんな風に考えていたが、それを彼女と同世代の少年たちに求めるのはまだ酷だっただろうか。
それにしても、と森崎は心の隅で思う。
まるきり耐性というものがないように見えるこの少女には、婚約者と称する男がいる。
ジョアン・エリータス。
あの傲慢な男は、彼女を賛美し、言葉で愛でることはないのだろうか。

(……ま、それでどうって話でもねえか)

口に出すことは流石にできない、そんな疑問を森崎は喧騒の中に捨てて少女へと向き直る。

「あの、五月祭は、お祭りですから……その、普段より、頑張る日で……。
 それで、いつも着られないような服、なんかも、頑張ってみようかな、って……」

ソフィアの、言い訳とも照れ隠しともつかぬ弁明はまだ続いていた。
その消え入るような声に、森崎は笑顔を浮かべて頷く。

「そっか。うん、いいと思うぜ、そういう気持ち」
「……はいっ」

春の花のような笑顔が、ようやく咲いた。


***

482 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:20:15 ID:???


「そこのお嬢さん、五月の花嫁になってみないかい!」

そんな声がかけられたのは、森崎とソフィアが出店を冷やかし、果汁入りの氷水を飲みながら
歩いていたときのことだった。
見て下さいあのお花綺麗ですね、おぉそうだな見たことないけど何て花なんだろうな、
あれもチューリップなんですよ珍しい品種ですけど、へえそうなのかよく知ってるな、と、
二人がその声を完全に無視したのは、自分たちにかけられたものだとは露程も思わなかったからである。

「ねえ俺っちの話、聞いてるかな! そこの黒髪の人の横の、そうあなた、お嬢さん!
 五月の花嫁、ねッ!」
「……?」
「あァ!?」

ほとんど肩に手が触れんばかりの距離にまで近づいて再度発せられた、どこまでも軽い声に
ソフィアと、そして森崎が振り返る。
立っていたのは、中年男性であった。
僅かに生え際の後退した髪を油でびっちりと固め、身にまとうモーニングは原色の黄。
陽光にチカチカと反射するのは金糸銀糸の刺繍だろうか。
まるでノエルの作る『上級者向け』の服だな、と思いながら森崎が男に向けて一歩を踏み出す。
ちょうどソフィアを背に隠すような位置取りである。

「……男連れを目の前でナンパたぁ、いい度胸だな」
「ぃえっ!? ちょ、ちょっと東洋のお兄さん……目が、目が怖い!
 そうじゃなくて、五月の花嫁が、ちょっとお話、聞いてもらえませんかァー!?」

ぺき、ぺきと拳を鳴らす森崎を、しかし押し留めたのは意外なことにソフィアであった。

「あ、あの、モリサキさん!」
「……?」
「た、たぶんこの方は、その、モリサキさんがお考えのような方では、ないと……思います」

483 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:21:38 ID:???
そんなソフィアの様子に、怪訝な顔をしながらもひとまずは拳を下げる森崎。
そう、そう教えてあげて、と必死に頷く男にちらりと目をやってから、ソフィアが続けた。

「五月の花嫁っていうのは、この辺りに昔からある言い伝えなんです。
 天使さまの御遣いとして選ばれた女の人が、幸運と祝福を運んでくる……っていう」
「そうなの! それで、その伝説にあやかって、このドルファンの五月祭では
 毎年『五月の花嫁』を選ぶコンテストが、ここ大事なトコね、花嫁コンテストが開かれるの!
 俺っちはその参加者をね、集めてるってワケ!
 お兄さんの大事なコにちょっかいかけたんじゃないの、おわかり?」

ソフィアの言葉を継いで一気に言い切った男が、引き攣った笑顔のまま森崎に人差し指を立てる。
ふん、と鼻を鳴らした森崎が、ソフィアの方へと振り返った。

「……と、言ってるが……」
「はい、そういうコンテストは確かに毎年開かれていますけど、でも、あれは事前の抽選で
 出場する人を決めるって……。倍率も、すごく高いっていう話で……」

話を振られたソフィアが僅かに眉根を寄せる。
森崎の表情が再び険しくなっていく気配を感じたか、男が慌てたように口を開いた。

「いやー、それが、それがね! 今年に限って事故だ目眩だ腹痛だ、しまいには本当に花嫁に、
 どころか母ちゃんになっちまうからこっちには出られないわー、なんてのまでいる始末で、
 土壇場で結構な欠員が出ちまってるのよ! 俺っちたち、運営全員大弱り!」

大袈裟に頭を抱えてみせる男。

「……それで、そうやって飛び込みで参加者を募集してるってわけか」
「そう! お兄さん、話が早い!」

一瞬で立ち直った男が、くるりと回ってソフィアの正面に立つと、覗き込むようにして言う。

484 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:22:40 ID:rCmrQzP6
「……で、どう? お嬢さん」
「どう、って言われても……」
「俺っちも長年このコンテストに関わってんだけどさ、お嬢さんにはこう、光るものを感じるんだよね!
 ビビーっと! ……きっといい線いくからさ、出てみよう、ネ!」
「で、でも、急に言われても、衣裳なんかも持ってませんし……」

立て板に水の如くまくし立てられたソフィアが及び腰で答えるのを、男が軽くいなす。

「そんなのこっちで用意してるから!
 お嬢さんは身一つで来てもらえれば、後はステージに立つだけ!」
「……ステージ」

ふとソフィアの呟いたその単語は、ただ男の言葉を繰り返しただけのようにも、
あるいはどこか、遥か遠い何かをぼんやりと見やりながら口にされたようにも、聞こえた。

「……」

視線が、森崎と交錯する。



*選択

A 花嫁コンテストへの参加を勧める

B 辞退するように勧める


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『6/25 23:00』です。

485 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 16:24:00 ID:???
******

といったところで、まだまだ早い時間ではありますが、
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
お付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

486 :雑魚モブ ◆.xniaLTHMk :2012/06/24(日) 18:50:48 ID:???
B
ウマイ話には裏があるってのが世の摂理だし、この男が本物の運営者かどうかもの怪しいので警戒するにこしたことはない
また、仮に参加して優勝でもしてジョアンに森崎と一緒にいたことが知られるとソフィアが何されるか分からないから

487 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/24(日) 19:16:36 ID:???
A
確かに、優勝(あるいは参加だけでも)すればジョアンとの関係は悪化するだろうが、
「あるいはどこか、遥か遠い何かをぼんやりと見やりながら口にされたようにも、聞こえた。」
ってことは、彼女の物語に関わる何かが「ステージ」や「芸能」にあるんだろうね。
男ならトラブルを嫌うのではなく、物語に飛び込むべきではないかな。

488 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/24(日) 20:29:12 ID:???
【ピココール】
この男は本当に大会運営の人間だと思うか?
それにこんな都合良い話があるものだろうか?

489 :ピコ ◆ALIENo70zA :2012/06/24(日) 22:45:40 ID:???
>>488
あれ…よく見たら、あっちでもこっちでもオジサンとかおにーさんがペコペコ頭を下げてるね。
キミたちにしたのと同じように声をかけちゃあ、邪険にされてるみたいだよ(そりゃ、若いコは大抵デート中だからね!)。
だからまあ、とりあえず偽物ってことはないんじゃないかな?

