キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
キャプテン森崎まとめ掲示板TOP
■掲示板に戻る■
全部
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
最新50
異邦人モリサキ
1 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/01(金) 00:31:21 ID:Hgnh9qno
本作は恋愛SLG『みつめてナイト』を基にした二次創作です。
騎士の時代が終わりつつある南欧は架空の小国、ドルファン王国。
戦火の迫るこの国に傭兵として降り立った東洋人、森崎有三の体験する
波乱万丈の三年間を描きます。
独自要素が強いため、外伝スレを経ずにスレを立てさせていただきました。
ご容赦下さいませ。
432 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/21(木) 00:32:33 ID:???
「なぁおっさん、本気でやってもいいんだよな? 怪我しても恨みっこなしだぜ」
「大口だけは一人前だが、そこに」
と、いまだ地に伏したままの巨体を顎で指したヤングが答える。
「そこに倒れてるのも確か、似たようなことを言っていた気がするぞ」
「ヘッ、一緒にするんじゃねえよ」
盾を前に構えた森崎が、言いながら無造作に間合いを詰める。
圧力をかけて近づき、足を掛けるか蹴りを見舞うか、それともそのまま盾で一撃を狙うかという動きである。
「俺らの国にはな、柔の技ってもんが―――」
口にしかけた森崎が、ぐるりと回転した。
構えた盾を支点とした、綺麗な一回転である。
「―――なにィ!?」
舌を噛まなかったのは僥倖というべきか、あるいは森崎も最低限度の矜持を見せたものか。
そのまま、背中から地面に落ちる。
「ぐっ……!」
どこをどうされたものか、森崎にもはっきりとはわからない。
盾でできた死角に伸びたヤングの手がその縁を掴んで固定し、更には一瞬の内に体を入れ替えて密着された、
かろうじてそれが認識できただけである。
気がついたときには、何事もなかったかのように立つヤングの姿を逆さまに見上げていた。
433 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/21(木) 00:33:33 ID:???
「……ほう、受身くらいは取れるようだな。なら遠慮はいらんだろう、立て」
「な……」
「ここからは手加減なしだ。存分に胸を貸してやる!」
牙を剥くように笑ったヤングの視線は、森崎を見据えて放さない。
「また始まったぜ……」
「ああ、モリサキのやつもエラいのに目をつけられたもんだ……」
「どんだけ東洋人嫌いなんだよ、あの鬼教官……」
外野のざわめきも収まらぬ。
そんな中、立ち上がった森崎が砂の混じった唾を吐き捨てると、再び盾を前に構えてヤングへと向き直る。
「いい度胸だ……来い! モリサキ!」
「そう何度も投げられてたまるかー!」
***
この日、文字通り足腰立たなくなるまで続けられた訓練の中で森崎が何度宙を舞ったのか、
数えていたものは誰もいない。
それでも日の傾いた荒野の真ん中、精根尽き果てて大の字に倒れた森崎に向けて
ヤングは言ったものである。
「貴様にも『見習い拳士』程度の素養はあるようだな! 明日からはまた違うメニューでしごいてやる!
よく休んでおけ!」
434 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/21(木) 00:34:34 ID:???
******
※称号が『気のいい見習い拳士』になりました。
スキル『受身』を獲得しました。
種別:パッシブ
消費ガッツ:-
効果:個人戦闘時、DEF値を+10する。
******
435 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/21(木) 00:35:35 ID:???
//魅力訓練
「……確かに、良くなってるな」
褐色の優男、ネイが不意にそんなことを呟いたのは、やはり素振りの最中である。
言われた森崎が手を止め、怪訝そうに訊ねる。
「何だよ、藪から棒に」
「いや、前に言ってただろ、お前」
「だから、何を」
「女のコたちにきゃ〜きゃ〜言われたいってよ」
「あー……だっけか」
そんなことを言った気もする、程度の記憶で答える森崎に、ネイが苦笑する。
「何だ、覚えてないのかよ。ま、でも、どっかで意識してたんじゃないか。
ちゃんと良くなってるぜ」
「つーか、さっきから何が良くなってる、ってんだ」
「いや、だから……」
一拍置いたネイが、それこそ女性に見られれば黄色い歓声を上げられそうな笑みを浮かべて続けた。
「―――カッコ良くなってる、って言ってんだぜ」
「……ぶっ!?」
思わず吹き出し、げほげほと咽たのは言われた森崎だけではない。
すぐ後ろで黙々と剣を振っていたトニーニョもまた、全力で咽返っていた。
そしてまた色めき立ったのは、無論のことジェトーリオである。
436 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/21(木) 00:36:53 ID:???
「ネイくんちょっとどいて。そいつ殺せない」
「どっから涌いて出たんだお前! 黙って自分の腹でも掻っ捌いてろ!」
背中に忍ばせた鞭状の得物へと手を伸ばす黒人に、ネイが思い切り蹴りを入れて黙らせる。
そんな姿を見ながら、しかし森崎も一歩を退く。
「い、いや、ネイ、お前……俺にそっちのケは……」
「そ、そうだぞネイ、個人の嗜好に立ち入る気はなかったが、そういうことなら先に言ってもらわんと……」
「ハァ!? ……って何言ってんだ、バカ! バカなのかお前ら!」
引き攣った顔で手を振る森崎、そして同様に青ざめた顔で後退るトニーニョの姿に、
ようやく何を勘違いされているのか気付いたネイが慌てたように言う。
「そうじゃねえよ! 俺だって野郎になんか一インチの興味もねえやい!」
「え……」
「そうなのか……」
「安心したような顔をするんじゃねえよ! 俺が好きなのは昔っから死ぬまで女のコたちだけ!
知ってるだろ、そんくらい!」
「いや……それもカモフラージュなのかと……」
「だああっ! んなわけあるか!」
しばらくして誤解が完全に解けるまで、むくつけき傭兵たちの大部分はネイの周りから離れ、
ごく一部の数名は逆に妙に近い位置で素振りを続けていたという。
***
437 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/21(木) 00:38:27 ID:???
「……ふう、エラい目に遭った。何でちょっとモリサキのことを褒めただけでこんなことに……」
「災難だったな」
「お前が言うな!」
訳知り顔でぽんぽんと肩を叩く森崎に、ネイが噛み付く。
「まあまあ……ところで、モテモテ免許皆伝のネイ師匠のお墨付きってことは、
俺もイケメン軍団の仲間入りってことか? ま、わかってたことだけどな」
「調子に乗んな」
ふぁさ、と黒髪をかき上げる森崎を、ネイが呆れたように見やる。
「前より清潔感は出てきたよ。だがまあ、せいぜいまだ『フツメン』ってとこだ」
「……何だよ、普通って」
「ま、スタートラインには立ててるってことさ。けど、このレースは長くて厳しいぜ。
気を抜くとすぐ脱落するからな、精進しろよ」
******
※称号が『気のいいフツメン』になりました。
スキル『清潔感』を獲得しました。
種別:パッシブ
消費ガッツ:-
効果:魅力判定時、目標値を10下げる。同様のスキルとは効果が重複しない。
******
438 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/21(木) 00:40:43 ID:???
//複合スキル獲得
「最近、貫禄がついてきたな」
「あ? ……お前に言われると真実味があるな、貫禄番長のトニーニョさんよ」
長身に坊主頭の強面、更には全身が鍛え上げた筋肉で覆われた姿を見やって森崎が返すのへ、
トニーニョがその仏頂面を険しくする。
「茶化すな。……お前には、人を惹きつける何かを感じるという話さ。
俺だけじゃない……他の連中やヤング教官も、近頃のお前には一目置いているだろう」
「おいおい、持ち上げても何も出ねえぞ。大体、俺がここに来てからまだ一ヶ月ちょいだぜ?
近頃も何も……」
言った森崎に、トニーニョが表情を変える。
それは彼にしては珍しい、苦笑とも言える笑みであった。
「その短い期間で、いつの間にか人の輪の中にいる……お前には『リーダー』の才があるのかもしれないな」
「……よせやい、照れるぜ」
「それは」
手を振った森崎の仕草を止めるような、声音。
思わず見返した森崎の目に、トニーニョの苦い笑みは変わらず映っている。
「……それは、俺にはないものだ」
しかし紡がれる言葉は、どこか寂しげに響くのだった。
439 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/21(木) 00:41:44 ID:???
******
※称号が『気のいいリーダー』になりました。
スキル『鉄壁』を獲得しました。
種別:部隊アクティブ
消費練度:10
効果:使用ターン、任意の1部隊の防御ダメージを50%にする。
******
440 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/21(木) 00:42:49 ID:???
*D26.5 「気のいいリーダー」森崎有三
メインイベント
『少女と騎士』
新緑の薫りも強くなってきた、ある朝のことである。
欠伸混じりの森崎が、まずは水でも汲みに行こうかと部屋を出ようとした、その足元で
カサリと鳴るものがあった。
「……手紙?」
『何なに、どーしたの?』
扉の下に挟まれた、それは白い封筒であった。
拾い上げた森崎が朝の光に透かすように、表裏を改める。
宛名はない。
「直接届けに来たってわけか」
『でも、この名前って……』
白い封筒に宛名は書かれていない。
しかし、裏には小さな字で差出人の署名があった。
―――ソフィア・ロベリンゲ。
「……」
『とりあえず、開けてみようよ』
「……そうだな」
441 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/21(木) 00:44:02 ID:???
