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【バグサッカー】きれぼしサッカー【やりまーす】


[159]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 14:49:47 ID:???
――――――
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さらに時は流れる。
インドネシア、ジャカルタのとある国際ホテル屋上。
ホテルは高く、ジャカルタ800万の喧騒も屋上では虫のさえずり程にしか響かない。
空は雲に包まれるも風涼しく、こうした天地の加護を受けてか、男女2人が誰に邪魔されることなく語り合えていた。
男の方は緊張しながらも躊躇うことなく自らの心境を明かしている。
女も同様に心の奥底を開こうとしているが、男に比べて憂いの色が強くにじんでいた。

[160]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 14:52:55 ID:???
陽子「だからこうやって兄さんの所に転がり込んだの。
   生まれつき約束された物を夫付で受け取らされるんじゃなくて一般人のフリをしながら自分の力でゼロからスタートする…
   それは充実していてワクワクする生活なんだけど、いずれはきっと終わるわ…」

陽子「(きっと終わってしまう……どんなに私があがいても、どうしようもない……)」

陽子の脳裏には、かつての拉致未遂以降の記憶が去来していた。
あの事件が失敗に終わった後で、不審者は影さえ見えなくなったが、 省24

[161]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 14:57:37 ID:???
今もなお、兄や賀茂は勿論、日本サッカー協会も陽子の活動を続けさせてはいる。
1人の少女の夢の支援というよりは、外部からの不当な圧力に対する
断固たる拒否の姿勢を示すという面が強かったが、ともかく現在も陽子は何とか活動を行い得ている。

だが度々の干渉が、1人の小娘が原因で引き起こされている事が知れ渡るにつれて、
周囲の視線と空気が寒々しくなっていく事はどうにもならなかった。
省30

[162]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:01:01 ID:???
陽子「森崎くんだって…いくら諦めないと固く思っていても、一度奪われたゴールを無かった事には出来ないでしょ?
   一度負けた試合はもう勝てないでしょ?ワールドユース本大会の抽選だって勝手に決められるだけじゃない。
   森崎くんにいくら精神力があっても、どうしようも無い事だってあるじゃない」

陽子の瞳は僅かに潤んでおり、頬もアルコールのせいか朱に染まりだしている。
越えようとしても越えられぬ思念の泥沼へと入り込んで、思考は堂々巡りを繰り返していく。
省38

[163]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:05:49 ID:???


――――――俺、パルメイラスと契約延長したら指輪を買うんだ…――――――

ドキン。

森崎の返事を聞いて、急に胸が高鳴る。
陽子「(……えっ?)」

思いもよらぬ突然の告白に、一瞬思考が停止する。これまでの陽子の人生の中で初めての感情の直撃を受け、
頭の中は麻痺したような、蕩けたような、陶然とした状態になっていた。

陽子「(え……ゆ、指輪?森崎くん、私のこと、好きなの!?……あっ、いやっ…ど、どうしよう……)」
省39

[164]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:08:10 ID:???
陽子「だけど…それはサッカー選手として理想でも、男性としては理想とは言えないわ。
   そういう生き方が出来るのはごく僅かな一握りの人だけよ。
   森崎くんは常にそう言う世界で生きてきたから、そう言う覚悟を決めた人ばかり周りにいたんでしょうけど…
   私も含めて、大抵の人はそこまで強くないわ。何時か頑張る事に疲れちゃうのよ」


できない。私はもう頑張る事もできない。
森崎くんは違う。強い意志を抱いて1人でどこまでも行ける。 省26

[165]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:12:00 ID:???
陽子は震えはじめた。体ではない。身体に沈んでいるなにかが、震えている。
震えは段々とひどくなる。それにつれて余裕がなくなり、
とうとう森崎から顔を背けてポツリポツリと呟くだけになってしまった。

陽子「どうして…どうしてそこまで言ってくれるの?そこまで私が好きだって言うの…?」
森崎「ああ。そうじゃなきゃこんな事言わねえよ」

陽子「分からない…今までサッカー一筋だった森崎くんが、私をそこまで好きになる理由なんて、思い当たらないわ」
省49

[166]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:16:34 ID:???
陽子の反応は…失笑だった。相変わらず顔は背けていたが。
泣きそうになったかと思えば突如笑い出したりする乙女心の気紛れさに
森崎は怒りも忘れて呆気に取られてしまう。

陽子「あ〜あ、昨日は散々森崎くんを意気地無しだって思っていたのに。これじゃ意気地無しは私じゃない」
森崎「だから、昨日は…その。昨日のままにしておきたくなかったから来たって言っただろうが!」
陽子「うん…だから、今日は私に逃げさせて」
森崎「へ?………あ」

ガタン。
省12

[167]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:18:40 ID:???
陽子「でも…有難う。嬉しかった。明日の試合も勝ってね」

その言葉を最後に、陽子は立ち去る。エレベーターのボタンを押して中に入った。
森崎の姿が見えなくなった途端、堰を切ったように両眼から涙が溢れ出た。

陽子「(いいんだ!私も頑張っていけるんだ、森崎くんと一緒に!)」

ゆっくりと瞼を閉じながら、穏やかに微笑みだす陽子。
他人が見れば、まるで泣く事を楽しんでいるかのようにさえ見える表情である。
実際、ある意味ではそうと言えるかもしれない。 省19

[168]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:58:24 ID:???


これまでの記憶が頭を飛来するなか、陽子の心がかつてのようによどんでくる。
兄さんは私に夢へ向かうきっかけを与えてくれた。
賀茂さんは私を父から取り戻してくれた。
サッカー協会の人達からも数数え切れない程に教えてもらった。
そして、森崎くんからは再び困難に立ち向かおうとする意志と、もう1つの夢をもらった。
………私はみんなに何ができたんだ?

陽子が少しずつ潰れていく。果ての無い自壊的な慙愧が激しく駆けめぐる。
省11


0ch BBS 2007-01-24