490 :ノータ ◆JvXQ17QPfo :2012/06/24(日) 22:56:52 ID:???
A
理由:ピコの言う通りならジョアン関係ではなさそうなので
   と言うよりもジョアンなら、自分の花嫁なのにこんな大会に参加させようとは思わないはず
   ソフィアもおそらく着たいだろうし

491 :見てる人 ◆S/MUyCtQBg :2012/06/24(日) 22:59:47 ID:???
A
出ちゃおうぜ。本人の自信にもつながるだろうし、祭りは楽しまなきゃ!

492 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/24(日) 23:07:25 ID:???
あ、私や雑魚モブ氏の言っている「ジョアンとの関係」っていうのは、このイベントの背後にヤツが居るという話ではなく、
参加あるいは優勝で評判になる→森崎とソフィアのデートがジョアンに知られる→険悪に、ってことね、念のため。

493 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/25(月) 09:56:06 ID:???
Aジョアンの事は気にかかりますが、ソフィアも舞台に立ちたそうな感じなんで背中を押してあげるのも良いんじゃないかな。

494 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/25(月) 22:58:23 ID:???

花嫁コンテストがイベントとして面白そうなので。

495 :Q513 ◆RZdXGG2sGw :2012/06/26(火) 09:03:07 ID:???

目立ってしまうかもしれないけれど、まあお互い楽しむのが大事だろうし

496 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:43:24 ID:???

皆様、ご回答ありがとうございます。
しばらく間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。
それでは早速、>>484の選択については……

>>487 傍観者  ◆YtAW.M29KM様の回答を採用させていただきます!
まったく付け加えることのないくらい、要点を綺麗に拾っていただきました。
ありがとうございます。
CP3を進呈いたします。

また同様にソフィアと舞台の関連に言及して下さった>>493 さら ◆KYCgbi9lqI様にも
CP1を進呈いたします。
そうですね、最初に少しだけ背中を押してあげさえすれば走り出せる子もいるのです。
常にムチを入れていないとどこまでも緩む子も中にはいますが…。


>>486
生き馬の目を抜く欧州、細かな警戒は大切です。
が、まあ、その気になれば膨大な資金と人員を投入できる相手に対して、一傭兵である現在の森崎に
完璧な防戦ができるかというと…どこかで割り切りは必要になってくるでしょう。
(GMとしてもラダトームの町の周りに死神の騎士やダースドラゴンを置くような真似はしませんw)
勿論、警戒ラインを下げすぎれば悲劇に向かって一直線ということもありますので、
さじ加減には常に気をつけていきたいところではあります。


497 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:44:25 ID:???
>>490
そうですね、ジョアンにとってはまったくメリットがないでしょう。

>>491
はい、お祭りでは遠慮したら負けです!

>>494
イベントの描写に時間を取られましたが、お楽しみいただければ幸いです。


ご回答いただいた皆様にそれぞれEP1を進呈いたします。


>>495
そうですね、楽しむのが一番です。
後のことは後で考えても、まだいい場面でしょう。


498 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:45:26 ID:???
***


A 花嫁コンテストへの参加を勧める


「行ってこいよ」

森崎が告げるのは、直截な一言であった。
迷うのならば行けと、少女の背を押すように言う。
ステージというものに少女がどのような気持ちを込めるのか、今の森崎は知らない。
それでも、そこに何かを求めるのであれば立ち止まる道はないと、森崎は思う。
それは明日の命の保証のない、傭兵という身の上からくる生き急ぎ方であっただろうか。

「ですが……」

言い淀むソフィアの目には、躊躇いがある。
その躊躇いの内にはジョアンのことも含まれているのだろうというのが、森崎の直感である。
舞台に立つことか、それによって人目につくことか、あるいは自分の意志で何かをしようとすることそれ自体か、
いずれあの男の気に障るのだろう。
目の前の少女、一回りも下の年端もいかぬ少女は、それで森崎に累が及ぶことを懸念しているのだ。

「俺のことは、気にすんな」

ならば、そう言ってやるのが森崎有三という男の役割である。
身一つより他に守るものとてないのが風来坊の強み、火の粉が振りかかるならば払えばいいと笑うのが、
今この少女にしてやれる最上のことだった。
あとはソフィア自身が決めることだと、目線で告げる。
得るものと失うものとを天秤にかけて、決断すればいい。

499 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:46:30 ID:???

「……はい」

ソフィアは、しっかりと森崎の目を見て頷いた。
森崎の言いたいことは余さず伝わったようだった。
賢い子だ、と思う。

「モリサキさん」

派手な格好の男に付き添われて会場の裏口に入っていく寸前、ソフィアが森崎に笑って、言った。

「応援……して下さいね」


***

500 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:47:31 ID:???

「皆様、たいっっへん長らくお待たせいたしましたぁーッ!!」

新緑の薫りも爽やかな青空の下、甲高くもよく通る声が響く。
と、同時。五月祭の催し物が開かれる広場の中でも一際大きく設営された特別会場の舞台に、
目が痛くなるような黄色のモーニングを着込んだ男が飛び出してきた。
声は、男が発したものである。

『あ、あの人!』
「司会だったのかよ、あのオッサン……」

呟く森崎が座るのは、舞台上で喋る男が用意したという席である。
ちょうど舞台正面、最前列でこそないものの顔がしっかりと見える程度には近い距離という上席だった。
司会の男の顔もよく見える。
つるりと広い額を撫でた男が、大きな身振りと共に口を開いた。

「これより五月祭のメインイベント、『五月の花嫁コンテスト』を開催いたします!
 野郎ども、麗しの令嬢を迎える準備はいいかあぁぁ!?」

うおおおお、と地鳴りのような声が応える。
席という席を埋め尽くし、立ち見までびっしりと詰まった千を超える群衆の殆どは男性である。

「うるせえな……」
『歓声が野太いよ……』

あまりの温度差についていけない森崎をよそに、舞台上の男はてきぱきと場を進行していく。
幾つかの注意事項を述べた後、審査員たちの紹介を終えると、いよいよ出場者の呼び込みである。

「まずは一番手! 城南市場の看板娘! モバー・モビー姉妹が登場だぁー!
 はりきって、どうぞー!!」

501 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:48:32 ID:???
うおおおお。
さながら地鳴りを抑える巫女のように袖から現れた二人の女性を見て、しかし森崎は拍子抜けする。

「……大したことねえな、おい」
『うーん……フツー、だね』

思わず漏らした声は周囲の歓声にかき消される。
が、しかし何度見ても舞台上にいるのは実にありふれた容姿の、それも少しばかり歳のいった姉妹である。
身につけるドレスも豪奢というには程遠い、おそらくは先祖代々受け継がれてきたものであろう
時代がかった色味とデザインの、有り体に言えば単なるトルキア地方の民族衣装である。
照れ笑いを浮かべながら手を振る姿も見事に垢抜けない。