ピコに促された森崎が、部屋の中に戻ると文机へと向かう。
特に封緘はされていない封筒を開けると、中にはやはり白い便箋が一枚。
―――この間は申し訳ありませんでした。
ユーゾー・モリサキ様、と書かれた手紙は、そんな謝罪から始まっていた。
「……この間、か」
『あのジョアンとかいうキザ男のことだよね』
あの、薄闇の道を思い浮かべる。
自分とは無関係だと必死に言い募った彼女。
振り向かなかった、その背中。
その真意が、直接に書かれていたわけではなかった。
しかし、礼と謝罪とが幾重にも織りなされる文章から、それは匂い立つようであった。
『……ホント、嘘のつけなそうな子だね』
「バカ正直というか、なんというか……」
そんな手紙の締めくくりは、意外な言葉で結ばれていた。
「……つきましては次のお休みの日、五月祭が開かれます。
この街を知っていただくには良い機会かと存じます。
宜しければ、是非ご案内させていただきたく……か」
読み上げた森崎の頭に、ピコがひらりと舞い降りる。
『お礼……ていうか、デートのお誘いじゃない、これ?』
「まあ、そう読めるな」
『ふふ〜ん、この色男! ……で、どうするの?』
ちょいちょい、と頭をつつくピコをぞんざいに振り払いながら、森崎が口を開く。
442 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/21(木) 00:46:13 ID:0J7QSWn+
「どうするもこうするも……」
*選択
A 誘いを受ける。
B 言い訳を探してみる。
森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【森崎の心情から、選択理由】を必ず付記していただくようお願い致します。
期限は『6/21 23:00』です。
***
最速での「鉄壁」獲得はちょっと予想外でした、といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。
443 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/06/21(木) 11:51:28 ID:???
A 季節毎のイベントって大切にしたいですね。
森崎ならば恋愛感情が有るかどうかは別にして少女の好意は無下にはしないと思います。
444 :
ノータ
◆JvXQ17QPfo
:2012/06/21(木) 15:53:01 ID:???
A
理由:何らかの策略が蠢いている可能性も否定できないが、この少女の誘いを断る理由は特にない
むしろ前の訓練で仲間から良い評価を受けた森崎なら自信を持ってこの誘いを受けると思います
障りのない服装、清潔感ある感じになった森崎は、どう思われるか気になるはず
445 :
◆W1prVEUMOs
:2012/06/21(木) 21:41:23 ID:???
A
ソフィアがキザ男の目を盗むという危ない橋を渡ってるのに、それを無下にしたら男がすたる
446 :
◆9OlIjdgJmY
:2012/06/21(木) 22:59:12 ID:???
A
ソフィアが心配なのは勿論、ジョアン本人も重要人物ぽいので情報が欲しい。
あいつがボンクラだと森崎の戦死確率が上がりそう。
447 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/06/22(金) 00:21:04 ID:???
この国の軍のありようを聞く限り契約期間中にこの国滅びてもおかしくない感じだね。
448 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/06/22(金) 00:33:13 ID:???
少なくとも、このまま進めば滅びかねない国のあり方ですね
449 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/22(金) 00:42:11 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、
>>442
の選択については……
>>444
ノータ ◆JvXQ17QPfo様の回答を採用させていただきます!
魅力訓練の結果から自信をつけているという視点は非常に新鮮でした。
なるほど、流れとしても自然ですね。
CP3を進呈いたします。
>>443
確かに今の森崎がそういった行動を取るのは考えにくいですね。
一年目の季節イベントはメインイベントに関わることが多くなっていますので、
来月以降に出てくる新キャラクター共々お楽しみ下さいませ。
>>445
はい、ソフィアはソフィアで色々と多方面に気を遣う立場にあります。
男としてフォローしてあげたいところですね。
>>446
自由騎士は軍属ではないので指揮権こそありません(もっと言えば参戦義務すらありません)が、
人手不足のドルファン軍においては彼らが戦局に影響を与えるのは確かですね。
ちなみにジョアン本人についてはまだ秘密ですが、自由騎士の大半はボンクラです…。
ご回答いただいた皆様にEP1を進呈いたします。
450 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/22(金) 00:50:48 ID:???
>>447
はい、実はドルファンの軍事力はガタガタです。
政治と外交の側でどうにか綱渡りを続けているのが現状ですね。
まあ、だからこそ傭兵が活躍する余地もあるのですが…。
>>448
現状で開示されている情報はまだまだ氷山の一角ですが、
確かに未来を楽観視できる状況ではありませんね。
一番の問題は、当事者たちの多くがその危機感を持てていないことです。
451 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/22(金) 00:54:08 ID:???
******
それから幾つかの日が流れ、瞬く間に五月祭の当日となった。
まだ小鳥の囀りが響く朝のこと、森崎が覗き込むのはこの日のために新調した手鏡である。
映り込んだ顔に髭の剃り残しがないことを確認した森崎が、濡らした髪の流れを手櫛で整える。
身につけた服も清潔感のある白いシャツに、細身のパンツ。
色はこの春流行の枯葉色である。
『ま、流行ってるってノエルさんに勧められたのを、そのまま買っただけだけどね』
「うるさいな。流行なんて研究する時間はなかったんだよ」
『でも今回は最初から普通っぽい服、売ってくれたね』
「いや、あれは絶対隠し玉を用意してる目だったぞ……油断できねえ」
『目ぇ〜? へえ、胸しか見てないのかと思ったよ』
「それは男として当ぜ……ゴホン、何のことだか分かんねえな」
咳払いとともに言った森崎が、もう一度鏡を覗くと、一つ頷く。
「さて、とりあえず……」
『身だしなみは整えたね。最低限』
「一言余計だっつーの」
『何だかんだ言って、結構ノリノリじゃない……』
呆れたように言って中空をくるりと回ったピコに、森崎が指を振ってみせる。
「チッチッチ、一度やると決めたら完璧を期すのが俺の流儀だぜ」
『こないだネイに褒められたからって、すっかり自信つけちゃって……』
半目になったピコには構わず、森崎が手早く革のベルトに愛用の長剣を提げて言う。
452 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/22(金) 00:55:09 ID:???
「出るぞ」
『え、もう? まだ約束の時間にはかなり早いけど……』
「バーカ、まずは相手の下調べだ。本当なら昨日までにやっておきたかったんだけどな」
余暇、という言葉を差し挟む余地のない地獄の訓練を思い浮かべて渋面を作る森崎。
小さく首を振って嫌な記憶をかき消すと、部屋の扉を開ける。
「敵を知り、己を知れば……ってのは兵法の鉄則だろ」
『そういうとこ、いやらしいよね』
「……」
じろりと睨んで歩き出した森崎を追いかけて、ピコがぱたぱたと羽ばたく。
『待ってってば! もう、それで具体的にはどうするの?』
「誰もが足を運んで、情報が集まる場所がある」
『酒場?』
「相手は女学生だっつの」
***
白い壁には彫刻による精緻な装飾。
ステンドグラスには聖母の姿が刻まれ、朝陽に美しく煌めいている。
重厚な扉の上に掲げられた黄金の十字架を見上げたピコが、ポツリと呟く。
『……教会?』
「そうだ」
『デートの成功でもお祈りするの?』
「んな女々しい真似するか!」
『わ、こわ〜い』
453 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/22(金) 00:59:00 ID:???
怒鳴られたピコが、悪びれた様子もなく青い空へと舞い上がる。
それを見上げた森崎が、ため息をついて続けた。
「そもそも森崎家が奉じるのは代々、熱田の神宮と決まってるんだよ。
まあこっちで必要になることもあるから、礼拝の仕方くらいは知ってるけどな」
『冗談だよ。いつも通り、教区の信徒名簿を覗くんでしょ?』
再びふわりと降りてきたピコが言うのへ、森崎が渋面を作る。
「ひどい言われようだな」
『確かに生まれた年月から住所、家族構成なんかもわかるけどさ……わりと姑息だよね、キミ』
「知能派と言え、知能派と。いくら俺が清潔感に溢れた……」
『フツメンだからって』
さらりと言ったピコに、森崎の言葉が一瞬途切れる。
目を閉じ、息を整えて言い直した。
「いくら俺が清潔感に溢れたイケメン予備軍だからって、何の準備もなしに
敵地に飛び込むのは主義に反するのさ」
『あ、そ……で、その予備軍さんはどうやってそれを見せてもらうつもり?』
「それはだな……」
454 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/22(金) 01:00:09 ID:bLORINas
*選択
A 正面から頼み込む。
B 策を弄する。
C きっといるに違いない美人のシスターと仲良くなってしまおう。(必要CP:1)
森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願い致します。
またBを選択する場合はこれまでの描写・スキル・称号・パラメータなどから【手段】を提示して下さい。
期限は『6/22 23:00』です。
455 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/22(金) 01:02:15 ID:???
楽しいデート、その前に……といったところで、
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。
456 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/06/22(金) 01:05:00 ID:???
C 冬馬由美好きなんだよね、という本音はともかく。
わざわざCP使う選択肢なんだし、有利になってくれるでしょう、と。
457 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/06/22(金) 10:42:25 ID:???
A傭兵という職業柄、ドルファン出身の商人や船乗り又は傭兵の名前ぐらい覚えてても、おかしくないと思います。
教会の神父さんなら世話になったので、その人の遺族に会いたいとか住所が知りたいって云えば見せて貰えるんじゃないかな。
458 :
ノータ
◆JvXQ17QPfo
:2012/06/22(金) 22:55:41 ID:???
C
理由:例外的にCPを使った選択肢には裏ワザの可能性があるため
恐らくこの選択肢がそうではないかと判断しました
459 :
◆9OlIjdgJmY
:2012/06/22(金) 22:59:57 ID:???