「まあ、公募抽選って言ってたしな……こんなもんか」
『もう結婚しちゃってる人は出られないだろうしねえ』

その言葉通り、しばらくは退屈な時間が続いた。
出てくるのは下町の売り子だの、ご町内最後の独身娘だのといった面々である。

「っかし、ロクなのがいねえなあ……この調子ならソフィアもかなりイイ線行くんじゃないか?」
『そうだねえ……優勝だって狙えちゃうかも?』

欠伸を噛み殺すこともない森崎が、肩を揉みほぐしながら言う。
そんな弛緩した空気は、しかし一変することとなる。

「―――大家族の末娘、モバック嬢でした! ありがとうございましたっ!」

大袈裟な身振りと共に出場者を袖へと送り出した司会の男が、言ったものである。

「さあ、盛り上がってまいりました! ……ここからは主催者推薦の面々が登場だぁッ!
 興奮しすぎてくたばるんじゃねえぞ、野郎どもッッ!」

502 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:49:53 ID:???
グオォォォォ―――
突如、地鳴りが山崩れへと変化した。
周囲の男たちが、最早堪え切れぬとばかりに立ち上がる。

「な、何だァ!?」
『この人たち、まだこんなに盛り上がれたんだね……』

目を白黒させる森崎。

「まず最初にお目見えは北欧からの刺客、白き森の守護者、リューリ・ハルティカイネン嬢!!
 ―――どうぞッ!」

しゃん、と。
その蒼白のドレスを纏った女性の、歩を進める音が、森崎の耳に聞こえた。
地鳴りも、山崩れも、どこか地平の彼方へ消えていた。
凍りついたような静寂の中を歩むその女性は、一目見ただけでこれまでの出場者とは
根本的にレベルが違うことがわかる。
蒼のマーメイドラインに包まれるのはまるで繊細な細工物のような白い肌と細い腰。
白銀のティアラの下、濃いシャドウで強調される切れ上がった目元は刃物の如く鋭い。
薄い唇を彩るのは、紫の口紅である。
物語から抜けだしてきた雪の女王と言われれば信じてしまいそうな女性が舞台の中央へと進むと、
司会の男が駆け寄った。

「ではリューリ嬢、客席と審査員に向けて一言アピール、どうぞ!」

言われた女性が、見事な刺繍を施された本繻子の肘まである手袋に覆われた細い指を口元に当てると、
僅かに視線を動かした。
触れなば斬れん、というような瞳が、会場を睨め付ける。
一瞬の後、凍土を吹く烈風のような声が響いた。

「……誰も彼も間抜け面を並べて。生きているのが恥ずかしくないのかしら」

503 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:50:54 ID:???
きぃん、と。
氷室から取り出した氷が、外気に触れて罅割れるような音が、聞こえた気がした。
ほんの僅かの間を置いて。
罅の中から漏れ出したのは、歓喜の叫びである。

ウゥゥゥオオオオォォォォォォォ―――

ほとんど涙を流さんばかり、もしも尻尾があれば根本から千切れんばかりの勢いで
ぶんぶんと揺らしているに違いない表情で喜ぶ男たち。

「こ、こいつら……怖ぇ」
『……そういうキミも、どうして立ち上がって手なんて振ってんのさ』
「なにィ!?」

愕然とする森崎に、ピコの視線が突き刺さる。
そんな様子にも当然ながら取り合うことなく、場は進んでいく。
氷の如き女性は既に袖へと帰っていた。

「駄犬ども! 存分に嬉ション漏らしたか!? 俺っちも今すぐ着替えてきたい!
 が、そんな暇は与えないぞ! お次はこの人! カミツレの自然が育んだ天然砲弾、
 ミス=ブレイクアップ、エッラ・ブロッジーニ嬢の登場だぁ!!」
「ハァ〜イ!」

呼び込みの声と共に舞台へと飛び出したのは、先ほどの凍てつく美貌とはあらゆる意味で対照的な女性である。


504 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:52:07 ID:???
「ん〜、チュッ♪」

舞台中央へと走り込むや客席へと投げキッスをしてみせた、その唇はぷるんと厚い。
日に焼けて褐色に近くなった肌に絡むブルネットの髪はどこまでも艶っぽく、そして何より
朱を基調としたベルラインのドレスに包まれた肢体はそれ自体が強烈に男性へのアピールとなる、
破壊力に溢れるものであった。
豊満なバストから視線を下ろせば、引き締まった腰回りから肉感的な骨盤周辺へと張りのある肉が
みっしりとその存在感を主張している。
男と生まれたからにはその肉に手指を埋め、顔を埋め、汗と快楽の海に溺れたいと夢想せずにはいられない、
ある種の魔力に満ちた体つきであった。

「こ、こいつぁ……ゴクリ」
『……キミ、いい加減にしないと怒るよ』
「痛ぇ! 何すんだ!」
『ふん』

大胆にカットされた裾から垣間見える魅惑の太腿と弾力溢れるふくらはぎを凝視していた森崎が、
ピコに後頭部を叩かれた衝撃で我に返る。
舞台の上ではまるでその隙を縫うとでもいうように、女性がくるりと回転すると、
最後に前屈みになって口づけの真似、更には軽く舌を出してみせるポーズ。

ッググゴォォォォォォ―――

溢れそうな褐色の谷間と突き出された赤い唇、そして桃色の柔らかくも淫靡に蠢く舌の組み合わせを受けた
会場の雄叫びは、ほとんど咆哮と呼ぶのが相応しい。

「エッラ嬢、色々ありがとうございましたッ! ホントにありがとうございましたッッ!」

入って来たときとは逆にゆっくりと時間をかけて退場していく女性と目が合い、手を振られ、
投げキッスの直撃を受けた男たちがバタバタと倒れていく。
舞台の中央へと戻った司会の男はその惨状をあっさり無視すると大袈裟な身振りを更に加速させ、
踊り狂うようにしながら観客を煽り立てる。

505 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:53:09 ID:???
「さあ、さあ、さあ、そしてお次はお待たせしました真打ち登場!!
 皆様御存知、あのご令嬢の出番だッッ! 野郎ども、その名を称える準備はいいか!?」

ごおおおおお。
咆哮をいなし、煽り、自在に操る様はさながらサーカスの獣使いである。

「それじゃあ行くぜッ! 花嫁コンテスト史上、連覇を果たしているのはこの人だけ!
 盤石の体制で狙うか偉業の三連覇! 絶対王者!! その名は―――」

男が、その手を客席に向ける。
声が、揃った。


「―――スー・グラフトン!!!!」


会場が、圧倒的な一体感に包まれていた。
名を呼んだ男たちが、爆発的な咆哮を上げる。
その異様な雰囲気を前に、一人の女性が袖から現れた。
が。

「……ん?」
『あれ……?』

首を傾げる森崎。
その視線の先にいたのは、ごく普通の女性である。

506 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:54:10 ID:???
くるくるとした巻き毛に少し眼尻の垂れた、どちらかと言えば愛嬌のある顔立ち。
美人というには華が足りず、さりとて決して不細工でもない。
可愛らしくはあったがそれだけで、プリンセスラインを描く純白のドレスも
確かに花嫁衣裳としては相応しいものであるが、特段に高価そうなわけでも、
驚くような趣向を凝らしてあるわけでもないようだった。
手にしたブーケも、小さな花屋でも用意できそうな種類の大衆的な花を集めたもので、
その姿を何度も見直した森崎が、改めて唸る。

「……出番、間違えてねえか?」
『チャンピオン、のはず……だよね』

そんな森崎の目の前で、何の特徴もない女性は何の変哲もなく歩き、何気なく舞台の真ん中に立つと、

「今年こそ―――」

すう、と息を吸って。

「―――結ッッ婚!! してやるんだからああああああっっっ!!」

叫んだ。
瞬間、世界が変わる。

507 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:55:11 ID:???
「……ッ!?」
『な、何……? 何が起きてるの!?』

轟、と。
地を奔り、空を駆け、文字通りに轟いたそれは、原初の雄叫びであった。
平凡を絵に描いたような女は、そこにはいない。
そこに立つのは、女の生という死屍累々たるいくさ場に舞い降りた、女神である。
小さな花を寄せ集めただけのブーケはその女が持つとき、神話に謳われる宝剣もかくやと煌めいて
向い立つ者すべてをひれ伏させ、ありふれたデザインのウェディングドレスはその気迫に包まれる時、
星を散りばめたように光り輝く唯一無二の戦装束となるのであった。

「―――」

それは幻想。
それは錯覚。
一人の女の、妄執とも言うべき気迫が生み出した幻である。
しかしそれはまた、この会場のすべてが共有できるだけの実存の確かさを持った、幻であった。
幻想が光を生み、生まれた光が会場を覆い尽くしていく。

「こ、こりゃあ……!」
『何で……? 引き込まれる……!』

溢れる光が、森崎を包んでいく。
真白い光の中で、森崎は歓声をあげていた。
喉も嗄れよと叫ばれるそれは王者を称え、賛美する、咆哮だった。


スー・グラフトン! スー・グラフトン! スー・グラフトン!
俺達の花嫁―――


***

508 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:56:12 ID:???

「……」
『……あ、あれ……? ねえ、ちょっと、キミ!』
「……? ここ……どこだ……」

ピコの声で、気がついた。
慌てて見回せば、そこは元通りの会場である。
ぐったりと、力を使い果たしたように椅子に沈む男たちが目に入る。
森崎自身もひどい脱力感に襲われていたが、全身に鞭を入れるようにして身を起こした。

「……あの人、は……!?」

視線を向ける先には、しかし既に誰もいない。
がらんとした舞台は、まるで何事もなかったかのように変わらず存在している。
叩きに叩いた両手の赤さと痛み、質の悪い風邪でも引き込んだかのようにじんじんと痛む喉、
思う様に踏み鳴らしたせいで時折鈍痛を走らせる足、そういった肉体の感覚だけが、
先ほどまでの高揚感に浮かされたような光景が白昼夢でないことを森崎に教えていた。

「今の……何だったんだ?」
『わかんないけど……。チャンピオンって、すごいんだね……』
「そう……、だな……」

ぼそりと呟きあった森崎の目に、原色の黄色が映る。
舞台の端からよろよろと進み出る、司会の男であった。
どうやらこの男も王者の光に巻き込まれたらしい。
後退した生え際に浮かぶ脂が、午後の日差しにてらてらと輝いていた。

509 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:58:38 ID:???
「……も、もはや言うことなんざありゃしないッ! 絶対王者に死角なし!
 今年もそのみなぎる気迫には更なる磨きがかけられていました!
 皆様、スー・グラフトン嬢に今一度、盛大な拍手を!」

ぱち、ぱち、と。
会場のそこかしこから断続的な拍手が聞こえる。
男たちのほとんどすべてを吸い尽くした王者に贈られる、それは誇り高き凱旋の唄であった。

「……さあ、それではこのコンテストもいよいよ最後の出場者となりました!」

無理矢理に声を絞り出すようにして、司会の男が舞台の袖を指し示す。

「最後?」
『ってことは……』
「ようやく、出番か」

頷いた森崎の見つめる先、舞台袖の向こうに、少女が立っているはずだった。

「大トリを務めますのは……おおっと、この人はデータがないぞ!」
 驚異の新星あらわる! 飛び入り参加で登場は―――」

ざわり、と会場が揺らめく。
予想外の煽りに、王者に奪われた熱気を僅かに取り戻した者たちがいたようだった。

「驚異の新星……」
『よく言うよね……』

司会の男の調子の良さにげんなりとした顔をする森崎。
無論のこと、壇上の男はそんなことを知る由もない。

「ソフィア・ロベリンゲ嬢だぁーッ! それでは! 張り切って、どうぞ!!」
「……」

510 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:59:47 ID:???
呼び込みの声に応じるように、袖から一歩を踏み出したのは、ソフィアである。
淡い黄色のドレスの、Aラインの裾がふわりと揺れた。
かつ、かつ、と。
不安定なヒールの音が、あまりにも露骨に緊張を物語っている。

「……っ、……」

途中、何度かバランスを崩しそうになりながら、どうにか舞台の中央へと歩み出るソフィア。
ペコリと、一礼。
強張った顔が、会場を見た。

「……っ!」

見て、固まる。
固まって、俯いた。

「……」
『うわあ……ちょっと、大丈夫……じゃなさそうだね』

少女は俯いたまま、彫像のように動かない。
握り締められた小さなブーケだけが、その持ち主が生きた人間であることを示すように
ふるふると震えている。
栗色の髪をまとめ直した小さな銀の髪留めの、陽光を反射してきらりと光るのが、森崎の目に入った。

「―――」

ざわ、ざわと。
会場の空気が不穏な色を帯び始めようとした、その瞬間。
森崎が、思い切り息を吸って、叫んだ。


「―――頑張れ、ソフィア!」

511 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 01:00:48 ID:xNFCHdok
*チェック

全力で応援せよ! → ! numnum

※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
出た数値によって結果が分岐します。
また今回は、森崎の応援効果に知名度が加算されます。
加算式は以下の通りです。

(評価*2+魅力/10)

→「10*2+73/10」=27

応援値【1〜100】に知名度【27】を加算して出た数値が……


・127〜80:
「……はい!」
 森崎の応援に、ソフィアがしっかりと応える!

・79〜40:
「頑張れー!」「平常心ー!」
 森崎の応援に触発されて、温かい応援の声が飛ぶ。ソフィアも勇気づけられたようだ。

・39〜27:
「何だ、あいつ……」「空気読めよ……」
 森崎に白い目が向けられる。ソフィアもすっかり落ち込んでしまっているようだ……。


512 :源氏 ◆rLDAH8Hy8Y :2012/06/28(木) 01:01:20 ID:???
全力で応援せよ! →  98

513 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/28(木) 01:02:15 ID:???
EPやCPをつぎ込む気まんまんだったけど…お見事と言わざるをえない。

514 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 01:22:25 ID:???
>>512
重要なポイントでの素晴らしい引き、ありがとうございました!
通常のEP1に加え、CP3を進呈いたします!


***


わりと厳しい条件に設定したはずの5月イベントの成功が概ね確定!
といったところで、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

515 :源氏 ◆rLDAH8Hy8Y :2012/06/28(木) 01:38:34 ID:???
お疲れ様でした。

我ながら凄い引きだった。

516 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 22:22:07 ID:???
***


・127〜80:
「……はい!」
 森崎の応援に、ソフィアがしっかりと応える!