C
デートの予行演習もかねて
460 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/23(土) 00:56:48 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、
>>455
の選択については……
>>457
さら ◆KYCgbi9lqI様の回答を採用させていただきます!
どちらかと言えばB寄りの回答という気もしますが、手段の提示はお見事でした。
CP3を進呈いたします。
その他の皆様全員で特殊選択肢であるCを選ばれるというまさかの展開には驚きましたw
が、残念。これは普通にネタ選択肢です……。
こういう場合は基本的にハイリスク、(場合によっては)ハイリターンというパターンが多くなっています。
ちなみに今回もし選ばれていたら、基本的にガッツ消費、低確率(5%程度)で称号&スキル獲得でした。
特殊選択肢にて初の回答をいただいた皆様には、システム例示で物語の進行を補助していただいたことに対して
それぞれCP1を進呈いたします。
>>456
おお、いいご趣味ですね。
冬馬さんの演じるもう一人は攻略難易度が高すぎる(おそらく初回プレイでは早期にバッドエンドが確定する)ため
今回は顔見せがあるかどうかという程度の予定ではありますが、ご要望次第では出番増量も……?
>>458
今回はこのような結果となりましたが、賭けに出ることで大きな成果を得られることも確かにありますので、
ここぞという場面でまた挑戦してみて下さいね。
>>459
本番がこの直後なので、さすがにもうちょっと間を空けたいところですねw
461 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/23(土) 00:58:37 ID:???
***
A 正面から頼み込む。
その空間は静謐に満ちている。
「お邪魔しま〜す……」
分厚い樫の大扉は、森崎が引くと音も立てずに開いた。
柔和な白に統一された内壁は森崎の視線よりも少し上からアーチを描き、頂点で繋がって
ドーム状の天井を形作っている。
飾り窓から射す朝の光が古びた長椅子を飴色に照らし出す、その中を貫くのは深い紅の絨毯だった。
真っ直ぐに祭壇へと続くそれは、さながら告解の道である。
「……誰か、いませんか〜」
『ねえキミ、どうしてそんなに小声なの』
「大声出せる空気じゃねえだろ、何か」
おそるおそる、といった風情で絨毯を踏みしめる森崎の、その囁き声すら音の波となって
壁に反響するように感じられた。
陽光の透き通るような白と内壁の乳白に押し固められた静謐を揺るがす、それは罪悪である。
自然、押し黙った森崎が無人の教会の中央に立ち尽くす。
外に囀る小鳥の声も、この白の中には届かない。
まるで時の止まったようなその空間に、
「――――何か御用ですか」
唐突に、声が響いた。
低く、静かな、しかし異様に近い、声。
462 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/23(土) 01:00:17 ID:???
「……ッ!?」
『ひゃああっ!?』
ほとんど耳のすぐ後ろで発せられたような声に、反射的に振り返る森崎。
そこに、影はない。
しかし、数歩。
ほんの数歩を離れた場所に、白が、揺れていた。
「あ、あ、あんた……!?」
「……当教会に、何か御用でしょうか」
ゆらりと揺れた白の下には、透徹した瞳がある。
成る程、この瞳の持ち主ならば気配を感じさせぬのも当然と覗き込む者に納得させるような、
それは真夜中を吹く風の、黒。
「や、あの、その……」
純白に身を包んだ、黒い瞳の女。
白はベールと修道服。
女は、シスターであった。
「お話を、伺います」
微笑と銘打たれた仮面を隙なく被ったような笑顔を浮かべたシスターの、
低く掠れた声が堂内に響いた。
***
463 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/23(土) 01:01:17 ID:???
「……なるほど。最近この街へいらしたのですね。それでこの街に住んでいるはずの、
以前に世話になられた方の消息が知りたい……と」
純白のベールの下から覗く静謐な微笑は、淡々と紡がれる言葉と相まってひどく乾いた印象を与える。
喉がひりつくような感触を覚えた森崎が、唾を飲み込みながら曖昧に頷く。
「はあ……まあ、そんなところで……」
『テキトーなこと言っちゃって』
頭の上にちょこなんと肘をついて言うピコの言葉は無視しつつ、森崎が困ったような笑顔を浮かべて続ける。
「……いや、それでその、信徒名簿なんかを……まあ、見せてもらえれば、話も早いかと思いまして……」
「構いませんよ」
「だよな、いや、だと思いました! それじゃまあ、そういうことで……って、いいのかよ!?」
あまりにもあっさりと頷いたシスターに、思わず踵を返そうとしていた森崎が
逆に驚きと共に訊き返す。
「いやいやいや、マズいんじゃねーのそういうの!? もうちょっとこう、警戒心をだな」
『キミが言うかね……』
「私どもの教区では、特に隠し立てするようには申しつかっておりません。
名簿に記載をさせていただく際にも、その旨は皆様にご説明しております」
「あ、そ、そうなんだ……、ですか……?」
取り乱す森崎とは対照的に、あくまでも平静かつ淡々と話すシスター。
ひどく釈然としない気持ちで森崎が呟いたときである。
きい、と微かに軋む音を立てながら、祭壇の脇に据えられた扉が開いた。
「―――何を騒いでいるのですか」
464 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/23(土) 01:02:18 ID:???
扉の向こうから現れたのは、一人の男である。
足元までを真っ直ぐなラインで覆う黒のキャソックを纏い、背中まで垂れる栃色の長い髪をまとめるように
頭頂に乗せた円形の帽子、カロッタはやはり司祭の位を表す黒の一色。
「あ、神父様……」
シスターが神父と呼んだ男は、ほとんど足音すら立てることなく歩いてくる。
「申し訳ありません、こちらの方が名簿をご覧になりたいと……」
神父が、森崎から数歩の位置で立ち止まる。
背の高い男であった。
口元には神職にある者らしく柔和な笑みを浮かべていたが、小さな丸眼鏡の向こうに光る、
見下ろすような視線はおそろしく熱量が低い。
「……」
『……なんだか、寒くない?』
露出した腕をさすりながら、ぶるっと震えてみせたピコの方へと目をやる余裕は、森崎にはない。
得体の知れぬ怖気は、本能が眼前の神父を警戒しているものであった。
「そうですか、あなたが」
「……」
かけられる声はねっとりと柔らかく、しかし肌にへばりついて毛穴から沁み渡るような、
生理的な嫌悪感を催させるものである。
465 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/23(土) 01:04:34 ID:???
「結構ですよ。我が教区にお住まいになっている方であれば、どなたでも名簿をご覧いただけます。
貴方も今は我が教区の信徒ですからね、森崎有三さん」
「……」
『ねえ、今この人、すんごい流暢にキミの名前を発音しなかった?
モリサキ、じゃなくて森崎、だったよね。日本語できるのかなあ』
感心したように言うピコだったが、森崎自身はまったく違うことを考えていた。
(問題は、そこじゃねえ。……俺はまだ、名乗ってねえんだぞ)
だが神父は、平然と森崎の名を呼んでみせた。
自身が事前に調べ上げられているという事実は言いようのない不気味さを感じさせる。
そしてまた何より森崎の神経をささくれ立たせたのは、今この場でそれを明らかにしてみせた
神父の意図が判然としないことである。
(ついうっかり……なんてワケ、ねえな)
森崎が逸らすことなく見返したままでいる神父の目には、理性の光があった。
たとえそれが触れる者を凍てつかせるような極低温の煌めきであったとしても、
少なくともつまらない間違いで手の内を明かすような男にできる眼差しではない。
ならばそれは恫喝か、警告か、或いは他に何かの思惑があるのか。
その目的が分からぬことが、森崎の心を波立たせる。
と、そんな森崎の内心を知ってか知らずか、神父がついと頭を下げると、笑みを深くしてみせた。
「……失礼。私はこれから所用がありまして、出かけなければなりません。
何かあればシスター・ルーナにお聞き下さい」
「……」
無言を貫く森崎の態度にも、神父が表情を変えることはない。
色のない笑顔を向けて、言う。
466 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/23(土) 01:05:35 ID:???
「弱者は己に頼らず、天に頼るしか術はありません。
教会はいつでも扉を開いております、いつでもお越し下さい。……それでは」
言い終え、十字を切った神父が、シスターに向けてひとつ頷くと、歩き出す。
現れたときと同じようにほとんど足音を立てぬ神父は、そのまま教会の大扉から出て行くのだった。
***
「しっかりした紙だな。……この手の技術もスィーズランド譲りってわけか」
神父がいなくなって暫く経つ今もなお、警戒感はまだ全身を支配している。
それでも森崎は、ともかくも最初の目的を果たすべく、シスターから渡された教区名簿の
分厚い皮表紙を開いていた。
「ロベリンゲ、ロベリンゲ……と。お、これだな」
『どれどれ? ……ひゃ!』
名簿の上に身を乗り出すピコを摘み上げ、脇に移動させる森崎。
『もう! 口で言えばいいじゃない!』
「ソフィア・ロベリンゲ……ふむふむ」
『ね、聞いてる!?』
抗議を無視した森崎が、そこに書かれている文字列に目を走らせていく。
ソフィア・ロベリンゲ。
D**年、12/10生まれ。
学生、所属はドルファン学園。
家族は父ロバート、母ロミルダ、弟エリク。
現在フェンネル地区**号在住―――。
467 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/23(土) 01:06:39 ID:???
「……ま、こんなところか」
ソフィア、そして家族の情報に一通り目を通した森崎が顔を上げると、
そこにピコの姿はない。
「……あれ? おーい、もういいぞ、ピコ!」
『もう、キミなんか知らない!』
呼んだ森崎に返ってくるのは、声ばかりであった。
***
サウスドルファン駅はドルファン地区の南西、シーエアー・フェンネルのそれぞれと
境を接する位置にある、環状馬車の停車駅である。
五月祭の今日、周辺で様々な催し物が開かれる沿道は黒山の人だかりであった。
「さーてと、約束の時間にはまだ少し早いが……」
『あれ? ねえ、あそこ……ソフィアじゃない?』
「ん?」
目印にと指定された軽食店の近くまで来た森崎が辺りを見回していると、
ようやく機嫌を直したのか、再び姿を現したピコにつんと袖を引かれる。
言われた森崎が目を細めれば、人波の向こう、歩行者の流れから少し離れた壁に
そっと寄り添うように立つのは、確かに待ち合わせの相手である少女のようだった。
「……いつから待ってるんだ?」
『まあ、遅れて来るようなタイプじゃないだろうけどねえ』
そんなことを言い交わしながら、人ごみをかき分けてそちらへと向かう森崎。
その目の前で―――
468 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/23(土) 01:07:40 ID:eXV6pfKY
*ドロー
目の前で? → ! card
※ ! と card の間のスペースを消してカードを引いて下さい。
結果によって展開が分岐します。
スペード・ハート・ダイヤ→こちらに気付いたソフィアが歩いてくる。
クラブ→ソフィアに声をかけるナンパ男が。またか!
JOKER→突然、馬車を引いていた馬がいななくと、手綱を振りきって駆け出した! 暴れ馬だ!
469 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/06/23(土) 01:10:14 ID:???
目の前で? →
ダイヤ2
470 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/23(土) 01:45:07 ID:???
>>469
ドローありがとうございます。
EP1を進呈いたします。
***
スペード・ハート・ダイヤ→こちらに気付いたソフィアが歩いてくる。
「あっ……モリサキさん」
小さく手を振りながら歩いてくる少女は、森崎がこれまでに見た姿とは大きく印象が違う。
それもそのはず、今日の彼女が纏っているのは学園の制服ではないのだった。
ともすれば儚げな印象を与えるその上半身を包むのは、淡い緑色のブラウス。
その上から薄桃色の精緻な刺繍を施されたショールを肩にかけ、腰から下を覆う紅色の長いスカートは
ふわりと初夏の風に揺れてやわらかいシルエットを描いている。
栗色の髪は若草色のリボンで一つにまとめられ、ちょうど馬の尾のように後ろへと垂らされていた。
「おはようございます。今日はいらしてくださって、ありがとうございます」
正面に立つや、深々と頭を下げるソフィア。
ぴょこんと、まとめられた髪が跳ね上がった。
鷹揚に頷き返す森崎にどこか困ったような笑顔を浮かべながら、ソフィアが続ける。
「毎日お疲れのところ、無理を言ってしまったんじゃないかって、ちょっと心配で……」
「……」
「えっと……私、どこか、変……ですか?」
無言のまま見つめる森崎に、僅かに顔を赤らめてソフィアが訊ねる。
そんなソフィアを前に、森崎は―――
471 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/23(土) 01:48:17 ID:eXV6pfKY
*選択
A 服を褒める。
B 照れて口ごもる。
森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『6/23 23:00』です。
******
実はこの欧州世界、原作からしてイベリア半島とイタリア半島が存在しません。
ローマがないなら、はてさてこれは何カトリック? といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。
472 :
雑魚モブ
◆.xniaLTHMk
:2012/06/23(土) 15:54:22 ID:???
A
森崎自身が服のセンスが無いので素直に感心すると思ったから
また、ソフィアの反応から服について何か言ってもらいたいのではと思ったから
473 :
源氏
◆rLDAH8Hy8Y
:2012/06/23(土) 16:16:44 ID:???
A
大人の男である森崎は女学生相手に照れたりなどしないっ
自分がこの日の為に身だしなみ服装に気を使ったように、ソフィアも……と思うと
感じた通りの言葉が素直に出るのではないだろうか。
474 :
◆W1prVEUMOs
:2012/06/23(土) 18:01:55 ID:???
B
森崎がおっぱい星人に見えるのは、実はロリコンをカムフラージュしているからである
475 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/06/23(土) 19:02:28 ID:???
A精一杯のオシャレをしてきたであろうソフィアの気持ちを理解しない森崎ではないでしょう。
476 :
Q513
◆RZdXGG2sGw
:2012/06/23(土) 21:38:34 ID:???
B
意外とシャイなんじゃないかな。あと、迂闊な誉め方をしてミスるのがこわかったり
477 :
◆9OlIjdgJmY
:2012/06/23(土) 22:26:46 ID:???
A
リーダーの資質があるなら細かい気遣いもできそうなので。
478 :
見てる人
◆S/MUyCtQBg
:2012/06/23(土) 22:47:37 ID:???
A
森崎は、ソフィアがいつもと違う格好をしていることに気が付いてる。
そして、前のオッパイの女の人とは違い、年下の女の子だから。なんとか頑張って褒める。
ここで照れて口ごもるような男だと、この先、女難の相が見えてくると思うし。
479 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/24(日) 16:06:25 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、
>>471
の選択については……
>>473
源氏 ◆rLDAH8Hy8Y様の回答を採用させていただきます!
なるほど、自身が努力した分、相手も頑張っている……忘れがちですが忘れてはいけない、
実に良い観点だと思います。
CP3を進呈いたします。
また同様にソフィアの努力について言及して下さった
>>475
さら ◆KYCgbi9lqI様、
>>478
見てる人 ◆S/MUyCtQBg様、また現在の称号という効果的な切り口を提示していただいた
>>477
◆9OlIjdgJmY様にもそれぞれCP1を進呈いたします。
>>472
そうですね、せっかくのデートですから出会い頭に好意的なリアクションをしてほしいと思うのは
普遍的な心理でしょう。
策がないなら服を褒めろ、あってもいいけどとにかく褒めろ、という格言(?)は
初デートから倦怠期まで広範囲にカバーできるアクティブスキルです。
>>474
斬新な視点! ……ですが、この物語の登場人物は全員18歳以上です。
そうは見えなくても世の中のルール的にそうなっています。
……それはともかく、ロリコンという名の紳士なら照れずにエレガントに相手を愛でましょう!
>>476
本作でのカード判定は基本的に「運を天に任せる」という状況を想定しますので、
相手のリアクション自体にドローを入れることはあまりしないようにしています。
そういった判定が必要とされる場面では、たとえば『褒める』という選択肢に
最初から「どう褒めるか」という【手段】を明記していただく形になりますので、
その意味ではご安心下さい。
480 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/24(日) 16:07:38 ID:???
***
A 服を褒める。
「ああ……すまん、つい見つめちまった」
「えっ……?」
どこか変か、と問われて間髪入れずにこう答えたのが森崎である。
彼は少年とは違う種類の生き物、即ち男性であった。
そして彼はまた、少女が女という生き物とイコールであることを知っている。
「学園の制服しか見たことなかったからな。……可愛いぜ、そのカッコ」
「……っ」
目の前の少女が、自分が費やした手間暇など比べ物にならないほど、今日という時間のために
様々なものを消費し、消耗し、あるいは練磨し、研鑽したことくらいは理解している。
それはたとえば履き古した革靴の代わりに彼女の足元を彩る赤いストラップシューズであり、
白く眩しい首元あたりから微かに漂う柑橘系の香りであった。
だからこそ、賞賛を込めて素直に告げたその一言は、しかし劇的な効能を示す。
ソフィアは、一瞬にして赤面したのである。
「……あ、あ、ありがとう、ございます……っ。
私、あんまりそういうの、言われたことなくて……」
481 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/24(日) 16:09:30 ID:???
言った森崎の方が驚くほどに、耳まで赤く火照らせた少女が、俯き、一瞬だけ顔を上げ、
森崎と視線を合わせるやすぐにまた地面に親の敵でも見つけたように下を向きながら言う。
言葉通り、正面から褒められることにまったく慣れていないようだった。
女性は賛美を糧に美しくなるものだ。
だから美しい女性が好きならばその時々で素直に褒めるのが巡り巡って自分のためにもなる。
森崎はそんな風に考えていたが、それを彼女と同世代の少年たちに求めるのはまだ酷だっただろうか。
それにしても、と森崎は心の隅で思う。
まるきり耐性というものがないように見えるこの少女には、婚約者と称する男がいる。
ジョアン・エリータス。
あの傲慢な男は、彼女を賛美し、言葉で愛でることはないのだろうか。
(……ま、それでどうって話でもねえか)
口に出すことは流石にできない、そんな疑問を森崎は喧騒の中に捨てて少女へと向き直る。
「あの、五月祭は、お祭りですから……その、普段より、頑張る日で……。
それで、いつも着られないような服、なんかも、頑張ってみようかな、って……」
ソフィアの、言い訳とも照れ隠しともつかぬ弁明はまだ続いていた。
その消え入るような声に、森崎は笑顔を浮かべて頷く。
「そっか。うん、いいと思うぜ、そういう気持ち」
「……はいっ」
春の花のような笑顔が、ようやく咲いた。
***
482 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/24(日) 16:20:15 ID:???
「そこのお嬢さん、五月の花嫁になってみないかい!」
そんな声がかけられたのは、森崎とソフィアが出店を冷やかし、果汁入りの氷水を飲みながら
歩いていたときのことだった。
見て下さいあのお花綺麗ですね、おぉそうだな見たことないけど何て花なんだろうな、
あれもチューリップなんですよ珍しい品種ですけど、へえそうなのかよく知ってるな、と、
二人がその声を完全に無視したのは、自分たちにかけられたものだとは露程も思わなかったからである。
「ねえ俺っちの話、聞いてるかな! そこの黒髪の人の横の、そうあなた、お嬢さん!