森崎の声は、一筋の矢であった。
寸分の狂いもなく飛んだ矢は、過たずにその目指す的を射抜いていた。
貫かれて真っ二つに割れたのは、ソフィアを縛る心の枷である。
す、と顔を上げた少女の表情に、もはや怯懦の色はない。

「……皆さん、はじめまして。ソフィア・ロベリンゲと申します」

千の群衆、二千の視線を前に口を開いたソフィアが、深々と一礼する。
向き直るその手に握られたブーケも震えを収め、その純白を静かに午後の日差しに晒している。

「今日は、急にこんな舞台に立てることになって、すごく……すごく緊張しています。
 ……でも」

一拍を置くソフィア。
ほんの僅か動かした視線の先に、森崎がいる。

「こんな私を、ここに立たせてくれた人がいました。それを、思い出せました」

絡み合うのは一瞬。
すぐに、その目は千の観客へと戻された。

「だから、私は私にできること、私のしたいと思うこと、しようと思います」

517 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 22:23:28 ID:???
そこまでを言い切ったソフィアが、ちらりと司会を見やる。
原色の黄色を纏った男が、はっとしたようにソフィアを見、観衆へと気をやり、
それから我に返ったように大袈裟な身振りを取り戻して喋り出した。

「……っとぉ! 俺っちとしたことが、思わず雰囲気に飲まれちまったぜっ!
 こんな殊勝な娘、最近そうはいやしねえ! 会場の野郎ども、温かく見守ってやってくんな!
 それではソフィア嬢、アピールタイム、どうぞっ!」

司会が大仰に手を振って促すのへ、ソフィアが頷く。
観客席に向き直り、再びの礼。
ざわめきの静まるのを待って、言う。

「これが、私にできること……聞いてください」

背を伸ばし、胸を張って。
息を、吸う。そして、


   ―――西風 快天と共に帰りて―――


流れ出したのは、透き通るソプラノだった。


   西風 快天と共に帰りて
   花や草 その家族と燕たち 小夜啼鳥の声と
   白く朱い春を告げる


それは他愛もない、誰もが知っている一昔前の流行歌である。
春の訪れの喜びをうたう歌。
巡り来る温もりと恵みとに感謝を捧げる歌であった。

518 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 22:24:32 ID:???


   澄み渡る空 緑なす牧場
   天帝 愛し子に微笑み


時折声を震わせ、また息遣いを乱しながら、しかし歌は続く。
懸命に、真っ直ぐに、ただ歌をうたう、そのことだけを見つめるような、声音。


   空気も水も 大地もまた愛に満ちる
   すべての獣たちは 再び愛に目覚める


最後の一節を歌い終えると、すう、と音が消える。
風の音も、街の喧騒も、千の観衆の身じろぎすら歌声に吸い込まれたかのような、一瞬の静寂。

「―――」

ぱち、ぱち、と。
その張り詰めたような静けさを崩したのは、拍手である。
最初の音は、森崎の手から放たれていた。
そのことに気付いた隣席の男が負けじと両手を打ち合わせ、それが前後に伝わり左右に伝播して、
すぐに会場全体を覆っていく。
万雷の拍手が、舞台の上の少女へと降り注いでいた。

「……ありがとう、ございました……っ」

519 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 22:25:37 ID:???
二千の手から響く、豪雨のような音の嵐に、ソフィアが戸惑ったように立ち尽くしながら、言う。
それだけを口にするのが、精一杯のようだった。
ともすればそのまま崩れ落ちそうな危うさで立つ少女に、司会の男が慌てたように喋り出した。

「す、す、素ン晴らしいぃぃ! まさに、まさに驚異の新星ッ!
 ソフィア・ロベリンゲ嬢でした!! 皆様、どうぞ改めて拍手をお願いいたしますッッ!」

絶叫を演じながら、袖に目線で合図を送る男。
飛び出してきた裏方たちが少女へと駆け寄ると同時、その淡い黄色のドレスがふらりと揺れる。

「……!?」
『ちょ、ソフィア……大丈夫なの?』

森崎と、そして観衆が息を呑む前で、しかし少女は倒れる寸前、自らの足で立ち直った。

「ありがとう、ございました……!」

割れんばかりの歓声を前に、最後にもう一度だけ深く礼をすると、ソフィアは支えようとする裏方を
手で制しながら、ゆっくりと舞台から去っていく。
その背には、いつまでも鳴り止まぬ拍手と歓声が贈られていた。


*** 

520 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 22:26:39 ID:???


「……純白のブーケ賞、か。『五月の花嫁』には届かなくて、残念だったな」
「い、いえ! とんでもないです!」

ぶんぶんと首を振る、少女の手には小さな硝子細工が輝いている。
繊細な花々の束とそれを包む紙を模した硝子に、木製の台座が据え付けられた置物。
サウスドルファン駅前を紅く染め上げる夕焼けに照らされたそれは、コンテストの入賞者に贈られる
ささやかな賞品であった。

「本当に私なんかがこんなに素敵なもの、いただいてしまっていいのかって思うくらいですから……」
「な〜に言ってんだ」

帰り道、少女が身につけているのは既に淡い黄色のドレスではない。
元の通り、若葉色のブラウスと薄桃のショール、紅色のスカートという姿に着替えている。
戸惑ったような表情を浮かべるソフィアに、森崎がおどけて言った。

「あのとき、あの歌は掛け値なしに俺に響いた。いや、俺だけじゃねえ。あの会場にいた全員に、
 そいつは伝わったんだ。観客席のど真ん中にいた俺が保証する」
「そんな……」
「だからソフィア、そりゃ君に与えられた正当な評価の印だ。素直に受け取っときな」
「……はい」

森崎の言葉に、夕日に照らされた頬を更に赤くしたソフィアが、手にした硝子細工を
抱き締めるようにしながら、足を止める。
どうした、と振り返る森崎を、ソフィアの真っ直ぐな視線が捉えていた。

521 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 22:27:40 ID:???

「今日は……すごく。すごく、楽しかったです。ううん、それだけじゃなくて……」

言葉を探すように。

「なんて言ったらいいんでしょう。その……私でも、ちゃんとできるんだ、って……。
 やりたいこと、やりたいって言うの、楽しい……って。変な言い方ですけど、その」

小さく頷いて。

「歩ける、って。私でも、前に歩いていけるんだって。そういう風に、思えたんです、今日。
 だから、私……今日のこと、忘れません。きっと、ずっと」

そう、言った。
夕陽の朱を従えて、それはとても清らかで、触れればたちまちに砕けてしまいそうに繊細な、一瞬。

「―――」

手を伸ばしたいという衝動と、その一瞬を崩してはならぬという情動と。
その二つが森崎を板挟みにして、あらゆる行動を封じる。

「……って、あ、あの!」

言葉を失った森崎の、その表情をどう受け取ったものか。
ソフィアが慌てたように手を振って、口を開く。
揺れる硝子細工が夕陽に煌めいた。

「す、すみません、今日はこの街をご案内させていただくって、お誘いしたんですよね。
 なのに私、自分のことばっかりで……! こんなんじゃ、その!」
「いいや」

わたわたと表情を変える少女に、森崎が苦笑しながら言葉を遮る。

522 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 22:28:44 ID:???
「いや、俺も楽しかった。そいつは間違いないぜ」
「そう、ですか……?」
「ああ、君のおかげだ」