五月の花嫁、ねッ!」
「……?」
「あァ!?」
ほとんど肩に手が触れんばかりの距離にまで近づいて再度発せられた、どこまでも軽い声に
ソフィアと、そして森崎が振り返る。
立っていたのは、中年男性であった。
僅かに生え際の後退した髪を油でびっちりと固め、身にまとうモーニングは原色の黄。
陽光にチカチカと反射するのは金糸銀糸の刺繍だろうか。
まるでノエルの作る『上級者向け』の服だな、と思いながら森崎が男に向けて一歩を踏み出す。
ちょうどソフィアを背に隠すような位置取りである。
「……男連れを目の前でナンパたぁ、いい度胸だな」
「ぃえっ!? ちょ、ちょっと東洋のお兄さん……目が、目が怖い!
そうじゃなくて、五月の花嫁が、ちょっとお話、聞いてもらえませんかァー!?」
ぺき、ぺきと拳を鳴らす森崎を、しかし押し留めたのは意外なことにソフィアであった。
「あ、あの、モリサキさん!」
「……?」
「た、たぶんこの方は、その、モリサキさんがお考えのような方では、ないと……思います」
483 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/24(日) 16:21:38 ID:???
そんなソフィアの様子に、怪訝な顔をしながらもひとまずは拳を下げる森崎。
そう、そう教えてあげて、と必死に頷く男にちらりと目をやってから、ソフィアが続けた。
「五月の花嫁っていうのは、この辺りに昔からある言い伝えなんです。
天使さまの御遣いとして選ばれた女の人が、幸運と祝福を運んでくる……っていう」
「そうなの! それで、その伝説にあやかって、このドルファンの五月祭では
毎年『五月の花嫁』を選ぶコンテストが、ここ大事なトコね、花嫁コンテストが開かれるの!
俺っちはその参加者をね、集めてるってワケ!
お兄さんの大事なコにちょっかいかけたんじゃないの、おわかり?」
ソフィアの言葉を継いで一気に言い切った男が、引き攣った笑顔のまま森崎に人差し指を立てる。
ふん、と鼻を鳴らした森崎が、ソフィアの方へと振り返った。
「……と、言ってるが……」
「はい、そういうコンテストは確かに毎年開かれていますけど、でも、あれは事前の抽選で
出場する人を決めるって……。倍率も、すごく高いっていう話で……」
話を振られたソフィアが僅かに眉根を寄せる。
森崎の表情が再び険しくなっていく気配を感じたか、男が慌てたように口を開いた。
「いやー、それが、それがね! 今年に限って事故だ目眩だ腹痛だ、しまいには本当に花嫁に、
どころか母ちゃんになっちまうからこっちには出られないわー、なんてのまでいる始末で、
土壇場で結構な欠員が出ちまってるのよ! 俺っちたち、運営全員大弱り!」
大袈裟に頭を抱えてみせる男。
「……それで、そうやって飛び込みで参加者を募集してるってわけか」
「そう! お兄さん、話が早い!」
一瞬で立ち直った男が、くるりと回ってソフィアの正面に立つと、覗き込むようにして言う。
484 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/24(日) 16:22:40 ID:rCmrQzP6
「……で、どう? お嬢さん」
「どう、って言われても……」
「俺っちも長年このコンテストに関わってんだけどさ、お嬢さんにはこう、光るものを感じるんだよね!
ビビーっと! ……きっといい線いくからさ、出てみよう、ネ!」
「で、でも、急に言われても、衣裳なんかも持ってませんし……」
立て板に水の如くまくし立てられたソフィアが及び腰で答えるのを、男が軽くいなす。
「そんなのこっちで用意してるから!
お嬢さんは身一つで来てもらえれば、後はステージに立つだけ!」
「……ステージ」
ふとソフィアの呟いたその単語は、ただ男の言葉を繰り返しただけのようにも、
あるいはどこか、遥か遠い何かをぼんやりと見やりながら口にされたようにも、聞こえた。
「……」
視線が、森崎と交錯する。
*選択
A 花嫁コンテストへの参加を勧める
B 辞退するように勧める
森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『6/25 23:00』です。
485 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/24(日) 16:24:00 ID:???
******
といったところで、まだまだ早い時間ではありますが、
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
お付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。
486 :
雑魚モブ
◆.xniaLTHMk
:2012/06/24(日) 18:50:48 ID:???
B
ウマイ話には裏があるってのが世の摂理だし、この男が本物の運営者かどうかもの怪しいので警戒するにこしたことはない
また、仮に参加して優勝でもしてジョアンに森崎と一緒にいたことが知られるとソフィアが何されるか分からないから
487 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/06/24(日) 19:16:36 ID:???
A
確かに、優勝(あるいは参加だけでも)すればジョアンとの関係は悪化するだろうが、
「あるいはどこか、遥か遠い何かをぼんやりと見やりながら口にされたようにも、聞こえた。」
ってことは、彼女の物語に関わる何かが「ステージ」や「芸能」にあるんだろうね。
男ならトラブルを嫌うのではなく、物語に飛び込むべきではないかな。
488 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/06/24(日) 20:29:12 ID:???
【ピココール】
この男は本当に大会運営の人間だと思うか?
それにこんな都合良い話があるものだろうか?
489 :
ピコ
◆ALIENo70zA
:2012/06/24(日) 22:45:40 ID:???
>>488
あれ…よく見たら、あっちでもこっちでもオジサンとかおにーさんがペコペコ頭を下げてるね。
キミたちにしたのと同じように声をかけちゃあ、邪険にされてるみたいだよ(そりゃ、若いコは大抵デート中だからね!)。
だからまあ、とりあえず偽物ってことはないんじゃないかな?
490 :
ノータ
◆JvXQ17QPfo
:2012/06/24(日) 22:56:52 ID:???
A
理由:ピコの言う通りならジョアン関係ではなさそうなので
と言うよりもジョアンなら、自分の花嫁なのにこんな大会に参加させようとは思わないはず
ソフィアもおそらく着たいだろうし
491 :
見てる人
◆S/MUyCtQBg
:2012/06/24(日) 22:59:47 ID:???
A
出ちゃおうぜ。本人の自信にもつながるだろうし、祭りは楽しまなきゃ!
492 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/06/24(日) 23:07:25 ID:???
あ、私や雑魚モブ氏の言っている「ジョアンとの関係」っていうのは、このイベントの背後にヤツが居るという話ではなく、
参加あるいは優勝で評判になる→森崎とソフィアのデートがジョアンに知られる→険悪に、ってことね、念のため。
493 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/06/25(月) 09:56:06 ID:???
Aジョアンの事は気にかかりますが、ソフィアも舞台に立ちたそうな感じなんで背中を押してあげるのも良いんじゃないかな。
494 :
◆9OlIjdgJmY
:2012/06/25(月) 22:58:23 ID:???
A
花嫁コンテストがイベントとして面白そうなので。
495 :
Q513
◆RZdXGG2sGw
:2012/06/26(火) 09:03:07 ID:???
A
目立ってしまうかもしれないけれど、まあお互い楽しむのが大事だろうし
496 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:43:24 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
しばらく間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。
それでは早速、
>>484
の選択については……
>>487
傍観者 ◆YtAW.M29KM様の回答を採用させていただきます!
まったく付け加えることのないくらい、要点を綺麗に拾っていただきました。
ありがとうございます。
CP3を進呈いたします。
また同様にソフィアと舞台の関連に言及して下さった
>>493
さら ◆KYCgbi9lqI様にも
CP1を進呈いたします。
そうですね、最初に少しだけ背中を押してあげさえすれば走り出せる子もいるのです。
常にムチを入れていないとどこまでも緩む子も中にはいますが…。
>>486
生き馬の目を抜く欧州、細かな警戒は大切です。
が、まあ、その気になれば膨大な資金と人員を投入できる相手に対して、一傭兵である現在の森崎に
完璧な防戦ができるかというと…どこかで割り切りは必要になってくるでしょう。
(GMとしてもラダトームの町の周りに死神の騎士やダースドラゴンを置くような真似はしませんw)
勿論、警戒ラインを下げすぎれば悲劇に向かって一直線ということもありますので、
さじ加減には常に気をつけていきたいところではあります。
497 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:44:25 ID:???
>>490
そうですね、ジョアンにとってはまったくメリットがないでしょう。
>>491
はい、お祭りでは遠慮したら負けです!
>>494
イベントの描写に時間を取られましたが、お楽しみいただければ幸いです。
ご回答いただいた皆様にそれぞれEP1を進呈いたします。
>>495
そうですね、楽しむのが一番です。
後のことは後で考えても、まだいい場面でしょう。
498 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:45:26 ID:???
***
A 花嫁コンテストへの参加を勧める
「行ってこいよ」
森崎が告げるのは、直截な一言であった。
迷うのならば行けと、少女の背を押すように言う。
ステージというものに少女がどのような気持ちを込めるのか、今の森崎は知らない。
それでも、そこに何かを求めるのであれば立ち止まる道はないと、森崎は思う。
それは明日の命の保証のない、傭兵という身の上からくる生き急ぎ方であっただろうか。
「ですが……」
言い淀むソフィアの目には、躊躇いがある。
その躊躇いの内にはジョアンのことも含まれているのだろうというのが、森崎の直感である。
舞台に立つことか、それによって人目につくことか、あるいは自分の意志で何かをしようとすることそれ自体か、
いずれあの男の気に障るのだろう。
目の前の少女、一回りも下の年端もいかぬ少女は、それで森崎に累が及ぶことを懸念しているのだ。
「俺のことは、気にすんな」
ならば、そう言ってやるのが森崎有三という男の役割である。
身一つより他に守るものとてないのが風来坊の強み、火の粉が振りかかるならば払えばいいと笑うのが、
今この少女にしてやれる最上のことだった。
あとはソフィア自身が決めることだと、目線で告げる。
得るものと失うものとを天秤にかけて、決断すればいい。
499 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:46:30 ID:???
「……はい」
ソフィアは、しっかりと森崎の目を見て頷いた。
森崎の言いたいことは余さず伝わったようだった。
賢い子だ、と思う。
「モリサキさん」
派手な格好の男に付き添われて会場の裏口に入っていく寸前、ソフィアが森崎に笑って、言った。
「応援……して下さいね」
***
500 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:47:31 ID:???
「皆様、たいっっへん長らくお待たせいたしましたぁーッ!!」
新緑の薫りも爽やかな青空の下、甲高くもよく通る声が響く。
と、同時。五月祭の催し物が開かれる広場の中でも一際大きく設営された特別会場の舞台に、
目が痛くなるような黄色のモーニングを着込んだ男が飛び出してきた。
声は、男が発したものである。
『あ、あの人!』
「司会だったのかよ、あのオッサン……」
呟く森崎が座るのは、舞台上で喋る男が用意したという席である。
ちょうど舞台正面、最前列でこそないものの顔がしっかりと見える程度には近い距離という上席だった。
司会の男の顔もよく見える。
つるりと広い額を撫でた男が、大きな身振りと共に口を開いた。
「これより五月祭のメインイベント、『五月の花嫁コンテスト』を開催いたします!
野郎ども、麗しの令嬢を迎える準備はいいかあぁぁ!?」
うおおおお、と地鳴りのような声が応える。
席という席を埋め尽くし、立ち見までびっしりと詰まった千を超える群衆の殆どは男性である。
「うるせえな……」
『歓声が野太いよ……』
あまりの温度差についていけない森崎をよそに、舞台上の男はてきぱきと場を進行していく。
幾つかの注意事項を述べた後、審査員たちの紹介を終えると、いよいよ出場者の呼び込みである。
「まずは一番手! 城南市場の看板娘! モバー・モビー姉妹が登場だぁー!
はりきって、どうぞー!!」
501 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:48:32 ID:???
うおおおお。
さながら地鳴りを抑える巫女のように袖から現れた二人の女性を見て、しかし森崎は拍子抜けする。
「……大したことねえな、おい」
『うーん……フツー、だね』
思わず漏らした声は周囲の歓声にかき消される。
が、しかし何度見ても舞台上にいるのは実にありふれた容姿の、それも少しばかり歳のいった姉妹である。
身につけるドレスも豪奢というには程遠い、おそらくは先祖代々受け継がれてきたものであろう
時代がかった色味とデザインの、有り体に言えば単なるトルキア地方の民族衣装である。
照れ笑いを浮かべながら手を振る姿も見事に垢抜けない。
「まあ、公募抽選って言ってたしな……こんなもんか」
『もう結婚しちゃってる人は出られないだろうしねえ』
その言葉通り、しばらくは退屈な時間が続いた。
出てくるのは下町の売り子だの、ご町内最後の独身娘だのといった面々である。
「っかし、ロクなのがいねえなあ……この調子ならソフィアもかなりイイ線行くんじゃないか?」
『そうだねえ……優勝だって狙えちゃうかも?』
欠伸を噛み殺すこともない森崎が、肩を揉みほぐしながら言う。
そんな弛緩した空気は、しかし一変することとなる。
「―――大家族の末娘、モバック嬢でした! ありがとうございましたっ!」
大袈裟な身振りと共に出場者を袖へと送り出した司会の男が、言ったものである。
「さあ、盛り上がってまいりました! ……ここからは主催者推薦の面々が登場だぁッ!
興奮しすぎてくたばるんじゃねえぞ、野郎どもッッ!」
502 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:49:53 ID:???
グオォォォォ―――
突如、地鳴りが山崩れへと変化した。
周囲の男たちが、最早堪え切れぬとばかりに立ち上がる。
「な、何だァ!?」
『この人たち、まだこんなに盛り上がれたんだね……』
目を白黒させる森崎。
「まず最初にお目見えは北欧からの刺客、白き森の守護者、リューリ・ハルティカイネン嬢!!
―――どうぞッ!」
しゃん、と。
その蒼白のドレスを纏った女性の、歩を進める音が、森崎の耳に聞こえた。
地鳴りも、山崩れも、どこか地平の彼方へ消えていた。
凍りついたような静寂の中を歩むその女性は、一目見ただけでこれまでの出場者とは
根本的にレベルが違うことがわかる。
蒼のマーメイドラインに包まれるのはまるで繊細な細工物のような白い肌と細い腰。
白銀のティアラの下、濃いシャドウで強調される切れ上がった目元は刃物の如く鋭い。
薄い唇を彩るのは、紫の口紅である。
物語から抜けだしてきた雪の女王と言われれば信じてしまいそうな女性が舞台の中央へと進むと、
司会の男が駆け寄った。
「ではリューリ嬢、客席と審査員に向けて一言アピール、どうぞ!」
言われた女性が、見事な刺繍を施された本繻子の肘まである手袋に覆われた細い指を口元に当てると、
僅かに視線を動かした。
触れなば斬れん、というような瞳が、会場を睨め付ける。
一瞬の後、凍土を吹く烈風のような声が響いた。
「……誰も彼も間抜け面を並べて。生きているのが恥ずかしくないのかしら」
503 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:50:54 ID:???
きぃん、と。
氷室から取り出した氷が、外気に触れて罅割れるような音が、聞こえた気がした。
ほんの僅かの間を置いて。
罅の中から漏れ出したのは、歓喜の叫びである。
ウゥゥゥオオオオォォォォォォォ―――
ほとんど涙を流さんばかり、もしも尻尾があれば根本から千切れんばかりの勢いで
ぶんぶんと揺らしているに違いない表情で喜ぶ男たち。
「こ、こいつら……怖ぇ」
『……そういうキミも、どうして立ち上がって手なんて振ってんのさ』
「なにィ!?」
愕然とする森崎に、ピコの視線が突き刺さる。
そんな様子にも当然ながら取り合うことなく、場は進んでいく。
氷の如き女性は既に袖へと帰っていた。
「駄犬ども! 存分に嬉ション漏らしたか!? 俺っちも今すぐ着替えてきたい!
が、そんな暇は与えないぞ! お次はこの人! カミツレの自然が育んだ天然砲弾、
ミス=ブレイクアップ、エッラ・ブロッジーニ嬢の登場だぁ!!」
「ハァ〜イ!」
呼び込みの声と共に舞台へと飛び出したのは、先ほどの凍てつく美貌とはあらゆる意味で対照的な女性である。
504 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:52:07 ID:???
「ん〜、チュッ♪」
舞台中央へと走り込むや客席へと投げキッスをしてみせた、その唇はぷるんと厚い。
日に焼けて褐色に近くなった肌に絡むブルネットの髪はどこまでも艶っぽく、そして何より
朱を基調としたベルラインのドレスに包まれた肢体はそれ自体が強烈に男性へのアピールとなる、
破壊力に溢れるものであった。
豊満なバストから視線を下ろせば、引き締まった腰回りから肉感的な骨盤周辺へと張りのある肉が
みっしりとその存在感を主張している。
男と生まれたからにはその肉に手指を埋め、顔を埋め、汗と快楽の海に溺れたいと夢想せずにはいられない、
ある種の魔力に満ちた体つきであった。
「こ、こいつぁ……ゴクリ」
『……キミ、いい加減にしないと怒るよ』
「痛ぇ! 何すんだ!」
『ふん』
大胆にカットされた裾から垣間見える魅惑の太腿と弾力溢れるふくらはぎを凝視していた森崎が、
ピコに後頭部を叩かれた衝撃で我に返る。
舞台の上ではまるでその隙を縫うとでもいうように、女性がくるりと回転すると、
最後に前屈みになって口づけの真似、更には軽く舌を出してみせるポーズ。
ッググゴォォォォォォ―――
溢れそうな褐色の谷間と突き出された赤い唇、そして桃色の柔らかくも淫靡に蠢く舌の組み合わせを受けた
会場の雄叫びは、ほとんど咆哮と呼ぶのが相応しい。
「エッラ嬢、色々ありがとうございましたッ! ホントにありがとうございましたッッ!」
入って来たときとは逆にゆっくりと時間をかけて退場していく女性と目が合い、手を振られ、
投げキッスの直撃を受けた男たちがバタバタと倒れていく。
舞台の中央へと戻った司会の男はその惨状をあっさり無視すると大袈裟な身振りを更に加速させ、
踊り狂うようにしながら観客を煽り立てる。
505 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:53:09 ID:???
「さあ、さあ、さあ、そしてお次はお待たせしました真打ち登場!!
皆様御存知、あのご令嬢の出番だッッ! 野郎ども、その名を称える準備はいいか!?」
ごおおおおお。
咆哮をいなし、煽り、自在に操る様はさながらサーカスの獣使いである。
「それじゃあ行くぜッ! 花嫁コンテスト史上、連覇を果たしているのはこの人だけ!
盤石の体制で狙うか偉業の三連覇! 絶対王者!! その名は―――」
男が、その手を客席に向ける。
声が、揃った。
「―――スー・グラフトン!!!!」
会場が、圧倒的な一体感に包まれていた。
名を呼んだ男たちが、爆発的な咆哮を上げる。
その異様な雰囲気を前に、一人の女性が袖から現れた。
が。
「……ん?」
『あれ……?』
首を傾げる森崎。
その視線の先にいたのは、ごく普通の女性である。
506 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:54:10 ID:???