頷いてみせる森崎。
なら良かった、と文字通りに胸を撫で下ろしたソフィアが、ふと表情を変えて口を開いた。
赤い頬と、どこか真剣な瞳。

「あの、モリサキさん。宜しければ、途中まで……」

言いかけた、そのときである。

「―――おい、そこのお前ぇ!」

ひび割れたダミ声が、少女の言葉を街の喧騒ごと断ち切るように響いていた。
反射的に振り返った森崎の目に映ったのは、声に違わぬ姿である。
だらしなく着崩されたシャツに無精髭、緩められたベルト。
無造作に乱れた髪の下から覗く澱んだ目は、夕暮れにも明らかなほど赤く充血している。
酒焼けした鼻を擦りながら森崎を睨みつけるその姿は、どこからどう見ても薄汚い酔いどれである。

「聞ぃ〜てんのかぁ!? お前だぁ、黒髪野郎ぉ」

呂律の回らない口調で何事かを呟きながら歩を踏み出す、そのたびに左の半身だけが沈む。
右の足を傷めているのか、左足だけに重心が偏っている証だった。
そんな酔いどれを前に、森崎は―――

523 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 22:29:46 ID:xNFCHdok

*選択

A 「何か用か、おっさん」 適当にあしらう。

B 「……」 無視する。

C 「おいおい、大丈夫か」 思わず手を貸そうとする。


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『6/29 23:00』です。


******


五月ももうすぐ終わり……といったところで
少し早めですが、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
お付き合いありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

524 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/28(木) 22:34:36 ID:???
【ピココール】
この酔っ払い、ただの酔っ払いだと思うか?
それとも、スリや暗殺者の類に見えるか?

525 :ピコ ◆ALIENo70zA :2012/06/29(金) 00:28:11 ID:???
>>524
お酒のニオイはプンプンするけど、犯罪のニオイはしないね……。
あれ? そういえばどっかで「足を傷めた人」の話を聞いたことがあるような……?

526 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/29(金) 10:32:41 ID:???
Cソフィアから父親が戦場で脚を傷めたってのは聴いてましたし、この酔っ払いが文句付けてる相手は森崎だけなんですよね。
だからこの酔っ払いはソフィアの父親の可能性が高いと思います。
それに戦場で負傷して身体が不自由になるってのも森崎にとっても他人事ではないですしね。

527 :◆W1prVEUMOs :2012/06/29(金) 18:14:51 ID:???

ソフィアの父親の可能性が高いから

ピココール超便利!
だけどピココール無しで「足を傷めた人」にピンと来るようにならなきゃな…orz

528 :◆W1prVEUMOs :2012/06/29(金) 21:11:03 ID:???
待てよ、父親の問題はナイーブなことらしいから、もしかして関わるのは危険か?
Bに変更します

529 :Q513 ◆RZdXGG2sGw :2012/06/29(金) 21:21:47 ID:???

理由はどうあれ、昼間っから飲んだくれているような相手に因縁をつけられているわけで
「組みしやすし」と思われるのは避けたい
というわけで丁重にではなく、少し強気に出てみる

530 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/29(金) 21:22:11 ID:???
EPはCPと比べて簡単にたまるし、積極的に仕掛けていったほうが良さ気だねー。
あくまで【ピコの視点】でしかないわけだけど、それでもヒントとしては超有用だ。
シリアスなスレで多くの悲劇は【プレイヤーの見落としやスレ主との意識・解釈の違い】で起きてたから、
それを未然に防げる確率が高いのは超嬉しい。

531 :Q513 ◆RZdXGG2sGw :2012/06/29(金) 21:24:37 ID:???
……あ、夕暮れでしたね。では「昼間っから」の部分はなしということで

532 :見てる人 ◆S/MUyCtQBg :2012/06/29(金) 21:32:14 ID:???
C ソフィアの前だし、大人の対応力を見せつけてやるぜ。
  ピココールにて、危険は無さそうだし。ソフィア父の可能性あるし。

533 :Q513 ◆RZdXGG2sGw :2012/06/29(金) 21:41:25 ID:???
みなさんと同じく、自分もたぶんソフィア父だと思ってるんですが、これでロベルトだったらどうしよう……

534 :◆9OlIjdgJmY :2012/06/29(金) 22:45:44 ID:???

ソフィア父ならどんな対応をしても角が立ちそうなので
一番ここまでの森崎らしい選択肢を。

535 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 16:25:16 ID:???

皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>523の選択ですが……

>>526 さら ◆KYCgbi9lqI様の回答を採用させていただきます!

ピコのヒントに加えて、男が文句をつけている相手は森崎だけ、という点にも
鋭く突っ込んでいただきました。
こういうところを拾っていただけるのは嬉しい限りです。
CP3を進呈いたします。

また、ここはピンポイントでピココールを使っていただいた傍観者  ◆YtAW.M29KM様にも
見事なアシストということでCP1を進呈いたします。
それとルール上ではあまり想定していなかったのですが、コール権のみを使用されて
選択への回答自体は確認できなかった場合でもEP付与は行われることとします。

この件については後ほどルールを改定しておきます。

536 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 16:26:19 ID:???
>>527-528
はい、すごく便利です。
困ったときにはどんどん彼女に頼って下さいね!

>>529,531,533
この場面、強気に出ること自体は悪くない選択でした。
これまでに「ナメられないこと」を重視する場面が多ければ選ばれやすかったのですが。
ところで今気づいたのですが、ソフィア父の名前は……き、気のせいですね、きっとw

>>530
そうですね、何らかの見落としを防ぐ目的では非常に有効です。
一度起こってしまった過去は変えられませんので、転ばぬ先の杖として活用いただければと思います。

>>532
スリや暗殺者といった『犯罪者』ではありませんが、何しろ相手は酔っぱらいですので
どう出てくるのか常識ではなかなか推し測りにくいところがありますね。

>>534
そうですね、実際向こうから絡んできているので、丸く収めるのは難しそうです。
ちなみに四月以降は選択肢に「(礼法が上がります)」などのガイドアナウンスが付いていませんが、
実際にはモラル・礼法とも都度細かく変動していますので、人物称号も変化する可能性があります。
ここまでの森崎らしい行動が選ばれ続けた場合は、その方向性をより強調するかたちになるでしょう。

537 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 16:27:21 ID:???
***


C 「おいおい、大丈夫か」思わず手を貸そうとする。



知らず手を差し出したのは、傷めた足を引きずるその男の姿を、どこかで
自らにもあり得る未来像として重ね合わせたからかもしれない。
だがそんな森崎の心情など、酔漢は知る由もなかった。

「……気安く触るんじゃぁ、ねぇ〜よ!」

差し伸べられた手を乱暴に払いのけた男は、どろりと濁った目で森崎を見ると
やにわに拳を握って殴りかかってきたのである。


538 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 16:28:31 ID:nsWO32no
*チェック

体術判定

目標値【18】 → ! numnum

※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
難易度【酔漢の攻撃+不意打ち】−体術を目標値とし、目標値以上の値が出れば成功。
00が出た場合は難易度にかかわらず成功となります。
結果によって展開が分岐します。


成功→腰の入っていないパンチが森崎にヒットする。
失敗→森崎はひょい、と身をかわす。

539 :ノータ ◆JvXQ17QPfo :2012/06/30(土) 16:32:40 ID:???
目標値【18】 →  09


540 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/30(土) 16:33:04 ID:???
目標値【18】 →  06
あー、選択をしなかったのは単純に「他の人と同じ事しかいえないから」でしたわ。

541 :ノータ ◆JvXQ17QPfo :2012/06/30(土) 16:36:36 ID:???
やべえ、CP3とEP5使いまーす

542 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/30(土) 16:38:19 ID:???
…ん? 失敗のほうが「かわす」なの? 成功失敗は酔っ払い視点?
ということは、このまま失敗の方がいいの?