くるくるとした巻き毛に少し眼尻の垂れた、どちらかと言えば愛嬌のある顔立ち。
美人というには華が足りず、さりとて決して不細工でもない。
可愛らしくはあったがそれだけで、プリンセスラインを描く純白のドレスも
確かに花嫁衣裳としては相応しいものであるが、特段に高価そうなわけでも、
驚くような趣向を凝らしてあるわけでもないようだった。
手にしたブーケも、小さな花屋でも用意できそうな種類の大衆的な花を集めたもので、
その姿を何度も見直した森崎が、改めて唸る。
「……出番、間違えてねえか?」
『チャンピオン、のはず……だよね』
そんな森崎の目の前で、何の特徴もない女性は何の変哲もなく歩き、何気なく舞台の真ん中に立つと、
「今年こそ―――」
すう、と息を吸って。
「―――結ッッ婚!! してやるんだからああああああっっっ!!」
叫んだ。
瞬間、世界が変わる。
507 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:55:11 ID:???
「……ッ!?」
『な、何……? 何が起きてるの!?』
轟、と。
地を奔り、空を駆け、文字通りに轟いたそれは、原初の雄叫びであった。
平凡を絵に描いたような女は、そこにはいない。
そこに立つのは、女の生という死屍累々たるいくさ場に舞い降りた、女神である。
小さな花を寄せ集めただけのブーケはその女が持つとき、神話に謳われる宝剣もかくやと煌めいて
向い立つ者すべてをひれ伏させ、ありふれたデザインのウェディングドレスはその気迫に包まれる時、
星を散りばめたように光り輝く唯一無二の戦装束となるのであった。
「―――」
それは幻想。
それは錯覚。
一人の女の、妄執とも言うべき気迫が生み出した幻である。
しかしそれはまた、この会場のすべてが共有できるだけの実存の確かさを持った、幻であった。
幻想が光を生み、生まれた光が会場を覆い尽くしていく。
「こ、こりゃあ……!」
『何で……? 引き込まれる……!』
溢れる光が、森崎を包んでいく。
真白い光の中で、森崎は歓声をあげていた。
喉も嗄れよと叫ばれるそれは王者を称え、賛美する、咆哮だった。
スー・グラフトン! スー・グラフトン! スー・グラフトン!
俺達の花嫁―――
***
508 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:56:12 ID:???
「……」
『……あ、あれ……? ねえ、ちょっと、キミ!』
「……? ここ……どこだ……」
ピコの声で、気がついた。
慌てて見回せば、そこは元通りの会場である。
ぐったりと、力を使い果たしたように椅子に沈む男たちが目に入る。
森崎自身もひどい脱力感に襲われていたが、全身に鞭を入れるようにして身を起こした。
「……あの人、は……!?」
視線を向ける先には、しかし既に誰もいない。
がらんとした舞台は、まるで何事もなかったかのように変わらず存在している。
叩きに叩いた両手の赤さと痛み、質の悪い風邪でも引き込んだかのようにじんじんと痛む喉、
思う様に踏み鳴らしたせいで時折鈍痛を走らせる足、そういった肉体の感覚だけが、
先ほどまでの高揚感に浮かされたような光景が白昼夢でないことを森崎に教えていた。
「今の……何だったんだ?」
『わかんないけど……。チャンピオンって、すごいんだね……』
「そう……、だな……」
ぼそりと呟きあった森崎の目に、原色の黄色が映る。
舞台の端からよろよろと進み出る、司会の男であった。
どうやらこの男も王者の光に巻き込まれたらしい。
後退した生え際に浮かぶ脂が、午後の日差しにてらてらと輝いていた。
509 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:58:38 ID:???
「……も、もはや言うことなんざありゃしないッ! 絶対王者に死角なし!
今年もそのみなぎる気迫には更なる磨きがかけられていました!
皆様、スー・グラフトン嬢に今一度、盛大な拍手を!」
ぱち、ぱち、と。
会場のそこかしこから断続的な拍手が聞こえる。
男たちのほとんどすべてを吸い尽くした王者に贈られる、それは誇り高き凱旋の唄であった。
「……さあ、それではこのコンテストもいよいよ最後の出場者となりました!」
無理矢理に声を絞り出すようにして、司会の男が舞台の袖を指し示す。
「最後?」
『ってことは……』
「ようやく、出番か」
頷いた森崎の見つめる先、舞台袖の向こうに、少女が立っているはずだった。
「大トリを務めますのは……おおっと、この人はデータがないぞ!」
驚異の新星あらわる! 飛び入り参加で登場は―――」
ざわり、と会場が揺らめく。
予想外の煽りに、王者に奪われた熱気を僅かに取り戻した者たちがいたようだった。
「驚異の新星……」
『よく言うよね……』
司会の男の調子の良さにげんなりとした顔をする森崎。
無論のこと、壇上の男はそんなことを知る由もない。
「ソフィア・ロベリンゲ嬢だぁーッ! それでは! 張り切って、どうぞ!!」
「……」
510 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 00:59:47 ID:???
呼び込みの声に応じるように、袖から一歩を踏み出したのは、ソフィアである。
淡い黄色のドレスの、Aラインの裾がふわりと揺れた。
かつ、かつ、と。
不安定なヒールの音が、あまりにも露骨に緊張を物語っている。
「……っ、……」
途中、何度かバランスを崩しそうになりながら、どうにか舞台の中央へと歩み出るソフィア。
ペコリと、一礼。
強張った顔が、会場を見た。
「……っ!」
見て、固まる。
固まって、俯いた。
「……」
『うわあ……ちょっと、大丈夫……じゃなさそうだね』
少女は俯いたまま、彫像のように動かない。
握り締められた小さなブーケだけが、その持ち主が生きた人間であることを示すように
ふるふると震えている。
栗色の髪をまとめ直した小さな銀の髪留めの、陽光を反射してきらりと光るのが、森崎の目に入った。
「―――」
ざわ、ざわと。
会場の空気が不穏な色を帯び始めようとした、その瞬間。
森崎が、思い切り息を吸って、叫んだ。
「―――頑張れ、ソフィア!」
511 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 01:00:48 ID:xNFCHdok
*チェック
全力で応援せよ! → ! numnum
※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
出た数値によって結果が分岐します。
また今回は、森崎の応援効果に知名度が加算されます。
加算式は以下の通りです。
(評価*2+魅力/10)
→「10*2+73/10」=27
応援値【1〜100】に知名度【27】を加算して出た数値が……
・127〜80:
「……はい!」
森崎の応援に、ソフィアがしっかりと応える!
・79〜40:
「頑張れー!」「平常心ー!」
森崎の応援に触発されて、温かい応援の声が飛ぶ。ソフィアも勇気づけられたようだ。
・39〜27:
「何だ、あいつ……」「空気読めよ……」
森崎に白い目が向けられる。ソフィアもすっかり落ち込んでしまっているようだ……。
512 :
源氏
◆rLDAH8Hy8Y
:2012/06/28(木) 01:01:20 ID:???
全力で応援せよ! →
98
513 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/06/28(木) 01:02:15 ID:???
EPやCPをつぎ込む気まんまんだったけど…お見事と言わざるをえない。
514 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 01:22:25 ID:???
>>512
重要なポイントでの素晴らしい引き、ありがとうございました!
通常のEP1に加え、CP3を進呈いたします!
***
わりと厳しい条件に設定したはずの5月イベントの成功が概ね確定!
といったところで、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。
515 :
源氏
◆rLDAH8Hy8Y
:2012/06/28(木) 01:38:34 ID:???
お疲れ様でした。
我ながら凄い引きだった。
516 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 22:22:07 ID:???
***
・127〜80:
「……はい!」
森崎の応援に、ソフィアがしっかりと応える!
森崎の声は、一筋の矢であった。
寸分の狂いもなく飛んだ矢は、過たずにその目指す的を射抜いていた。
貫かれて真っ二つに割れたのは、ソフィアを縛る心の枷である。
す、と顔を上げた少女の表情に、もはや怯懦の色はない。
「……皆さん、はじめまして。ソフィア・ロベリンゲと申します」
千の群衆、二千の視線を前に口を開いたソフィアが、深々と一礼する。
向き直るその手に握られたブーケも震えを収め、その純白を静かに午後の日差しに晒している。
「今日は、急にこんな舞台に立てることになって、すごく……すごく緊張しています。
……でも」
一拍を置くソフィア。
ほんの僅か動かした視線の先に、森崎がいる。
「こんな私を、ここに立たせてくれた人がいました。それを、思い出せました」
絡み合うのは一瞬。
すぐに、その目は千の観客へと戻された。
「だから、私は私にできること、私のしたいと思うこと、しようと思います」
517 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 22:23:28 ID:???
そこまでを言い切ったソフィアが、ちらりと司会を見やる。
原色の黄色を纏った男が、はっとしたようにソフィアを見、観衆へと気をやり、
それから我に返ったように大袈裟な身振りを取り戻して喋り出した。
「……っとぉ! 俺っちとしたことが、思わず雰囲気に飲まれちまったぜっ!
こんな殊勝な娘、最近そうはいやしねえ! 会場の野郎ども、温かく見守ってやってくんな!