543 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/06/30(土) 16:42:33 ID:???
引き直しの時は宣言してから勝手に引くのかな?

544 :源氏 ◆rLDAH8Hy8Y :2012/06/30(土) 18:02:39 ID:???
>>542
目標値の低さからして成功すると痛くも痒くもないパンチが森崎に当たるのでしょうね。

一方森崎がかわすと殴った方がそのまま前のめりになって頭から地面に突っ込むんじゃないかな
足が不自由な上に酔っているので余計な怪我をするかもしれない。

545 :◆W1prVEUMOs :2012/06/30(土) 18:28:42 ID:???
それは自分も思ったけど
こういう曖昧な時はGMに確認する前に引き直ししたら取り返しがつかなくなるね

546 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 19:54:23 ID:???
遅れまして申し訳ありません。
それではここで裁定&回答タイムです。

結論から申し上げますと、今回は>>539および>>541が適用され、
>>539にてノータ ◆JvXQ17QPfo様にEP1を進呈いたします。
その上で、CP/EP使用により数値に+10され結果は「成功」となります。
以下、ご質問にお答えいたします。

>>542
成功/失敗は常に主人公視点とお考えいただいて結構です。
今回の場合はズバリ>>544源氏 ◆rLDAH8Hy8Y様の仰るとおりで、
失敗の結果まで見事に言い当てていただいています!

>>543
numnumなどの数値でチェック・判定が入る場合はCP使用による
リドローの対象にはなりません。
あくまで数値の加減算のみが行えます。
なお、カード判定でリドローを行なっていただく場合は仰るとおり、
宣言と同時に引き直しをしていただいて結構です。

>>544
CPを進呈したくなるくらいにお見事な読みです!

>>545
はい、物語の内容ではなくシステム的な部分でご質問がある場合には
いつでもお気軽にどうぞ。
今回のように回答まで時間が空いてしまったり、その結果としてプレイヤー側に
不利となる可能性がある場合には、期限の延長や判定のやり直しも含めて
改めて検討させていただきます。

547 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/06/30(土) 19:57:33 ID:???
>成功/失敗は常に主人公視点とお考えいただいて結構です。
了解、ご回答ありがとうございます。スレによっては敵側視点で良し悪しが出ることもあったので、そこが不安でした。

548 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 20:08:16 ID:???
***


成功→腰の入っていないパンチが森崎にヒットする。


「何だぁ!?」

突然の攻撃に驚いた森崎が、咄嗟に身をかわそうとする。
へろへろと飛んでくる酔漢の拳を食らうような鍛え方はしていなかったが、
しかしそのとき森崎の目が捉えていたのは眼前の男の体勢である。
足腰の座らぬまま大振りのパンチを放った男は、完全に自らの腕に振り回されていた。
軸にしている左足がふらりとよろけ、しかし男の右足は明らかに異常をきたしている。
このまま身をかわしてしまえば、男は自分の体重を支えきれずに転倒するだろう。
泥酔し、片足もまともでないとなれば受身が取れるかどうかもわからない。

(―――チッ、仕方ねえな)

刹那の判断である。
ふらふらとブレながら迫り来る拳を、森崎は胸で受け止めるようにして男の転倒を防ぐのだった。
ごすん、と。
見た目よりは重い衝撃が森崎を襲ったが、しかし大したダメージにはならない。

「うおっと、っと、と……」

自らの危地を救われたとはつゆ知らず、男はふらふらと森崎から離れると壁にもたれかかる。
急に動いて目が回ったのか、こめかみを押さえたまま森崎を睨みつける男。

「……いくら何でもいきなり殴られる覚えはねえぞ、おっさん?」

549 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 20:09:27 ID:???
そんな男に森崎が詰め寄ろうとした、その矢先、

「やめて! 何してるの、お父さん!」
「……!?」

少女の声が、森崎の動きを止めた。
壊れた人形のように、ぎぎ、と軋む音を立てながら振り返る。

「オ、オトウサン……なにィ!? この酔っぱら……いや、えーと……」

あまりにも急なことに混乱している森崎が言葉を探す間に、ソフィアは酔いどれへと駆け寄っている。

「お父さん! またこんな時間からお酒なんて……!」
「うるせぇ……。もうカネの心配はいらんだろぉがぁ……」
「……」

無精髭をもごもごと揺らす男の言葉に、ソフィアが黙る。

「それより、お前ぇ! お前だぁ、東洋人! なぁに、人を見下してやがんだぁ〜?」
「アンタが勝手に尻餅ついてんだろうがよ……」
「あァ!? ぶつくさ聞こえねぇ〜んだよ! 黒髪野郎ぉ!」
「……へいへい」

酔いどれの理不尽な言い様に、反論したところで仕方ないと気付いた森崎が
肩をすくめて口を閉ざす。
そんな森崎に、男がアルコール臭に満ちた吐息をふんだんにまき散らしながらがなり立てる。

「お前ぇ、ウチの娘ぇ……ソフィアを連れ回してるそうじゃねぇかぁ?」
「どこで、そんな……」

呟くソフィアに、男が答える。

550 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 20:10:53 ID:???
「親切な人がぁ、教えてくれたんだぁ〜! おい、東洋人! これ以上ウチの娘にぃ、
 近づくんじゃあ、ねぇ……! 変な噂を立てられでもしたらぁ、この子がぁ、傷つくんだぞぉ……?」

酒臭い息と共に、奇妙に呂律の回らない口調でまくし立てる男。

『……日も暮れる前から飲み歩いてる父親がくっついてる方が、よっぽど変な噂が立つんじゃないかな』

いつの間にか頭の後ろに降りてきていたらしいピコがボソリと呟くのへ、内心でよくやったと
拍手を送りながら森崎は神妙な表情を崩さないよう努力する。
そんなやり取りを知らないソフィアが、男をたしなめるように表情を険しくする。

「お父さん……!」
「お前も、お前だぁ……ジョアン君という、立派なぁ、フィアンセがいるんだぞぉ……?
 それを、こんな東洋人風情とぉ……病気でも感染されたら、どう言い訳す―――」
「もうやめて!」

それは、ほとんど叫ぶような声だった。
森崎の聞いたことがない声を出し、見たことのない表情をしているソフィアが、そこにいた。
家族と呼べる者にしか見せ得ぬ、生の感情。
しん、と。
強制された沈黙が、その場に降りた。
最初に口を開いたのは、ひどく戸惑ったような顔をした酔漢である。

「……ソフィア、」
「すぐ、帰るから」

何かを言おうとした男の言葉を遮って、少女が首を振る。

551 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 20:12:00 ID:???
「お父さんも家に戻って。お母さんが心配するわ」
「……。おい、東洋人」

突き放すようなソフィアの態度に、悄然と肩を落とした男が歩き出して二歩。
ぎろりと、森崎を睨んだ。
すっかり酔いの醒めた、しかし黄ばみ、充血して濁った目。

「今後、娘に近づいたら―――骨の二、三本は覚悟しろ」

それだけを言い残して、去っていく。
ずるり、ずるりと歩みに取り残されるような右足が石畳に擦れる音の、すっかり消えた頃。
ソフィアが、森崎の方を向かないまま、俯いて口を開く。

「……ごめんなさい。父が、不愉快なことばかり言って」
「いや……」

その声音の重苦しさに、森崎は咄嗟に言葉が出ない。
それでも何か場を取り繕おうと切っ掛けを探す森崎の機先を制するように、
ソフィアが続けていた。

「父は……ロバート・ロベリンゲは、昔は、立派な騎士だったんです。
 今はあんな姿ですけど、私は……私は父を、尊敬しています」

それは、誰に向けた言葉だったのだろうか。
弁明にも謝罪にも届かず、さりとて告解とも寛恕を求める言葉ともつかぬ、宙ぶらりんの独白。
その意図を掴めずにいた森崎に、少女が俯いていた顔を上げると向き直り、改めて深く頭を下げた。

552 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 20:13:17 ID:???
「すみません。父が心配しますので、これで失礼します。
 ……今日は、楽しかったです」

礼を言うその表情には、笑顔はない。
頬の赤みも、舞台の高揚も、ない。
沈黙と首肯とをもってただ見送るより他になかった森崎の見つめる先、
歩み去る少女の背を追うように、宵闇が街を包もうとしていた。



   『少女と騎士』(了)




553 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 20:14:45 ID:???

*D26.6
フレーバーテキスト


◎運河の遺体

夏の気配が漂い始めたドルファンには珍しく、どんよりと曇った朝のこと。

『ほらキミ、寝癖がついてるよ!』
「うるさいな……後でやるっての」

ピコを追い払うようにぞんざいに手を振った森崎が、食卓の前で熱心に何かを読んでいる。
粗悪な紙にびっしりと活字の並ぶそれは、新聞と呼ばれるものであった。

『ちょっと、ご飯食べるのかそれ読むのかどっちかにしなよ、お行儀悪いよ!
 もう……これだけ田舎に来れば新聞なんてあるわけないと思ってたのに、
 変なところはスィーズランドを見習っちゃうんだから』

ため息混じりの小言は森崎の耳を素通りしていく。

「セリナ運河に身元不明の水死体……か」
『うええ……ドザエモンは嫌だねえ。ていうか、それわざとあたしに聞こえるように言ってない?』
「遺体は腐敗と白骨化が進んでおり、死後数ヶ月は経過しているものと思われる……とよ。
 よかったな、土左衛門なんて通り越してグロいやつみたいだぜ」
『もう、意地悪だなキミは!』
「蝿なんかもそりゃもうわんさか……」
『わーっ! わーっ!』

554 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 20:15:58 ID:???
それ以上の言葉が聞こえないように大声を出したピコが、小さな拳を固めてぱかぱかと森崎の頭を叩く。

「痛っ! わ、わかった、俺が悪かった!」
『もう! 次にやったら絶交だからね!』

言ったきり、ぷいと顔を背けると姿を消してしまうピコ。
残された森崎は小さく肩をすくめると、テーブルに置かれたカップから温いエールを啜るのだった。


***


数日後。
この季節には珍しい雨がドルファンの石畳をほんの少しだけ湿らせた翌日、
いつものように新聞に目を通していた森崎が思わず声を上げた。

「身元不明の遺体は行方不明の神父……だと?」
『何、なに?』

ふわふわと飛んできたピコが森崎の頭の上にちょこんと腰掛けて、新聞の紙面を覗き込む。

『十八日にセリナ運河で発見された身元不明の遺体は……』
「以前より行方が解らなくなっていたアイン・カラベラル神父である事が、関係者の証言により
 明らかになった。カラベラル神父は四月三日、自宅を出た後に行方不明になっていた……か」
『こないだのドザエモンか……』
「……」

頭上の声にじとりと湿り気を感じた森崎が、反射的に新聞を放り出して頭を守ろうとする。

555 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 20:16:59 ID:???
『あはは、もう怒ってないよ』
「……そりゃ助かるぜ」
『でもさ、これって事件? それとも事故?』

ほっと胸をなで下ろした森崎に、ピコが尋ねてくる。

「さあな……記事もそこまで書いてねえ。区警……地区警備隊がどう考えてるのかは何ともな」
『神父様じゃ、酔っ払って足を踏み外す……なんてこともないだろうしねえ』
「明和の大虎みてえな神父も、中にはいるかもしれんがな」
『葡萄酒は神の血じゃ〜、もっと持ってこんか〜い! って?』

遥か遠い故郷の有名人を真似てみせるピコの仕草に、森崎が口の端を上げる。

「……しかし、そうなると今の神父は俺らと同じような時期にこの街に来たってことになるのか」
『あの針金みたいな神父様だね』
「……」

その場にいるだけで周囲の温度を下げるような、独特の存在感を思い返した森崎が
ぶるりと大きく身を震わせた。

「あいつ、ここに来る前はどこにいたんだろうな」
『神父様のことをアイツとか言わない! いくらキミの信じる神様と違っててもね。
 ……でも、そうだね。なんか怖かったし、きっと寒いところだよ。北の方』
「何でだよ」
『北の人はだいたい、おっきくて怖いんだよ』
「お前、そりゃ偏見ってもんじゃねえのか……。だいたいあの神父、どう見てもトルキア人だろ」
『じゃあ北の方のトルキア人だよ!』
「無茶苦茶言うな……」

力説するピコを白い目で見る森崎。
その朝の話題は、そんな風にして日常に紛れていくのだった。

556 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/30(土) 20:18:55 ID:???

*D26.6 「気のいいリーダー」森崎有三
訓練選択


「貴様らも知っての通り、ヴァルファは我がドルファンおよび元雇用主のプロキア、
 その両面に対し宣戦を布告してきた! 全欧最強の余裕というやつか? 違う!
 我々がナメられきっているということだ!」

響き渡るヤングの大音声は、いつにも増して大きい。
漲る気合いの表れであった。

「王室会議の腑抜けどもは今月末まで撤収期限を設けるなどと呑気なことを抜かしてやがるが、
 それでカタがつくならあの赤備え共はハナっからこんな面倒を起こさん!
 我が国は近いうちに必ず……早ければ来月早々にもダナンへと派兵することになるだろう!」

告げられる命の期限に、居並ぶ傭兵たちにざわりと動揺が走る。
それを押さえるように、ヤングが力強く言葉を継いだ。

「貴様らの役目は何だ!? 骨抜きの騎士団に代わって全欧最強をぶちのめすことだ!
 血のションベンが枯れ果てるまでしごいてやるからそのつもりでいろ!」


513KB
続きを読む

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
名前: E-mail(省略可)

0ch BBS 2007-01-24