それではソフィア嬢、アピールタイム、どうぞっ!」
司会が大仰に手を振って促すのへ、ソフィアが頷く。
観客席に向き直り、再びの礼。
ざわめきの静まるのを待って、言う。
「これが、私にできること……聞いてください」
背を伸ばし、胸を張って。
息を、吸う。そして、
―――西風 快天と共に帰りて―――
流れ出したのは、透き通るソプラノだった。
西風 快天と共に帰りて
花や草 その家族と燕たち 小夜啼鳥の声と
白く朱い春を告げる
それは他愛もない、誰もが知っている一昔前の流行歌である。
春の訪れの喜びをうたう歌。
巡り来る温もりと恵みとに感謝を捧げる歌であった。
518 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 22:24:32 ID:???
澄み渡る空 緑なす牧場
天帝 愛し子に微笑み
時折声を震わせ、また息遣いを乱しながら、しかし歌は続く。
懸命に、真っ直ぐに、ただ歌をうたう、そのことだけを見つめるような、声音。
空気も水も 大地もまた愛に満ちる
すべての獣たちは 再び愛に目覚める
最後の一節を歌い終えると、すう、と音が消える。
風の音も、街の喧騒も、千の観衆の身じろぎすら歌声に吸い込まれたかのような、一瞬の静寂。
「―――」
ぱち、ぱち、と。
その張り詰めたような静けさを崩したのは、拍手である。
最初の音は、森崎の手から放たれていた。
そのことに気付いた隣席の男が負けじと両手を打ち合わせ、それが前後に伝わり左右に伝播して、
すぐに会場全体を覆っていく。
万雷の拍手が、舞台の上の少女へと降り注いでいた。
「……ありがとう、ございました……っ」
519 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 22:25:37 ID:???
二千の手から響く、豪雨のような音の嵐に、ソフィアが戸惑ったように立ち尽くしながら、言う。
それだけを口にするのが、精一杯のようだった。
ともすればそのまま崩れ落ちそうな危うさで立つ少女に、司会の男が慌てたように喋り出した。
「す、す、素ン晴らしいぃぃ! まさに、まさに驚異の新星ッ!
ソフィア・ロベリンゲ嬢でした!! 皆様、どうぞ改めて拍手をお願いいたしますッッ!」
絶叫を演じながら、袖に目線で合図を送る男。
飛び出してきた裏方たちが少女へと駆け寄ると同時、その淡い黄色のドレスがふらりと揺れる。
「……!?」
『ちょ、ソフィア……大丈夫なの?』
森崎と、そして観衆が息を呑む前で、しかし少女は倒れる寸前、自らの足で立ち直った。
「ありがとう、ございました……!」
割れんばかりの歓声を前に、最後にもう一度だけ深く礼をすると、ソフィアは支えようとする裏方を
手で制しながら、ゆっくりと舞台から去っていく。
その背には、いつまでも鳴り止まぬ拍手と歓声が贈られていた。
***
520 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 22:26:39 ID:???
「……純白のブーケ賞、か。『五月の花嫁』には届かなくて、残念だったな」
「い、いえ! とんでもないです!」
ぶんぶんと首を振る、少女の手には小さな硝子細工が輝いている。
繊細な花々の束とそれを包む紙を模した硝子に、木製の台座が据え付けられた置物。
サウスドルファン駅前を紅く染め上げる夕焼けに照らされたそれは、コンテストの入賞者に贈られる
ささやかな賞品であった。
「本当に私なんかがこんなに素敵なもの、いただいてしまっていいのかって思うくらいですから……」
「な〜に言ってんだ」
帰り道、少女が身につけているのは既に淡い黄色のドレスではない。
元の通り、若葉色のブラウスと薄桃のショール、紅色のスカートという姿に着替えている。
戸惑ったような表情を浮かべるソフィアに、森崎がおどけて言った。
「あのとき、あの歌は掛け値なしに俺に響いた。いや、俺だけじゃねえ。あの会場にいた全員に、
そいつは伝わったんだ。観客席のど真ん中にいた俺が保証する」
「そんな……」
「だからソフィア、そりゃ君に与えられた正当な評価の印だ。素直に受け取っときな」
「……はい」
森崎の言葉に、夕日に照らされた頬を更に赤くしたソフィアが、手にした硝子細工を
抱き締めるようにしながら、足を止める。
どうした、と振り返る森崎を、ソフィアの真っ直ぐな視線が捉えていた。
521 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 22:27:40 ID:???
「今日は……すごく。すごく、楽しかったです。ううん、それだけじゃなくて……」
言葉を探すように。
「なんて言ったらいいんでしょう。その……私でも、ちゃんとできるんだ、って……。
やりたいこと、やりたいって言うの、楽しい……って。変な言い方ですけど、その」
小さく頷いて。
「歩ける、って。私でも、前に歩いていけるんだって。そういう風に、思えたんです、今日。
だから、私……今日のこと、忘れません。きっと、ずっと」
そう、言った。
夕陽の朱を従えて、それはとても清らかで、触れればたちまちに砕けてしまいそうに繊細な、一瞬。
「―――」
手を伸ばしたいという衝動と、その一瞬を崩してはならぬという情動と。
その二つが森崎を板挟みにして、あらゆる行動を封じる。
「……って、あ、あの!」
言葉を失った森崎の、その表情をどう受け取ったものか。
ソフィアが慌てたように手を振って、口を開く。
揺れる硝子細工が夕陽に煌めいた。
「す、すみません、今日はこの街をご案内させていただくって、お誘いしたんですよね。
なのに私、自分のことばっかりで……! こんなんじゃ、その!」
「いいや」
わたわたと表情を変える少女に、森崎が苦笑しながら言葉を遮る。
522 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 22:28:44 ID:???
「いや、俺も楽しかった。そいつは間違いないぜ」
「そう、ですか……?」
「ああ、君のおかげだ」
頷いてみせる森崎。
なら良かった、と文字通りに胸を撫で下ろしたソフィアが、ふと表情を変えて口を開いた。
赤い頬と、どこか真剣な瞳。
「あの、モリサキさん。宜しければ、途中まで……」
言いかけた、そのときである。
「―――おい、そこのお前ぇ!」
ひび割れたダミ声が、少女の言葉を街の喧騒ごと断ち切るように響いていた。
反射的に振り返った森崎の目に映ったのは、声に違わぬ姿である。
だらしなく着崩されたシャツに無精髭、緩められたベルト。
無造作に乱れた髪の下から覗く澱んだ目は、夕暮れにも明らかなほど赤く充血している。
酒焼けした鼻を擦りながら森崎を睨みつけるその姿は、どこからどう見ても薄汚い酔いどれである。
「聞ぃ〜てんのかぁ!? お前だぁ、黒髪野郎ぉ」
呂律の回らない口調で何事かを呟きながら歩を踏み出す、そのたびに左の半身だけが沈む。
右の足を傷めているのか、左足だけに重心が偏っている証だった。
そんな酔いどれを前に、森崎は―――
523 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/06/28(木) 22:29:46 ID:xNFCHdok
*選択
A 「何か用か、おっさん」 適当にあしらう。
B 「……」 無視する。
C 「おいおい、大丈夫か」 思わず手を貸そうとする。
森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『6/29 23:00』です。
******
五月ももうすぐ終わり……といったところで
少し早めですが、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
お付き合いありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。
524 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/06/28(木) 22:34:36 ID:???
【ピココール】
この酔っ払い、ただの酔っ払いだと思うか?
それとも、スリや暗殺者の類に見えるか?
525 :
ピコ
◆ALIENo70zA
:2012/06/29(金) 00:28:11 ID:???
>>524
お酒のニオイはプンプンするけど、犯罪のニオイはしないね……。
あれ? そういえばどっかで「足を傷めた人」の話を聞いたことがあるような……?
526 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/06/29(金) 10:32:41 ID:???
Cソフィアから父親が戦場で脚を傷めたってのは聴いてましたし、この酔っ払いが文句付けてる相手は森崎だけなんですよね。
だからこの酔っ払いはソフィアの父親の可能性が高いと思います。
それに戦場で負傷して身体が不自由になるってのも森崎にとっても他人事ではないですしね。
527 :
◆W1prVEUMOs
:2012/06/29(金) 18:14:51 ID:???
C
ソフィアの父親の可能性が高いから
ピココール超便利!
だけどピココール無しで「足を傷めた人」にピンと来るようにならなきゃな…orz
528 :
◆W1prVEUMOs
:2012/06/29(金) 21:11:03 ID:???
待てよ、父親の問題はナイーブなことらしいから、もしかして関わるのは危険か?
Bに変更します
529 :
Q513
◆RZdXGG2sGw
:2012/06/29(金) 21:21:47 ID:???
A
理由はどうあれ、昼間っから飲んだくれているような相手に因縁をつけられているわけで
「組みしやすし」と思われるのは避けたい
というわけで丁重にではなく、少し強気に出てみる
530 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/06/29(金) 21:22:11 ID:???
EPはCPと比べて簡単にたまるし、積極的に仕掛けていったほうが良さ気だねー。
あくまで【ピコの視点】でしかないわけだけど、それでもヒントとしては超有用だ。
シリアスなスレで多くの悲劇は【プレイヤーの見落としやスレ主との意識・解釈の違い】で起きてたから、
それを未然に防げる確率が高いのは超嬉しい。
531 :
Q513
◆RZdXGG2sGw
:2012/06/29(金) 21:24:37 ID:???
……あ、夕暮れでしたね。では「昼間っから」の部分はなしということで
532 :
見てる人
◆S/MUyCtQBg
:2012/06/29(金) 21:32:14 ID:???
C ソフィアの前だし、大人の対応力を見せつけてやるぜ。
ピココールにて、危険は無さそうだし。ソフィア父の可能性あるし。
513KB
続きを読む
掲示板に戻る
全部
前100
次100
最新50
名前:
E-mail
(省略可)
:
0ch BBS 2007-01-24